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2020年6月

深夜勤務 スティーヴン・キング

本書の冒頭で、ホラー小説を書く理由を述べている(→『深夜勤務』はしがき)。小説の中で、ホラーを下位に見る傾向について、あえて否定せずに、淡々と意見を述べている。この表紙イラストは、いまや消えつつある。幼児虐待のニュアンスがあるからだろうか。

Photo_20200629140301ナイトシフト1 深夜勤務
スティーヴン・キング/高畠文夫
扶養社ミステリー
1988年

「地下室の悪夢」Graveyard Shift (1970年)
暑い日に4日かけて地下室の大掃除をすることになった。作業は臭くて汚くて重労働だ。掃除が進むと地下2階があることがわかった。まるまると肥ったネズミたちの巣窟に強力噴射のホースを持って降りていく。
本作は、『死の舞踏 恐怖についての10章』のホラーの分類によれば、「ウゲッ」というホラーとしては最も低級な要素と「化け物」の複合型である。

「波が砕ける夜の浜辺で」Night Surf 1974年
インフルエンザA6型が猛威ふるっている。ニューヨークからやってきた男は、頭がフットボールのように膨れ上がり、ひどい幻覚症状に見舞われていた。海辺でその男を焼いた。クリスマスまでには全員が死んでいるだろう。

「やつらの出入り口」I am the Doorway 1971年
金星の周回から地球に戻ってくるときに、パラシュートが開かずに大ケガを負った。なのとか復帰すると手に寄生した異星生物の眼球が現れた。やつらの出入り口にさせられたのだ。

「人間圧搾機」The Mangler 1972年 1971年
蒸気と湿気でむんむんするクリーニング工場の圧搾機が女性を巻き込んで殺した。それまでにも事故が起きていた。圧搾機が指を切った処女の血を吸ったことが原因と突き止た。悪魔払いの儀式を行うが圧搾機の返り討ちにあう。

「子取り鬼」The Boogeyman 1973年
男は医師に自分の3人の子どもを殺してしまったと言った。「子取り鬼だ」と叫んで子どもたちは死んでいったという。部屋のクロセットはわずかに空いていたという。

「灰色のかたまり」Gray Matter 1973年
父子家庭の父が腐ったビールを飲んでから窓のブラインドを落とすようになったという。臭くなり光を嫌い灰色の塊になっているという。雪の降る日、息子がビールを父のために買いにきたが、主人公とヘンリーはビールを届けにアパートに向かった。ヘンリーは45口径のピストルを携帯した。

「戦場」Battleground 1972年
キング版ガリバー旅行記。

「トラック」Trucks 1973年
高速道路のパーキングエリアで、トラックが人間を襲おうとする。ガソリンが尽きてきたトラックたちは、給油をねだる。火炎瓶をトラックに投げつけたところ反撃を受けた。
本作は、スティーヴン・キング自身の脚本・監督により映画化されている『Maximum Overdrive』(1986年) 、邦題は『地獄のデビルトラック』(1987年)。

「やつらはときどき帰ってくる」Sometimes They Come Back 1974年
ジムは高校の英語の教師になっていた。ジムの授業に集まった連中は半分が問題の生徒だった。20年前に、ジムが兄とともに3人組に脅され兄が殺された。犯人はうやむやになったままだった。その3人が転校してくる。

「呪われた町」〈ジェルサレズ・ロット〉Jersalem's Lot 1978年
その町に住む人間も住もうとしている人間もきちがいになろうとする人間だと噂されていた。呪われた町に暮らしていた先祖の話。

英語版の『Night Shift ナイトシフト』は、日本語版では『深夜勤務』『トウモロコシ畑の子どもたち』の2冊に分冊。『Skeleton Crew スケルトンクルー』は『骸骨乗組員』『神々のワードプロセッサー』『ミルクマン』の3冊に分冊されている。→人気ブログランキング

キャリー   キャリーDVD
ミザリー
ファインダー・キーパーズ
ミスター・メルセデス
ジョイランド
11/22/63
アンダー・ザ・ドーム1~4/文春文庫
ダークタワー IV1/2 鍵穴を吹き抜ける風
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 下
ダークタワー IV 魔道師と水晶球 上
ダークタワー III 荒地 下
ダークタワー III 荒地 上
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 下
ダークタワー Ⅱ 運命の3人 上
ダークタワーⅠガンスリンガー
幸運の25セント硬貨
ビッグ・ドライバー
1922
第四解剖室
神々のワード・プロセッサ
夕暮れを過ぎて
いかしたバンドのいる街で
スタンド・バイ・ミー(DVD)
ジェラルドのゲーム
ドランのキャデラック
深夜勤務(ナイトシフト1)はしがき
深夜勤務(ナイトシフト1)
書くことについて
死の舞踏 /ちくま文庫/2017年

新型コロナVS中国14億人 浦上早苗

中国は、民主主義国家では到底できない人権無視の政策を断行してきた。1月24日からの春節の前に武漢をロックダウンし、中国全土で人の集まる場所を公共・民間を問わず閉鎖し、コロナの封じ込めに成功した。中国を「隠蔽で初動が遅れ、ウイルスをばらまいた国」という一面のみでとらえるべきではないという。

中国が感染の中心だった頃は、中国の強権的なロックダウン、テクノロジーを駆使した行動監視システムに対し、人権のない国だからできると揶揄されたが、今や多くの国で中国方式を取り入れている。この強権的な対策は、政治家ではなく医師らの提案によるものだという。

Vs14 新型コロナVS中国14億人

浦上早苗
小学館新書
2020年6月 10✳

突貫工事でコンテナ病院が建設された。5Gを用いた通信システムにより、遠隔診断し治療法が指示された。医療用ロボットが体温測定や消毒、医療品の運搬を行った。スピーカーを搭載した5Gドローンが住宅地を巡回し、おしゃべりしている人やマスクをつけていない人を家に追い返した。
PCR検査なしでもCT画像からコロナを診断してもよいとされた。アリババ・グループのAI技術が、CT画像から20秒で診断する。その的中率は96%だという。3月上旬までに中国の160の病院で採用された。

2月11日、アリババ提供の行動監視アプリ「健康コード」が杭州で導入された。赤・黄・緑で表示され、緑であれば自由に行動ができ、黄は1週間、赤は2週間の自宅待機が要請される。このアプリにより、身元を隠して暮らしていた人たちが行き場がなくなり指名手配者が自首してきたという。また不正給与支払いが発覚した。

日本の厚労省が「新型コロナウイルス接触確認アプリ」を提供したのは、6月19日。なんだか腹立たしいくらい遅い。こうしたアプリは60%の人々が登録しないと、有効ではないというから、日本でこの接触アプリがまともに機能することはないだろう。

新型コロナウイルスの存在は12月31日に確認され、1月3日にはワクチン株が分離され、7日に国連にも提供されている。
2月27日に、初動の遅れを新型コロナ対策ハイレベル専門チームの鐘南山氏(83歳)が批判している。SRASで陣頭指揮をとった鐘氏は、政府を批判したことで人々に支持され、精神的支柱となった。中国では人々は政府を信用していない。医師をはじめとする医療人と企業を信用したのである。

企業がコロナ対策に寄与した。決済アプリ「アリペイ」に、医療関係者に相談できる無料医療相談機能が追加された。
出前アプリのEle、me、ハイテクスーパーのHema、オンライン旅行のFliggy(飛猪)、口コミサイトのKoubei(口碑)が、武漢の医療関係者に食料や生活用品を手配した。
Fliggyが武漢の宿泊施設に無料で宿泊できるように呼びかけ、3000以上が協力した。
地図アプリ会社は医師たちの無料送迎を行った。

中国の新型コロナ累計死者数は4632人と、従来の3342人から修正された。4月16日時点の累計確認症例数は8万2692件となっている。
例えば、広東省は1億2千万の人口だが、感染者は1600人、死者は8人で、同じ規模の東京よりはるかに少ない。
情報が透明でなかろうと、中国は新型コロナの封じ込めに今のところ成功してるといえるだろう。

ヨーロッパ、中東やアフリカ諸国にマスクや防護服、PCR検査機器、人工呼吸器などを援助物資として送ったが、多量の粗悪品が含まれていて中国に送り返されたという。政府は製品検査を厳格化して、劣悪な製品をつくる企業を淘汰する。中国は恥をかいても前へ進んでいく。恐ろしい国だ。

著者は経済ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。1998年から西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年に中国大連の東北財経大学に国費留学した。その後大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に翻訳や執筆を手がける。法政大学イノベーションマネジメント研究科講師。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

公園に行かないか?火曜日に 柴崎友香

著者は、アイオワ大学で催されたインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。期間は2016年8月20日から10週間、参加した作家は33か国から37人。その約3か月間の滞在記を、エッセイ風の連作短編に仕上げた。
英語が堪能でない著者は、英語しか通用しない世界で、生活するだけで相当のエネルギーを費やす。ことさら言葉に思いがいき、英語と日本語の意味のギャップを掘り下げて考察する。

今までにIWPに参加した日本人は、中上健次(1982年、『アメリカ・アメリカ』)、水村美苗(2003年、『日本語が滅びる時』)、中島京子(2009年)、藤野可織(2017年)、そして著者。2018年には、滝口悠生が招聘され、『やがて忘れる過程の途中』というエッセイ集を書いている。(『』内はIWPについての著作)。
中上健次のなんでも吸収しようとする渇望感や、何かを発信しようするエネルギーは、本書にはない。そういう時代はとっくに終わったのだということを知らしめる。

Photo_20200623143801公園に行かないか?火曜日に

柴崎友香
新潮社
2018年

「公園に行かないか?火曜日に」
アメリカの町は自然に従うよりも合理性をとって碁盤の目のように道を通す。アイオワシティもその例に漏れず、急に登りになって直角に曲がったりする。
公園にいかないかと、ラインで誘いがあった。
ぬかるみもありけっこう長く歩いて森を抜けると、スキー場のようななだらかでのっぺりとした斜面に出た。終わりは見えないほど広かった。

「ホラー映画教室」
アイオワ大学は敷地の境界がない。大学が民間の家を買い上げて、町の中に大学の施設があったりする。デイ・ハウスの地下で『シャイニング』を上映するというので、香港から来たヴァージニアと出かけた。会場にたどり着く様子や、女性が夜道を歩くこと、ドアを開ける音など、タイトルらしい出来事が綴られる。

「It would be great!」
アイオワシティには鉄道の駅がないから町の中心をいつまでもつかめないという。
greatは、文脈によって微妙にニュアンスが違う。つまりgreatだけれど、ぜんぜんgreatじゃないことがある。

「とうもろこし畑の七面鳥」「ニューヨーク、2016年11月」「小さな町での暮らし/ここと、そこ」「1969年 1977年 1981年 1985年そして2016年」「ニューオリンズの幽霊たち」「わたしを野球に連れてって」「生存者たちと死者たちの名前」

「言葉 音楽 言葉」
ボブ・ディランのノーベル賞受賞が発表された。なんでボブ・ディラン? ほかにとるべき人がいるのにと、少し議論になった。
何かをするたびに、グレイト! パーフェクト! 大げさだと思っても、英語での生活に苦労している身にとっては、励まされるという奇妙な心境になる。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

女たちよ! 伊丹十三

男性優位の立ち位置から蘊蓄を披露する。アルコールの飲み方、食の様々、料理のノウハウ、車の運転、ファッション、男の生き様などについて、著者独特の視点で書かれている。
カバー装画、文中の差し込みイラストも著者が描いたもの。

1963年、単行本が出たときに買った。文庫になったときに再び買って、今、めくると黴臭くてくしゃみが立て続けに出た。それでもう一度買った。前の東京オリンピックの前年に刊行されたというのに、およそ時代の古さを感じさせない。
話の舞台は主にイギリスとフランスとイタリア、それから日本。アメリカはほぼ出てこない。英仏伊が礼賛され、アメリカは陽気だけれど大雑把というか雑、文化的に後進の国という位置づけだった。当時、アメリカはバカにされるようなネタが多い国だった。
Image_20200621092401 女たちよ!

伊丹十三
新潮文庫
2005年

料理については、「男子厨房に入るべがらず」と男から料理を遠ざけ、またそれにあぐらをかいて家事の全般にわたり何もしなかった男どもを、料理への免罪符を与えた画期的な本だ。ならば、下働きから主役まで一切を本気で正統にやろうというのが本書のコンセプトだ。
例えば、超一流料理人にから伝授された包丁の持ち方、使い方を紹介する。
スパゲッティ・カルボナーラーはどこそこのスパゲッティ屋がうまいぞとかいう話は、日本におけるラーメン屋と同じで、労働者の食べ物であり、その調理法を紹介する。
イタリア料理は家庭料理の延長上にある。フランス料理や日本料理は家庭料理とのギャップがあると、比較料理論を披露する。いやー、納得する。

日本人の散髪したての頭はなぜみすぼらしのか。欧米人と後頭部の髪の生え方が違う。欧米人は後頭部の毛髪の生え際は高いが、日本人は低い。それで襟筋を刈り上げる。

軽妙洒脱、ユーモアがあって、えっそうなのなるほどと思わせる、何度読んでも面白い。→人気ブログランキング

ウイルスは生きている 中屋敷 均

妊婦にとって異物である胎児は妊婦の免疫システムの攻撃対象とはならない。それを可能にしているのが、胎盤の絨毛を取り囲むように存在する合法体性栄養膜という特殊な膜構造である。合胞体性栄養膜の形成に重要な役割を果たすシンシチンというタンパク質が、人のゲノムに潜むウイルスが持つ遺伝子に由来するという。
そうした例は他の生物にもみられる。

人の遺伝子に入り込んだウイルスに触れる。インフルエンザ・ウイルスついて語り、ウイルスの基本構造や転写のメカニズム、さらに生物に有利に働くウイルスについて触れる。最後は、結晶化するウイルスが生きているかどうかについての著者の見解が示される。
Image_20200617111201 ウイルスは生きている

中屋敷 均
講談社現代新書
2016年

ウイルスの形態については、ウイルス粒子を包むエンベロープを含めて「ウイルス粒子」と呼ぶ。エンベロープタンパク質がエンベロープに突き刺さるように配置されている。これが宿主のレセプターと結合し、エンベロープは細胞膜と同じ構造であり、宿主細胞にスムーズに侵入することができる。エンベロープはリン脂質からなる細胞膜でできているから、石鹸が効果がある。
インフルエンザ・ウイルスに石鹸が効果があり、胃腸炎を起こすノロウイルスはエンベロープを持たないため石鹸の効果がない。

世界はウイルスだらけだ。地上も海中も、生物の中にも生物のゲノムの中にもウイルスの遺伝子が潜んでいる。
巨大化したウイルスも、ウイルスと呼んでいいのか迷う半端なものまで、ウイルスのスペクトラムは広い。

最後に、ウイルスが生きているかどうかについて、「ガイア仮説」と絡めて考察する。ガイア理論は、ジェームズ・ラブロックにより1960年代に提唱された。地球全体を地球と生物が相互に関係しあうある種の巨大な生命体とみなす。
結晶化するウイルスが提示されて以来、ウイルスには生きていないとされる論調が多数派を占めるようになった。
DNA情報からなる「ヒト」としての「生」と、脳情報からなる人格を有した「人」としての「生」を分けて考えるべきだという。ふたつは密接な関係にあるが別のものだという論理を展開する。→人気ブログランキング

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

ペスト カミュ

ペストによってもたらされた不条理を目の当たりにした人びとはどう行動するのか。
1947年に発表されたカミュの第二作目である本書は、処女作『異邦人』や、カフカの『変身』や『審判』などとともに、不条理文学に分類される。

4月の朝、1匹の鼠の死から始まる。
やがて鼠の死体は町のそこら中で目につくようになり、鼠の死が収まると、高熱を発し鼠径部が腫れた病人が現れた。医師のリウーはアパートの門番が死ぬに至り、驚きが恐怖に変わった。そして惨劇が始まった。
最初は医師たちも市の執行者たちもペストと認めなかった。
しかし感染者と死者は増加の一途をたどり、ついには、人口20万人のアルジェリアの港町オランは封鎖された。

Image_20200613141901ペスト
アルベール・カミュ/宮崎峰雄
新潮文庫
1968年

患者は隔離するだけで、これといった治療法はない。累々と盛り上がった鼠径部のリンパ節を、除痛目的で切開するくらいだ。予防手段の血清は町に入ってこない。

6月には犠牲者が週1000名となった。
人びとはまったく妥協の余地のない状態のなかにあり、「折れ合う」とか「特典」とか「例外」とかいう言葉はまったく意味がなくなっていることを納得するまでには、多くの日数を要した。
人びとは多くの不都合を認めようとせず振る舞っていたが、やがて納得せざるをえないことに慣れていった。

埋葬は迅速に行われた。しかし、やがて食糧難の問題が起こってくると、人びとは作法通りに埋葬する要求すら考える暇がなくなっていった。そして最初は一人一人だったものが、やがて男用墓穴と女用墓穴が分かれていたが、ついには男も女も構わず折り重なるように投げ込まれ埋葬された。
8月には、埋葬場所が足りなくなった。
9月10月の2か月間、いつ果てるとも見えぬ状況が続いていた。

こうした先の見えない状況の中、疲れ切ったリウーは淡々と病人をトリアージし、鼠径部のリンパ節切開を行った。
牧師はペストが神の懲罰であり悔悛を説いた定形的なミサに見切りをつけ、病人の介護に手を貸す保健隊に入った。
町から脱出しようとあれこれ策略をめぐらしていた人物は、脱出を諦めた。
犯罪者はペスト禍にいれば、警察に逮捕されることもないと思った。

サッカー競技場の中は収容所になっていた。彼らは忘れ去られた人々であり、問題はそのことを彼らは知っていることだった。まるでそれは、死刑を待つ人びとの収容所の様相である。
こうして、常識が通用しない道理が通らない不条理が延々と続いたのである。→人気ブログランキング

コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ/岡田晴恵/幻冬車文庫/2019年
隠されたパンデミック/岡田晴恵/幻冬舎文庫/2019年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

アメリカ・アメリカ 中上健次

1982年秋、著者は、世界の36カ国から作家が集まって3か月を過ごすアイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラム(IWP)に招聘された。
レガノミックスの時代である。レバノンで大量虐殺があり、フォークランド紛争が勃発し、コロンビアのガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞した。
Photo_20200612081101アメリカ・アメリカ 
中上健次
角川文庫
1992年

著者は、IWPのプログラムは大した実りがないと判断し、ブルドーザーのようにまわりを巻き込んで突き進む。
文学の討論をするわけでもなく、病院のようなアパートでなまった英語て取り止めのないことを話すのが目的だと知れた。ペチャクチャしゃべるだけだ。
著者は、意欲的に自ら朗読会を催すと、ペチャクチャグループも参加するという。

著者はIWP参加者にインタヴューをはじめた。
インタヴューには、ヨイショのインタヴューと相手を怒らせて腹の中を覗くという方法があるという。インタヴューが5人目になるころには、インタヴューを待ち受けるようになった。
ちょうど、ガルシア・マルケスがノーベル賞を受賞したニュースが飛び込んできて、ラテン・アメリカの参加者たちは、マルケスの受賞に戸惑ったようだった。大家ボルヘスが受賞しないのはなぜかと訝った。

プログラムの最後には、IWPが用意した旅費付きの国内旅行を、車でやってみようと著者は思いつき、中南部アメリカを一人で駆け抜けた。

後半は、20世紀文学の巨匠ホルヘ・ルイス・ボルヘス、ジャマイカ出身のレゲエの先駆者ボブ・マーリーらへのインタビューが掲載されている。
ボルヘスとの対談は、著者がボルヘスを持ち上げたり、何かを引き出そうとしたり、懸命に立ち向かうのだが、ボルヘスは核心をジョークで受け流す。ボルヘスが著者を軽くあしらっているという印象である。

「書くこと」に真正面から取り組もうとするエネルギッシュな中上の本領が垣間見える。→人気ブログランキング

やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記) /滝口悠生/NUMABOOKS/2019年
公園に行かないか?火曜日に/柴崎友香/新潮社/2018年
日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で/水村美苗/ちくま文庫/2015年
アメリカ・アメリカ/中上健次/角川文庫/1992年

ナニワ・モンスター 海堂 尊

第1部では、キャメル・インフルエンザ・ウイルスによる感染症の広がりをあおり、浪速地区の経済に打撃を与えようとする動きに、難波府知事が敢然と立ち向かう。
第2部は、検察庁の覇権争いを描く。キャメル・インフルエンザ騒動の1年前である。
第3部は、著者の持論であるAi(Autopsy imaging、死亡時画像病理診断)を普及させることがテーマ。死後の解剖は遺族にとって簡単に承諾できるものではない。それが、CTやMRIであれば、同意のハードルは低くなる。死亡時にCTもしくはMRIで、死亡原因を特定すれば、医療事故も医療訴訟も激減するという。Aiを主導するのは医療側であって司法側ではないというのがキーワード。
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ナニワ・モンスター
海堂 尊
新潮文庫
2014年 ✳︎8

中東で、ラクダ由来のキャメル・インフルエンザが流行の兆しをみせ、厚生労働省は空港での水際作戦を展開した。
病気が日本に入ってきていないのに、「キャメル・ファインダー」という検査キットが、浪速診療所に配布されていた。
浪速大学公衆衛生学教室の本田苗子准教授は、浪速医師会の講演会でキャメル・インフルエンザについて講演し、テレビのワイドショーではこの新しいインフルエンザの脅威を強調した。感染力は強いが致死率は0.002%ときわめて低い。そんな弱毒のウイルスに警戒態勢をとる政策はやりすぎではないか。さらに本田准教授の経歴は簡素すぎて胡散臭い。

発熱患者が浪速診療所を受診し、キャメル・ファインダーで陽性を示した。PCR検査を行うと陽性であった。マスコミは過剰に反応し、ゴールデンウィークの海外渡航を控え、関西地区への観光を控えるようにと呼びかけた。
全国のキャメル発生患者が報告された地区と、サンザシ薬品が迅速検体キットを配布した地区と一致していた。
テレビでは、本田准教授はキャメル・インフルエンザ・ウイルスによる、パンディミックの発生を警告すると訴えた。浪速の町は人の行き来が少なくなり観光客の足が途絶えた。この浪速の危機に辣腕の村雨弘毅府知事が動き出す。

本書で著者が取り上げたのは膠着する日本の現状である。3部のそれぞれのエピソードは裏でつながっており、そこには霞が関コングロマリットの闇がある。著者は道州制をを論じ、霞が関主導の官僚体制を壊すことに話が及ぶ。→人気ブログランキング

チーム・バチスタの栄光/海堂 尊/宝島文庫/2005年

新型コロナVS中国14億人/浦上早苗/小学館新書/2020年
コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介/早川書房/2020年
感染症の世界史/石井弘之/角川ソフィア文庫/2018年
ウイルスは生きている/中屋敷均/講談社現代新書/2016年
ナニワ・モンスター/海堂尊/新潮文庫/2014年
首都感染/高嶋哲夫/講談社文庫/2013年
復活の日/小松左京/角川文庫/1975年
ペスト/アルベール・カミュ/宮崎嶺雄/1969年

『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット

東西冷戦の時代、反政府的とみなされ出版を阻止された『ドクトル・ジバコ』を、CIAはソビエト連邦の国民に読ませようと画策する。著者のボリス・パステルナークと愛人のオリガ、CIAのタイピストや諜報員たちの多視点一人称の文体で綴られる。
本書の原稿はオークションにかけられ、クノップ社が日本円で2億円の値をつけて落札したという。初版で20万部が刊行された折り紙付きの作品である。

それぞれの章を語る人物の役割や立場が各章のタイトル名になっている。例えば「タイピストたち」「ミューズ」など。ページが進むと、古いタイトル「ミューズ」は棒線で消され「矯正収容された女」などと更新されていく。

Photo_20200602084901
あの本は読まれているか

ラーラ・プレスコット/吉澤康子
東京創元社
2020年 ✳︎10

ソ連では共産主義体制に批判的な文化人や芸術家は拘束され矯正収容所に送られた。共産革命は特権階級を皆殺しにすることだ。
パステルナークが執筆中の『ドクトル・ジバコ』に体制批判の箇所はないかと、当局は神経を尖らしていた。パステルナークの愛人オリガは、作品を清書し、出版社との渉外役を一手に引き受けていた。当局はオリガを拘束し、作品に反政府的箇所がないかと聞き出そうとする。
はっきりした証拠のないまま、オリガは矯正収容所に5年間入れられることになった。
過酷で悲惨な収容所での生活が始まった。しかし、スターリンが亡くなったことで、オリガは刑が3年に短縮されて戻ってきた。

一方、ワシントンではイリーナがCIAのタイピストとして雇われる。ソ連を脱出する前にイリーナの父は拘束され、その後矯正収容所で亡くなった。妊娠していた母親はひとりでアメリカにたどり着きイリーナを生んだ。
CIAはイリーナをタイピストよりも諜報員としての素質を評価したのだ。イリーナにはベテラン諜報員のサリーが指導役にあてがわれた。

CIAソ連班のミッションは、『ドクトル・ジバコ』をひとりでも多くのソ連国民に読ませること。そのためには、原稿を手に入れロシア語で印刷し、ソ連国内に送り込まなければならない。
世界的名声を得ているパステルナークの『ドクトル・ジバコ』は、西側の出版社にとっては、是非とも手に入れ出版したい作品である。パステルナークはオリガの留守中にイタリアの出版社に原稿を渡してしまった。

西側の多くの人々がパステルナークを擁護すれば、なんとかなるかもしれないというパステルナークたちの甘い期待はあえなく潰えた。パステルナークはソ連作家委員会から除名処分を受けた。

イタリア語で出版された『ドクトル・ジバコ』は瞬く間にベストセラーとなった。
CIAはロシア語版『ドクトル・ジバコ』をどうやってソ連に持ち込もうとするのか。

1958年に、ノルウェーのノーベル賞委員会は、パステルナークをノーベル文学賞受賞者として発表したが、ソ連当局の圧力により辞退を余儀なくされた。

1965年には、アメリカ・イタリアの合作で、同名の映画作品(デヴィット・リーン監督)が公開された。挿入歌の哀愁ただよう「ララのテーマ」はあまりにも有名である。
1985年からゴルバチョフ政権が進めた多方面の改革「ペレストロイカ」によって、1987年にソ連で『ドクトル・ジバコ』が刊行された。→人気ブログランキング

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