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あの本は読まれているか ラーラ・プレスコット

東西冷戦の時代、反政府的とみなされ出版を阻止された『ドクトル・ジバコ』を、CIAはソビエト連邦の国民に読ませようと画策する。著者のボリス・パステルナークと愛人のオリガ、CIAのタイピストや諜報員たちの多視点一人称の文体で綴られる。
本書の原稿はオークションにかけられ、クノップ社が日本円で2億円の値をつけて落札したという。初版で20万部が刊行された折り紙付きの作品である。

それぞれの章を語る人物の役割や立場が各章のタイトル名になっている。例えば「タイピストたち」「ミューズ」など。ページが進むと、古いタイトル「ミューズ」は棒線で消され「矯正収容された女」などと更新されていく。

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あの本は読まれているか

ラーラ・プレスコット/吉澤康子
東京創元社
2020年 ✳︎10

ソ連では共産主義体制に批判的な文化人や芸術家は拘束され矯正収容所に送られた。共産革命は特権階級を皆殺しにすることだ。
パステルナークが執筆中の『ドクトル・ジバコ』に体制批判の箇所はないかと、当局は神経を尖らしていた。パステルナークの愛人オリガは、作品を清書し、出版社との渉外役を一手に引き受けていた。当局はオリガを拘束し、作品に反政府的箇所がないかと聞き出そうとする。
はっきりした証拠のないまま、オリガは矯正収容所に5年間入れられることになった。
過酷で悲惨な収容所での生活が始まった。しかし、スターリンが亡くなったことで、オリガは刑が3年に短縮されて戻ってきた。

一方、ワシントンではイリーナがCIAのタイピストとして雇われる。ソ連を脱出する前にイリーナの父は拘束され、その後矯正収容所で亡くなった。妊娠していた母親はひとりでアメリカにたどり着きイリーナを生んだ。
CIAはイリーナをタイピストよりも諜報員としての素質を評価したのだ。イリーナにはベテラン諜報員のサリーが指導役にあてがわれた。

CIAソ連班のミッションは、『ドクトル・ジバコ』をひとりでも多くのソ連国民に読ませること。そのためには、原稿を手に入れロシア語で印刷し、ソ連国内に送り込まなければならない。
世界的名声を得ているパステルナークの『ドクトル・ジバコ』は、西側の出版社にとっては、是非とも手に入れ出版したい作品である。パステルナークはオリガの留守中にイタリアの出版社に原稿を渡してしまった。

西側の多くの人々がパステルナークを擁護すれば、なんとかなるかもしれないというパステルナークたちの甘い期待はあえなく潰えた。パステルナークはソ連作家委員会から除名処分を受けた。

イタリア語で出版された『ドクトル・ジバコ』は瞬く間にベストセラーとなった。
CIAはロシア語版『ドクトル・ジバコ』をどうやってソ連に持ち込もうとするのか。

1958年に、ノルウェーのノーベル賞委員会は、パステルナークをノーベル文学賞受賞者として発表したが、ソ連当局の圧力により辞退を余儀なくされた。

1965年には、アメリカ・イタリアの合作で、同名の映画作品(デヴィット・リーン監督)が公開された。挿入歌の哀愁ただよう「ララのテーマ」はあまりにも有名である。
1985年からゴルバチョフ政権が進めた多方面の改革「ペレストロイカ」によって、1987年にソ連で『ドクトル・ジバコ』が刊行された。→人気ブログランキング

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