壊れた世界の者たちよ ドン・ウィンズロウ
ドン・ウィンズロウは、1991年『ストリート・キッズ』でデビューした。その後多くの賞を獲得し、映画やテレビドラマの原作として多数の作品が採用されている世界的ベストセラー作家である。最近はメキシコの麻薬戦争を描いた『犬の力』『ザ・カルテル』『ザ・ボーダー』の3部作を完成させた。
これまでの作品は長編であったが、本書には6編の中編が収録され、ウィンズロウの新しい魅力が詰まっている。 尊敬するスティーヴン・キングが長編ばかりでなく、短編や中編に数多くの作品を書いていることに触発されたという。
過去の作品(『野蛮なやつら』『キング・オブ・クール』『ボビーZの気怠く優雅な人生』)からのキャラクターが登場する作品があり、ウィンズロウ・ファンにとってはたまらない楽しさがある。
![]() ドン・ウィンズロウ/田辺俊樹 ハーパーブックス 2020年 ✳︎10 |
「壊れた世界の者たちよ」
舞台はニューオリンズ。新興の麻薬犯罪組織に弟を殺された麻薬取締班のジミーが復讐のため、組織のボスの隠れ住むコンドミニアムを襲撃しようとする。警察隊はコンドミニアムを包囲するが、動こうとはしない。ジミーたちに好きにやらせようとしているのだ。なおタイトルは、『武器よさらば』(アーネスト・ヘミングウェイ)〈この世では誰もが壊される。が、壊された場所でより強くなる者も少なくない。〉からきている。
「犯罪心得1の1」は「スティーブ・マックイーンに捧げる」としている。
カリフォルニアのハイウェー101号沿いで起こった11件の宝石強盗事件は、華麗な手口で行われた。サンジェゴの辣腕刑事が解決しようとする。
「サンジェゴ動物園」は、エルモア・レナードに捧げられている。
拳銃を持って逃走したチンパンジーの捕獲騒動が縁で、新米の警察官と博士号を持つ動物学者の女性の間に恋がめばえるという、なんともユーモアがあふれる作品。
「サンセット」は、レイモンド・チャンドラーに捧げられている。
麻薬中毒の伝説のサーファーが裁判をすっぽかし、女から宝石を盗み逃げている。保釈保証業者に依頼されて凄腕の私立探偵が動く。作品の中にはウエストコースト・ジャズが流れている。2018年9月、カリフォルニア州は保釈金制度を廃止することを州議会が決めた、物語にはその影響も組み込まれている。
「パラダイスー ベンとチョンとOの幕間的冒険」
ハワイのカウワイ島で大麻ビジネスを展開しようとしたグループが、地元マフィアから妨害され、壮絶な銃撃戦が繰り広げられる。
「ラスト・ライド」
国境警備隊員が不法移民の少女をメキシコに住む母親に引き渡そうとする話。
トランプ大統領の移民政策を批判する意味も込められている。→人気ブログランキング
壊れた世界の者たち/ハーパーブックス/2020年
ボビーZの気怠く優雅な人生/角川文庫/1999年
ストリート・キッズ/創元推理文庫/1993年
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