コロナの時代の僕ら
著者は25歳の若さでイタリア最高峰の文学賞とされるストレーガ賞を受賞した気鋭の小説家で、大学では物理学を専攻していたという。本書は27篇のエッセイと著者のあとがきからなる。
COVIT-19の感染について書いた時によって、感じ方は変わっただろう。27篇のエッセイは2月29日から3月4日まで『コリエーレ』紙に掲載された。2月25日に323人だったイタリアの感染者数は、2月29日1129人、3月4日には3089人になった。感染者数が爆発的に増えたのはそのあとである。
![]() パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介 早川書房 2020年 |
そして、著者あとがきの「コロナウイルスがすぎた後も僕が忘れたくないこと」が掲載されたのが3月20日。イタリアでCOVIT-19の流行が始まってから1ヶ月間を振り返った内容になる。3月20日の感染者数は47,021人、死者数は4,032人。この時点でイタリアの医療は完全に崩壊していた。
最近(4月27日)の状況は、感染者数197,675人、死亡者数26,644人で、感染者数は頭打ちになっているとされている。
イタリアが最悪の事態になる前に書かれた文章は、余裕がありユーモアすら感じられる。
<いったん終息すれば過去に流行した多くの感染症を犠牲者の数で上回ることはないだろう>との予測を述べている。しかし、その予測は必ずしも当たっていなかったことがわかる。
物理学を専攻した著者ならではのテーマを扱ったのが「感染症の数学」「アールノート」である。数学的に感染を減らすにはどのように考えるべきなのかをクリアカットに論じている。いま日本で実践を推奨されている「接触を80%減らす」につながる理論的根拠が示されている。
あとがきの「コロナウイルスがすぎたあとも、僕が忘れたくないこと」は、爆発的に感染が拡大した頃に書かれたもので、説得力があり感動させられる。〈すべてが終わった時、僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのか。もとに戻ってしまわぬように、この苦しい時間が無駄にならぬように、元に戻って欲しくないもののリストを作っておく〉ことを提案している。
本書は世界27カ国で発売されたという。間違いなく世界的ベストセラーになるだろう。著者は印税の一部を医療機関および感染者の医療に従事する人々に寄附するという。→人気ブログランキング
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