鷲は舞い降りた〔完全版〕 ジャック・ヒギンズ
本書は一級の冒険小説として揺るぎない地位を確立している。
1943年11月6日(土曜日)、ゲシュタポ長官ヒムラーは「鷲は舞い降りた」との連絡文を受け取った。チャーチル誘拐の奇襲部隊がイギリスの北にあるノーフォークに降り立ったという意味である。著者は50%の史実に基づき、本書を書きあげたという。
なお、1976年、ジョン・スタージェス監督により映画化されている。ミステリ・オールタイムベストの常連作品
劣勢のナチス軍において、奇想天外の「チャーチル誘拐作戦」は、ヒットラー総督発案のムッソリーニ奪還の成功体験と総督自身の冗談がきっかけだった。しかし、チャーチル誘拐にヒットラーは否定的だった。作戦は部下が忖度して極秘裏に進められた。チャーチルはムッソリーニ奪還を、国会の演説で「軍事的な離れ業」と認めていた。
チャーチルがノーフォークの素封家の家で、週末を過ごすという情報をつかんだのは、当地に暮らす女スパイのグレイである。ボーア人のグレイが亡夫の叔母が遺した家に暮らしはじめたのは8年前。グレイは非の打ちどころのない淑女として村人に受け入れられていた。しかし68歳である。下準備を担う男手が必要である。チャーチルが過ごす館の持ち主サー・ヘンリイ元海軍中佐はグレイに熱を上げていた。
ノーフォークの工作員に選ばれたのが、アイルランド人のIRA兵士だったデヴリン。グレイの亡夫の知人として、サー・ヘンリイの沼沢管理人の仕事に就くことになった。デヴリンが乗り込んだのは計画実行の2週間前。よそ者を監視する過疎の村で、いくらグレイのお墨付きとはいえ、35歳のチビのアイルランド人が好意的に受け入れられるわけがない。
村の若い娘がデヴリンに近づいてくるし、村一番の乱暴者はデヴリンに喧嘩を売ってくる。
軍情報局の碧眼のラードル中佐が、作戦の総指揮をとっている。誘拐の実行部隊はいくつかの奇襲作戦を成功させてきた精鋭たちからなる。隊長は魚雷にまたがり敵艦に魚雷を命中させる決死の作戦を成功させたシュナイタ中佐である。父親は国家反逆罪でゲシュタポに拘束されている。つまり非情非道のヒムラー長官の管理下にある。
奇襲部隊に落下傘の降下経験のない元イギリス自由軍兵士プレストン少尉が、上司の命令で押し込められた。自由軍兵士とは要するにチンピラのことだ。
事が順調に進んでいるとの報告を受けたヒムラーはご満悦だった。
ところが、ノーフォークにはアメリカ軍のレインジャー部隊総勢90名が、2週間の予定で戦闘訓練を行っていた。そして、奇襲部隊はノーフォークの地に降り立った。→人気ブログランキング
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