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2020年8月

トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4 町山智浩

2016年、共和党の大統領候補指名選は、最終的にトランプとフロリダの上院議員テッド・クルーズの戦いになった。お互い「お前の母ちゃん出べそ」的な中学生レベルのネガティブキャンペーンを行った。が、相手の弱点をつくことにおいては、トランプに一日の長があった。その悪口の発信を追求されると、PAD(政治活動委員会)という団体が勝手にやったことだと、それぞれの陣営が責任逃れをした。PADは政治家を勝手に応援する後援会で、個人や企業からの献金で潤っている。潤沢な資金で下品なCMが多量に流されることになった。とういうのが前置き。
本書に収録されているのは、『週間文春』の「言霊USA」に、2015年3月19日号〜2016年間3月17日号の間に掲載されたコラム。
本書のタイトルは、トランプ陣営が支持者集会でローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』を流したところからきている。歌詞の中でサタンはこう繰り返す。「私がやっているこのゲームの正体がわからなくて、あなた方は困惑しているでしょう?」これは、支持者集会に流す曲じゃない、そんなことはどうでもいいという精神構造が、ヤバイ。
Image_20200829162401 トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4
町山智浩
文春文庫 2018年 ✳︎10

Opioid(オピオイド=アヘン類似物質)
2015年7月、日本でトヨタのアメリカ人元常務役員ジェリー・ハンプが麻薬の密輸で逮捕された。彼女が持ち込んだオキシドコンという鎮痛剤は、アメリカでは処方箋があれば手に入る。日本でも同じ方法で手に入るが、処方の条件が厳格である。日本で多く処方されているのは「非麻薬性」オピオイドと呼ばれるヤワなやつだ。
オキシドコンは、オピオイドと呼ばれる強力な鎮痛剤で抑うつ効果がある。ハッピーな気分になる。「-oid」は「〜に見える」「それっぽい」という意味だ。麻薬類似物質の常用者は940万人、総売上2億ドル以上の一大産業なのだ。オピオイド中毒は深刻な問題である。いずれ、ヘロインに手を出すことになる。

Black people can't swim?(黒人は泳げない?)
アメリカでは水泳は義務教育の必修科目ではない。貧乏だったり、共稼ぎや片親の忙しい家庭の子は泳ぐ機会がない。
『アメリカのプールの社会史』は、モンタナ大学のジェフ・ウィルツ准教授がプールにおける人種差別を研究したものだ。奴隷制度の時代、白人たちは黒人が川に入ることを固く禁じた。逃げられてしまうからだ。1920年代、全米各地にプールが作られたが、黒人は入ることができなかった。
現在、市民プールにおける差別は「いちおう」なくなったが、「水泳格差」は存在する。実際、USA水泳連盟とメンフィス大学が2010年に発表したデータによると、黒人の7割は泳げない。白人の少年に比べて溺死事故は3倍も多い。

Don't get ahead of the news,It will run you over.(ニュースの先を走ってはならない。後ろから轢かれることになる。by FOXニュースのキャスター)
全米警官組合はタランティーノの映画を「反警官的」としている、新作西部劇『ヘイトフル・エイト』のプレミアム試写会の、警備や交通整理を一切行わないよう呼びかけた。
デビュー作の『レザボア・ドッグス』(92年)ではギャング同士の次のような会話がある。「人を殺したことがあるか?ポリ公じゃなくて、本物の人間を」。タランティーノは警官が嫌いだってことは明らかだ。

メディア王ルパート・マードック傘下のFOXニュースは、黒人射殺が続く昨今は警察官の味方についている。横領がばれそうになり殉職したように見せかけ自殺した警官を、FOXニュースは英雄と祭り上げてしまった。タイトルはFOXニュースのキャスターが、戒めに言った言葉。

Snitch (密告者、チクリ屋)
麻薬王エル・チャポのアジトに海兵隊が踏み込み、一味はほとんど射殺され、エル・チャポは拘束された。エル・チャポは麻薬密売組織シナロア・カルテルのボス。資産10億ドルといわれアメリカ経済誌『フォーブス』の富豪ランキングに入る。エル・チャポは今まで何回も逮捕と脱獄を繰り返していた。
そのエル・チャポに、素人記者としてたびたび記事を書いてきたショーン・ペンがインタビューした。ペンの記事は当たり障りのない内容で、なんのツッコミも入っていない。
ところがこのダメ記事が役に立った。インタビューの交渉に会話を暗号化する携帯電話を使ったが、アメリカ政府の監視システムに引っかかった。密告者になってしまったショーン・ペンは、命がヤバイんじゃないか?→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 /町山智浩/ちくま文庫/2011年
底抜け合衆国: アメリカが最もバカだった4年間/町山智浩/ちくま文庫/2012年
トランプがローリングストーンズでやってきた USA語録4/町山智浩/文春文庫/2018年

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか 町山智浩

著者は「リアル・アメリカの伝道師」と呼ばれ、アメリカに関する圧倒的な量の情報を日本に発信し続けている。本書は『週刊現代』の連載コラム『アメリカで味噌汁』を中心に、『サイゾー』『TVプロレス』『クロスビート』などのコラム102編を集めたものである。
文庫版あとがきで、著者は、「アメリカに住むということは、サーカスの見世物を最前列で見るようなもんだ」という、コメディアンのジョージ・カーリンの言葉を紹介している。サンフランシスコの湾を渡った向かいのバークレーに在住。
Photo_20200821142501キャプテン・アメリカはなぜ死んだか

町山智浩
文春文庫
2011年 10✳

アメリカは、ハチャメチャなことが日常的に起こっている国だ。両極端の考えの人がそれぞれ派手な動きをする。白人至上主義が引き起こす人種がらみの事件は尽きないし、宗教は暴走するし、何でもかんでも訴訟を起こす。精神の変調をきたしているやからが銃をぶっ放す。クスリやセックス絡みで暴力事件が起こる。アメリカにはカルト集団がうようよいて、それらが信じられない事件を引き起こす。本書では、そんなサーカスの出し物が次から次へと繰り出される。
本書の特徴は、事の発端となった背景や歴史など、一つのコラムにテンコ盛の情報が詰め込まれていることだ。さらに著者の一見軽いが痛烈な皮肉が込められる。

キャプテン・アメリカは日本人に馴染みが薄いが、コラム「キャプテン・アメリカはなぜ死んだか」で、著者はなにを語っているのか。
アメリカン・コミックのスーパーヒーローであるキャプテン・アメリカの死は、『USAトゥデイ』紙など全米各紙で事件として報じられた。その理由は、キャプテン・アメリカが政治的な存在だからだという。
1941年、真珠湾攻撃が始まると主人公のスティーヴン・ロジャースは軍に志願するが、ひ弱な体で不適格とされる。そこで、超兵士を作る人体実験のモルモットとなる。超兵士となったスティーヴは星条旗を身につけ、キャプテン・アメリカとして、ナチスや日本軍と戦う。大戦後、共産主義と戦うが、すぐにシリーズは休刊する。
1964年、20年間北極の氷の中に閉じ込められていたという設定で現代に蘇る。しかし1974年ニクソンが辞任すると、キャプテン・アメリカもコスチュームを脱いだ。そればかりかヒッピーのように髪を伸ばしノマド(祖国なき者)と名乗ってアメリカを放浪し始める。
結局、再びコスチュームを着たが、アメリカを愛するため政府と対決する。新米のスーパーヒーローと悪漢たちの戦いに一般人が巻き込まれて大惨事が起こり、連邦議会は「超人登録法」を可決した。2007年、スーパーヒーローをすべて政府の管理下に置く法律である。「超人登録法」は、ブッシュ政権のテロ取り締まりのため盗聴や拘束を合法化した「愛国法」のメタファーだ。体制側についたアイアンマンたちに敗れたキャプテンは反政府活動家として逮捕された上に、裁判所の階段で何者かに狙撃され死んでしまう。(07年9月)

真珠湾攻撃がキャプテンが生まれるきっかけだから、日本には受けが悪いわけだ。→人気ブログランキング

キャプテン・アメリカはなぜ死んだか/町山智浩/文春文庫/2011年
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壊れた世界の者たちよ ドン・ウィンズロウ

ドン・ウィンズロウは、1991年『ストリート・キッズ』でデビューした。その後多くの賞を獲得し、映画やテレビドラマの原作として多数の作品が採用されている世界的ベストセラー作家である。最近はメキシコの麻薬戦争を描いた『犬の力』『ザ・カルテル』『ザ・ボーダー』の3部作を完成させた。
これまでの作品は長編であったが、本書には6編の中編が収録され、ウィンズロウの新しい魅力が詰まっている。 尊敬するスティーヴン・キングが長編ばかりでなく、短編や中編に数多くの作品を書いていることに触発されたという。
過去の作品(『野蛮なやつら』『キング・オブ・クール』『ボビーZの気怠く優雅な人生』)からのキャラクターが登場する作品があり、ウィンズロウ・ファンにとってはたまらない楽しさがある。

Photo_20200817142301 壊れた世界の者たち

ドン・ウィンズロウ/田辺俊樹
ハーパーブックス
2020年 ✳︎10

「壊れた世界の者たちよ」
舞台はニューオリンズ。新興の麻薬犯罪組織に弟を殺された麻薬取締班のジミーが復讐のため、組織のボスの隠れ住むコンドミニアムを襲撃しようとする。警察隊はコンドミニアムを包囲するが、動こうとはしない。ジミーたちに好きにやらせようとしているのだ。なおタイトルは、『武器よさらば』(アーネスト・ヘミングウェイ)〈この世では誰もが壊される。が、壊された場所でより強くなる者も少なくない。〉からきている。

「犯罪心得1の1」は「スティーブ・マックイーンに捧げる」としている。
カリフォルニアのハイウェー101号沿いで起こった11件の宝石強盗事件は、華麗な手口で行われた。サンジェゴの辣腕刑事が解決しようとする。

「サンジェゴ動物園」は、エルモア・レナードに捧げられている。
拳銃を持って逃走したチンパンジーの捕獲騒動が縁で、新米の警察官と博士号を持つ動物学者の女性の間に恋がめばえるという、なんともユーモアがあふれる作品。

「サンセット」は、レイモンド・チャンドラーに捧げられている。
麻薬中毒の伝説のサーファーが裁判をすっぽかし、女から宝石を盗み逃げている。保釈保証業者に依頼されて凄腕の私立探偵が動く。作品の中にはウエストコースト・ジャズが流れている。2018年9月、カリフォルニア州は保釈金制度を廃止することを州議会が決めた、物語にはその影響も組み込まれている。

「パラダイスー ベンとチョンとOの幕間的冒険」
ハワイのカウワイ島で大麻ビジネスを展開しようとしたグループが、地元マフィアから妨害され、壮絶な銃撃戦が繰り広げられる。

「ラスト・ライド」
国境警備隊員が不法移民の少女をメキシコに住む母親に引き渡そうとする話。
トランプ大統領の移民政策を批判する意味も込められている。→人気ブログランキング

月と六ペンス

高校の英語の副読本にサマセット・モームの作品が使われたことがあった。レストランで支払いするときに、照明が暗く、紙に書かれた数字が見えるか見えないかであると書かれていた。爪の形についても触れられていた。そのふたつの場面が、頭に残っている。副読本は『月と六ペンス』から採用したと思っていたが、そのような場面はない。『人間の絆』だったろうか。

本作品はゴーギャンの生涯を参考にしているが、ゴーギャンそのものではない。ゴーギャンを忘れて読んだほうがいいと、訳者があとがきで述べている。

Photo_20200812082301 月と6ペンス

サマセット・モーム 金原瑞人
2014年 新潮文庫

若手の小説家が、今や天才画家と評価されるチャールズ・ストリックランドについて、本人に会って知り得たことや人づてに聞き及んだことをもとに、その半生を描いたという仕立て。

懇意にしている女流小説家に、ストリックランド夫人を紹介された。作家たちを招いてのパーティを開くことが多い夫人は、わたしの小説のファンだという。

夫のストリックランドは証券取引会社の仲買人をしていた。彼は奥さんと子供をおいて家を出ていった。結婚して17年だった。
夫人はわたしにパリに行って夫を取り戻して欲しいという。
ストリックランドには、一緒にいると噂された女性はおらず、家族を捨てたのは絵を描くためだけだという。妻子のことなど知ったことかと切り捨てた。そのことを夫人に伝えると悲しんだが、やがて夫人はタイピストの仕事で自立した。

それから5年経って、わたしはパリに住むことにした。以前、ローマで知り合った画家のストルーヴェにストリックランドのアパートに案内してもらった。をたずね、ストリックランドは相変わらず貧乏暮らしをして、絵を描いていた。ストルーヴェはストリックランドは天才だという。
ストリットランドがクリスマスを前にして病気になった。
ストルーヴェは自分の家で看病すると宣言したが、妻のブランチが強く反対した。なんとか妻を説得して、家に連れてきた。病気が治るまでに6週間かかった。

あれほどストリットランドを嫌っていたブランチが、彼と一緒に暮らすと家を出て行った。ところがストリットランドに愛情を受け入れてもらえないことで、ブランチは服毒自殺してしまう。ストルーヴは、ストリットランドが描いた妻の裸婦像を目にし、逆上した。しかし、その出来栄えはまごうかたなく本物だった。

ストリットランドと最後にあってから15年がすぎ、彼が死んでから9年も経っていた。ここからはタヒチで聞いた話だ。

ストリックランドは各地を転々としたあとに、タヒチにたどり着いた。タヒチの人にとって彼はいつも金に困っている港の労働者だった。
ホテルの女主人は、彼にアタという妻を斡旋した。ストリックランドは人里離れた奥地で暮らし、創作活動に励んだという。
ストリックランドはハンセン病に感染し、最期は医師のクートラが見届けた。彼の遺作は遺言によって燃やされたという。わたしは、クートラ医師の所有するストリックランドの果物の絵を見て恐ろしさを感じた。

ロンドンに帰ったわたしはストリックランド夫人に再会し、タヒチでのストリックランドのことを夫人とその息子に話した。アタとの息子の話は省略したが、その他すべてを伝えた。→人気ブログランキング

月と6ペンス/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2014年
ジゴロとジゴレット/サマセット・モーム 金原瑞人/新潮文庫/2015年

京都まみれ 井上章一

東京と対抗する視点で京都を論じている。
いまだに京都人は東京を都と認めていない。文化庁の京都移転の際に、「地方再生事業」という言葉に敏感に反応した。「地方」とは何ごとか、京都は「地方」ではない、「地域」に変更しろと。
さらに、早稲田の校歌にも難癖をつける。「♪都の西北」ではない、京都からはるか東、「都の東」だと。
Photo_20200807124501京都まみれ

井上章一
朝日新書
2020年4月 9✳︎

天皇が退位されるとなったとき、京都市長が退位の後は京都でお暮らし頂きたいと発言し顰蹙をかった。
京都至上主義者が東京を首都と認めないその根拠は、がちがちの京都至上主義者である梅棹忠夫も言っているとおり、遷都令が出されていないからだという。平城京から長岡京に都を移したときは、勅令が交付された。長岡京から平安京のときも勅令が出た。明治政府は遷都令を発布していない。

蛤御門の変で焼け野原になった京都から、朝廷は東京に拉致され、公家たちもそれに続いた。人々の絶望は大きかった。そんなことから、御所のある京都の北側人びとは、天皇は東京に一時的に拉致されただけだと、いずれ帰ってきていただけると思うようになった。

京都は、都の中の都という意味である。地方都市の京都にその名がふさわしいか。その名にふさわしいのは東京だろう。あえて明治新政府は、京都に温情を加えたのではないか。
銀座は銀座2丁目ティファニーの前あたりに「銀座発祥の地」の碑があるが、銀座という地名は京都の伏見が源流であるという。見そこなうなと反発する。

寛永寺は江戸幕府が延暦寺を模して建てたもの。東叡山という山号がある。東の比叡山を自称する寺である。江戸幕府は京都の御所を真似たのだろう。明治維新でその土地は縮小されたが江戸時代はかなり広かったという。

洛中の商家の跡取り問題を論じる。京大に入るとろくなことがないと洛中ではいう。ゆくゆくは東京に行ってしまう。一方、同志社は京都の老舗を継ぐだろう子弟が少なからず通っている。いわゆるぼんぼんたちである。洛中の伝統的な商家は否定的な京大感をもっている。

西陣の人びとは、このあいだの戦争というと応仁の乱だという。第二次世界大戦でそれほどの被害がなかったが、応仁の乱では京都は破壊された。このあいだと応仁まで遡れる家はそうない。このあいだの戦争というのは、結構痛い目にあわされた人の子孫たちの言回しだ。
居酒屋で『応仁の乱』(呉座勇一著 2018年)の本について盛り上がる一団がいたという。話の内容は自分たちの先祖が登場したということだった。
応仁の乱で上京と下京に分断された。上京は公家たちが下京には商人たちが住んでいた。明治維新で公家たちは天皇について東京に移り住んだ。祇園祭は下京の町人たちが仕切ってきた。

京都が首都であったらどうなっていただろう。巨大資本に町の中心部は買い取られ、老舗は郊外や他県に出ていかざるを得なかっただろう。あるいは廃業に追い込まれたかもしれない。東京は京都から首都という重荷をおろしてくれた。感謝してもいいくらいではないのかという。京都と東京はそれぞれが譲り合って、相応の役割と立ち位置を獲得しているというところだろう。→人気ブログランキング

京都まみれ/井上章一/朝日新書/2020年
京都ぎらい 官能編/井上章一/朝日新書/2017年
京都ぎらい/井上章一/朝日新書/2015年
関西人の正体/井上章一/朝日文庫/2016年
京都はんなり暮らし/澤田瞳子/徳間文庫/2015年

新訳 アンドロメダ病原体 マイクル・クライトン

『アンドロメダ病原体』は、1969年にアメリカで出版された。現実に起こりうるテーマを、当時の最先端の知識と斬新なアイデアを駆使して描かれている。
宇宙からもたらされた猛毒の病原体に立ち向かった科学者たちの5日間を活写した作品である。1971年に映画化されている。本書の出版から50年が経ち、IT技術が著しい進化をとげた今でも、十分に受け入れられる内容である。
なおアンドロメダの呼称は、アンドロメダ星座やアンドロメダ銀河とはなんら関連ない。

新しい生物兵器を作り出すことを目的として、宇宙空間の微生物を回収する人工衛星からのカプセルが、アリゾナ州ピードモントに落下した。カプセルを回収しようと軍用車で向かったふたりから、人々が死んでるとの連絡があったあと、通信が途絶えた。

Photo_20200805084201アンドロメダ病原体 新訳

マイクル・クライトン/朝倉久志
早川書房
2012年 10✳︎

ワイルドファイア計画のミッションは、カプセルを回収し、住民46名と軍人2名を死に至らしめた病原体の正体を突き止めめることと、病原体を封じ込めることである。
ワイルドファイア計画のメンバーは、細菌学者のストーン、微生物学者のエヴィット、病理学者のバートン、外科医のホールの4名。

4人はヘリコプターでピードモントに向かった。人々はパジャマ姿で外で死んでいた。苦しんだ様子はなく、ハゲタカがついばんだ箇所からの出血は見られない。
円錐型のカプセルの周りにペンチとタガネが転がっていた。遺体をメスで開くと血液は凝固していた。生後2か月の赤ん坊とひとりの老人が生き残っていた。

ワイルドファイア計画の建物は5レベルに分かれている。レベルが上がるごとにクリーン度が増し、外界と遮断程度も強化されていく。病原体(「アンドロメダ病株」と命名される)が漏れれば、核爆発で研究所は病原体ごと消し去られる。

ユタ州でファントム機がの墜落した。墜落寸前、パイロットはゴムが溶けていくと言った。コックピットの中のゴムがすべて溶けていた。
さらにアリゾナ州で男性巡査が疫病発生の直前にピードモント通過し、その後、発狂し銃でカフェの客を撃ち殺し自らも命を絶った。

アンドロメダ病原体についてわかったことは、病原体は2ミクロンの細菌のサイズであり、空気によって伝播される。呼吸によって肺に吸引され、そこから病原体は血液に侵入し、血液が凝固し死を引き起こす。抗凝固剤は無効。死体からは感染しない。

X線結晶構造解析から病原体は六角形の結晶であることがわかった。培地不要、炭素と酸素と日光があれば成長できる。爆弾を落としたら核爆発の膨大なエネルギーを吸収して、とんでもないことになる。すでにピードモントには核爆弾が投下され感染源を消滅させたはずだ。
ところが、不幸中の幸いか、大統領が命令を先延ばしにしていたのだ。ピードモントには核爆弾が投下されていなかった。

泣き叫ぶ赤ん坊とアスピリンを多量に服用しメチルアルコールを飲んでいた老人が助かったのはどういう理由なのか?
そんな中、研究所が汚染され自動爆破装置が作動してしまった。爆破を阻止することはできるのか。→人気ブログランキング

ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ

1969年、海辺に立つ櫓からチェイスが転落死した。チェイスは村一番の美人と結婚したばかりだった。チェイスの死と湿地に住むカイアの成長の話が、時間を行きつ戻りつしながら語られる。そして驚きの結末が待っている。
著者は動物学と動物行動学の博士号をもつ動物学者である。69歳のときに本書を書き上げた。本書は、湿地帯の地形や気候そこに生息する生物の生態を背景に、差別問題、少女の成長の物語、恋愛小説、フーダニットのミステリと多彩な要素をもっている。2019年にアメリカで一番売れた本だという。

カイアはノースカロライナの湿地帯バークリー・コーヴにひとりで暮らしている。家族に暴力を振るう飲んだくれの夫に耐えかねて母親が家を出ていき、姉と兄が出ていった。相変わらず父親は不機嫌で、カイアは父親の顔色をうかがいながら生活している。父親の機嫌のいいときに、ボートの操り方を教えてもらった。そして父親も家に帰ってこなくなった。

Photo_20200801120201 ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ/友廣 純
早川書房
2020年 ✳︎9

村の人びとは、カイアを「湿地の少女」と呼び、嘲りあるいは怖がり、差別した。カイアは1日だけ学校に通ったが、そのあと無断欠席補導員がくると姿を隠すようになった。

カイアはボートを器用に操り、魚を獲って燻製にして、黒人のジャンピンに売って金を手にした。カイアは、ジャンピン妻メイべルから畑で野菜を育てる方法を訊き、種をもらった。メイベルが服や食べ物など生活に必要なの物を用意してくれた。

カイアは漁師の息子であり兄の親友であったテイトと親しくなり、読み書きを教えてもらう。聡明なカイアはテイトが持ってくる本を読み、知識を身につけていった。もともとカイアは貝殻を集めたり、鳥の羽を集めたりするのが好きだった。カモメに餌をやり、生物の生態を観察し、自然の法則を理解していった。
時には隣町の図書館に出向き、テイトが紹介してくれた生物学の専門書を読むこともあった。カイアの味方はテイトとジャンピンとメイベル、それと湿地の生物たちだった。

湿地の研究をする生物学者になる目的で、テイトはノースカロライナ大学に入学し町を離れた。約束した翌年の7月4日に、テイトは現れなかった。カイアは絶望しケイトに捨てられたと思った。
そんなカイアにチェイスは近づき、なんとかものにしようとした。結婚を餌にカイアを騙したのだ。

湿地帯の近くに連邦政府の研究所が建設され、大学を卒業したテイトはそこの常勤の科学員として雇われた。カイアとチェイスのやりとりを見て、テイトは身を引くことにした。

カイアはテイトの勧めで、バークリー・コーヴの湿地帯に生息する貝の生態に関する本を書いた。本は好評を博した。カイアは出版社の要請で、グリーンヴィルにバスで出かけ、担当者と次に出版する本の打ち合わせをすることになった。
カイアがグリーンヴィルのモーテルに一泊した夜に、チェイスが転落死したのだった。

警察はカイアを第1級殺人の容疑者として拘束し、検察側は状況証拠だけでカイアの犯行と断定するのだった。バークリー・コーヴの住民である陪審人たちは、カイアにどのような判決を下すのか。

「ザリガニの鳴くところ」とは、茂みの奥深く生き物たちが自然のままの姿で生きているところという意味である。→人気ブログランキング

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