世界堂書店 米澤穂信 編
発刊される本が必ずといっていいほど話題になる編者が集めた短編は、一味違う。個性的な話が集められている。巻末の各短編に対する編者の一言が効いている。
![]() 米澤穂信 編 文春文庫 2014年 |
「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナー ル 多田智満子〔訳〕フランス
老いて盲となった光源氏が寂れた庵に居を移した。
そこを訪れた 花散里は百姓女に化けて源氏に抱かれたが、実は道で迷ったのではなく、情けを受けようとの魂胆できたと打ち明けると、「立ち去れ」と帰される。次に大和国の人妻と偽って近づき、源氏と女たちとのやりとりの数々を聞き出すが、唯一話に上らなかったのが花散里との関係だった。忘れてしまったのか。あるいは。。
著者は誤解しているようだ。『源氏物語』で有力な実家を持たず美しくもないとされているのは末摘花であり、花散里ではない。
「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ 西崎憲 〔訳〕イギリス
ジスカ氏は骨董品や宝石の小商いをしていた。扱う商品の来歴をでっち上げる才能、つまり口からまことしやかな嘘八百が泉の如く湧きでる。「破滅の種子」という尖晶石の指輪を金を払わず手に入れると、その所有者が死んでしまうとジスカ氏はいう。
骨董屋のでっち上げ噺が現実のものとなって、持ち主が変わるたびに、指輪の値段はつり上がっていく。やがて破格の金額となって、ジスカ氏の息子が父親にプレゼントしようと買う。
「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」キャロル・エムシュウィラー 畔柳和代 〔訳〕アメリカ
部屋のなかに自分の分身ともいえる人間がひっそり暮らしているという不気味な設定。その女性は分身が暮らしていることを知らない。実際は別人の存在を認知していて、知らぬふりをしていることもありうる。
「いっぷう変わった人々」レーナ・クルーン 末述弘子〔訳〕フィンランド
インカは立ち歩きをしているうちに宙に浮く。家族たちはインカが宙に浮いているところを他人に見られるのを恥ずかしく思っている。
これを自在にできるわけではないが、宙に浮くのは底抜けに気持ちがいい。医者は才能だというが、家族たちは小児病だと思っていた。
合唱隊に入るととても歌の上手いハンノがいた。ハンノは影がなかった。さらにアンテロという鏡に姿が映らない少年が登場する。そして3人は変わっている同士が集まるオリジナルクラブを設立した。3人は助け合って、大人になっていった。
以上の4編を含む15編が収録されている。→人気ブログランキング
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