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『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』ル=グウィン

双方向性というブログの機能に抵抗があってそれまでブログを書くことを敬遠してきたが、ジョゼ・サラマーゴ(ポルトガルのノーベル賞作家)のブログを読んで、81歳のときにブログをやってみようという気になったという。本書はそのブログを書籍化したもの。年齢を感じさせない分析力、さらに年齢を重ねたからこそ導き出せる説得力のある言葉がつづらている。
本書のタイトルは、母校のハーバード大学から卒業生に送られてきたアンケート用紙の質問のひとつ「余暇には何をしているか?」に答えたもの。筆者はファンタジー作品『ゲド戦記』や『所有せざる人々』『闇の左手』といったSF作品のほか、思慮深い考察に基づいた評論やエッセイを数多く書いている。

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暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて

アーシュラ・K・ル=グウィン/谷垣暁美
河出書房新社
2020年1月
10✳︎

本書は四部に分かれている。
第一部のタイトルは「80歳を過ぎること」
この章は、年寄りになった人(著者によれば70代80代の人、生きているだけで上等な人びと)あるいはその予備軍の人びとに、共感できる内容になっている。
アメリカでとても栄えているポジティブ・シンキングを信用しないという。年寄りになったら、若者にはできない年寄りをやらなくてはならないという。
オスの愛猫パードとの生活について多くのページが割かれていて、著者の目と猫の目線から人間と猫の関係を語る。

第二部「文学の問題」では、アメリカ人は「シット」や「ファック」という言葉を使わずに生活できないものかということを、「ウッジュー・プリーズ・ふぁっきんぐ・ストップ?」で触れる。「ファッキング」「シット」の罵り言葉が子供の頃に比べ、徐々に活字になり頻回に使われるようになってきた。そしてそれらを頻回に使うあまり、その2語がなければ話すことも書くこともできなくなってきていることは不思議なことだ。「シット」は言葉の響きに頻回に使う秘密がありそうだが、「ファック」という言葉には支配、虐待、軽蔑、憎悪の響きが強くあるという。アメリカ人はなぜこうも汚い言葉を日常的に使うのだろうと、つねづね思っていたが原因解明にはいたってない。
「TGANとTWON」は、タイトルに言葉遊びの感があるが、ザ・クレート・アメリカン・ノベル(TGAN)は何かといえば、『ハックルベリー・フィンの冒険』であり、『怒りの葡萄(TGOW)』を挙げる。

第三部 のタイトルは「世の中を理解しようとすること」
反抗的なはみ出し者が主人公(ヒーロー)になっている児童書は枚挙にいとまがないという。子どもであるヒーローは、周囲の偏狭で威圧的な社会と愚かで鈍感で意地悪な大人たちに対して反抗的である。ホールデン・コーンフィールドがその例であり、ピーター・パンは彼の直系の先祖にあたる。トム・ソーヤには子どもと共通する要素がある。ハックルベリー・フィンもそうだという。
さらに「怒りについて」では、フェミニズムについて論じる。ヘミングウェイ、フィリップ・ロス、ジェームス・ジョイスが嫌いで、褒める記事を見ると怒りを感じるという。一方、好みの作家を褒める記事をみるとその日一日が幸せだという。

第四部 のタイトルは「報酬」
「卵抜き」では、ゆで卵をイギリス・ヨーロッパ式に卵立てにおいて食べるとき、卵の大きい端っこ上にするか小さい方を上にするかで論争があるという。『ガリヴァー旅行記』ではこの論争で戦争になったほどだ。ちなみに著者は「大きい端っこ」派。卵の殻をうまく壊す注意が完璧であるほど、卵がよく味わえるという。こんなささいなことでも突き詰めれば、それなりの理由があるもの。

「報酬」は、何を意味するのか。著者が生み出したファンタジーやSFを筆頭に文学、広くは芸術について述べている。サンタクロースがいると信じることで、心が豊かになるということだろう。→人気ブログランキング

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