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『感染症の世界史』石井弘之

人類の歴史は感染症との戦いの歴史でもあり、各世紀にはそれぞれの時代を背景にして世界的に流行した感染症があった。13世紀のハンセン病、14世紀の「黒死病」と呼ばれたペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20~21世紀のインフルエンザとエイズである。

新型コロナウイルスが世界を席巻するなか、本書は急遽増版されベストセラーになった。コンパクトな文庫ながら感染症の歴史を網羅的に言及し、ある程度深くまで掘り下げている。オマケとして、各項で取り上げられた感染症に罹患した著名人のリストが載っている。

Photo_20200523123501感染症の世界史

石井弘之
角川ソフィア文庫
2018年 ✳10

歴史上、戦争で死亡した将兵の少なくとも1/3から半数は、病死だったと推定されるという。その中で感染症の占める割合は圧倒的に多い。
日本では、日露戦争で戦死した5万6千人のうち約半数は病死だった。第一次世界大戦中の総死者数972万人中589万人つまり60%が、戦病死者だった。特に連合国軍、同盟国軍の双方にスペインかぜの感染が爆発的に発生した。戦死者の1/3はスペインかぜによるものだった。第二次世界大戦中、日本軍はルソン島で5万人以上、インパール作戦では4万人、ガタルカナルでは1万5千人がマラリアで死亡している。

今後の人類と感染症との戦いを予想する上で、最も激戦が予想されるのは、中国とアフリカであろう。いずれも公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
新興感染症(エマージング感染症)といわれる新たな感染症が、次々に出現している。マールブルグ、リフトレバー熱 、ラッサ、エボラ出血熱、西ナイル熱、エイズ、SARSなど、新興の感染症は1950年代末から約40種類知られている。

これらのウイルスは豚、牛などの家畜や、ネズミ、コウモリ、野鳥などの野生動物が保有するウイルスに由来するものが多い。ウイルスは何回も変異を繰り返しているうちに、宿主から飛び出して他の種に乗り移り、うまく定着できるものが現れる。SARSの原因になったコロナウイルスの仲間が、人間にこれほど恐ろしい病気を引き起こすという認識は全くなかった。動物から人間に移ったときに凶悪化した。

スペインかぜのゼロ号患者には、アメリカ・カンザスシティ説が有力であった。そのほか、フランス説、中国説がある。2013年、カナダのメモリアル大学、マーク・ハンフリー教授は、第一次世界大戦中に英仏軍が西部戦線で9万6000人の中国人労働者を使っていた史実を発掘した。米国の基地で流行する前に、スペインかぜとみられる呼吸器病が中国国内で流行っていた記録があった。
第一次世界大戦の中立国のスペインは、800万人が感染した。他の多くの国が情報を統制していたが、スペインだけは流行が大々的に報じられ、スペインかぜと呼ばれるようになった。
当時の世界の人口は18億人だが、少なくとのその半数から1/3が感染し、世界の人口の3~5%が死亡した。日本は2300万人が感染し、38万6千人が死亡した。
第一次世界大戦はスペインかぜにより終結を早めたといわれている。

熱帯や亜熱帯の森林が伐採され、野生動物と家畜や人間が近づきあるいは接触し、ウイルスによる感染症が家畜や人間に広がり、そして家畜から人間に感染が広がるようになる。ウイルスは変異し感染力が強くなり致死率も上がる。
こうした、パンデミックに至るウイルス感染症は自然災害であるとする。

日本と他の先進地域とのワクチン行政の差は「ワクチン・ギャップ」と呼ばれている。「ワクチンで防げる感染症」の予防についての日本の国際的評価は、先進地域の中で最低レベルにある。はしか、水ぼうそう、おたふくかぜ、結核などが流行するのは、先進国で日本くらいのものだ。→人気ブログランキング

 

コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症 増補版/井上栄/中公新書/2020
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

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