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『光秀の定理』垣根涼介

NHKの2020年大河ドラマ『麒麟がくる』は明智光秀が主人公だ。
「本能寺の変」の現場には一切触れないで明智光秀を語るという試みを、本書は見事に成功させた。本書には凡庸の歴史小説とは異なる鋭さと輝きがある。

恐ろしく腕の立つ武芸者(新九郎)と世を悟っ切った僧侶(愚息)が、光秀と酒を酌み交わし軽口を叩く間柄になった。


光秀の定理 (角川文庫)

光秀の定理
posted with amazlet at 20.02.06
垣根涼介
角川文庫
2016年 ✳︎9

明智家は斎藤道三の親子喧嘩(道三崩し)のあおりを食って一族は離散した。光秀は室町幕府の再建と一族離散からの失地回復という夢を抱いている。37歳のときに信長に仕えた。
光秀は室町幕府から信頼され、室町風の典麗故事に精通している。兵術・兵法に優れ、見目涼しく挙措穏やかで、経験も知識も豊富にある。上洛した際には織田家の対外折衝役としてうってつけの人物である。
信長から光秀は重宝がられ、破格の待遇を与えられた。そうしてとんとん拍子に光秀は出世する。

タイトルの「定理」とは、愚息の博打理論のことである。四つの椀の一つに石ころを入れ、相手に石が入ったと思う椀を選ばせる。愚息が石の入っていない二つの椀を除き、残りの二つの椀から再び相手に石の入った椀を選ばせる。この手順で賭けの回数を重ねていくと、親である愚息が75%の確率で勝つという。
この理論を使って、光秀は山の頂にある城を攻める4本のルートのうち、敵兵がまったく待ち伏せていないルートを選び出し、落城に成功するのである。
「モンティ・ホール問題」として知られる「ベイズの定理」の応用例というのだが、愚息が75%の確率で勝つというのは、どうにも納得できない。

それはおいておくとして、「本能寺の変」から15年後、新九郎と愚息は光秀の思い出を語る。なぜ、光秀は信長を殺さねばならなかったのか。秀吉も柴田勝家も信長を殺さなければならないと一度は思ったはずだという。
光秀軍の中核は明智系美濃源氏の郎党で占められた、いわば血族の連盟だ。家来たちには命を賭しても主君に従うという覚悟があった。しかし秀吉と柴田勝家には家来たちとの間にそのような信頼関係はなかった。したがって、信長を討つことは光秀だけが可能であったという。

信長はすべてを討伐した後、織田王朝を作るという「空恐ろしいこと」を考えていたのではないか。やがて御身は天子を超え、唐の皇帝のごときものに御成になる所存だろうという。光秀は座して独裁者が君臨する未来を待つよりも、たとえ勝算は低くとも、本能寺を襲う賭けに出たという。これが新九郎と愚息の見解である。→人気ブログランキング

光秀 歴史小説傑作選/細谷正充 編/PHP文芸文庫/2019年
光秀の定理/垣根涼介/角川文庫/2016年
室町無頼/垣根涼介/新潮社/2016年

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