悪女について 有吉佐和子
一代で財を成した美貌の女性実業家の半生を、27人の証言で描く。それぞれの打明け話により、じわじわと女性の実像が明らかにされていくミステリ仕立ての傑作。
富小路公子が亡くなった。週刊誌をはじめとするマスコミが、ある事ない事を面白おかしく報道する。なにしろ、公子が出演すれば視聴率が上がると、テレビのワイドショーでは引っ張りだこだった。謎に包まれた大金持ちは、週刊誌にとって格好のネタだ。ネグリジェ姿でマンションから転落した。自殺なのか他殺なのか。
![]() 悪女について 有吉佐和子 新潮文庫 1983年 ✳︎10 |
公子は小学生時代は「鈴木君子」という名前で八百屋の娘だった。中学3年の時に父親が進駐軍のジープにはねられて亡くなり、君子と母親は同級生の女子の家に転がり込んだ。君子は女中としての仕事をこなし、中学を卒業するまでその家にいた。その間に同じ屋根の下で暮らす同級生の兄と親密になり、君子の母親が「娘に手を出した」と騒ぎ出した。
その後、君子は宝石店に勤め夜間は簿記の学校に通った。そこで知り合った学生と同棲し妊娠した。
6年後に同棲相手の男が別の女性と結婚しようと戸籍を取り寄せると、驚くことに男はふたりの男児の父親となっていた。
君子は男の実家に乗り込み、落ち着いた口調でそれとなく慰謝料を請求した。
君子は、その金を元手に不動産で儲け、宝石を扱う商売をして成功し、いつの間にか富小路公子と名乗るようになった。まわりには、華族のご落胤であるかのように思わせた。ゆっくりと落ち着いた口調と上品な所作、それに気配りが行き届いていて人との付き合いはそつがなく、そうした経歴であってもおかしくないと周りの人々に思わせた。公子を悪く言う人物はいない。
ふたりの息子たちは公子が建てた豪邸で祖母と暮らしている。公子は自分をもらいっ子だと息子たちに伝えていた。公子が人に話す生い立ちと真実は異なる。
公子の展開する事業は順調で、自社ビルの屋上階に女性相手の会員制美容クラブを立ち上げた。若いハンサムな男がマンツーマンでマッサージをすることを売りに、セレブ達がこぞって入会する人気のクラブになった。
そしてテレビのコメンテーターとしてマスコミに登場する。
ふたりの息子の述懐で、ことの真相が明らかになっていく。
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