盤上の向日葵 柚月裕子
冬の天童市のホテルで将棋の竜昇戦が行われている。若き天才壬生芳樹竜昇に挑戦するのは、彗星のごとく現れた東大出の異色棋士上条桂介。対戦は3勝3敗のタイにもつれ込んだ。 その会場に二人の刑事が乗り込んでくる。
本書が原作の同名のテレビドラマが4話にわたり(2019年9月8日〜)、BSプレミアムで放送された。巻末には、ありがたいことに、羽生善治の解説が掲載されている。
![]() 柚月裕子 中公文庫 |
![]() 2020年 ✳︎9 |
約4か月前、埼玉県の天木山で男性の白骨死体が発見された。一緒に埋められていたのは初代菊水月作の名駒だった。
ベテラン刑事の石破と、かつて棋士を目指していた新米の佐野巡査は、駒の持ち主の捜査を始める。遺体とともに発見された名駒は、初代菊水月が7組作っていた。二人の刑事は7組の名駒を追って東奔西走する 。
時間は巻き戻され、桂介の少年時代が語られる。桂介は幼くして母を亡くし、父親からは虐待を受けて育った。向日葵は母親が大好きな花だった。元教師の唐沢が桂介の将棋の才能に気づき、桂介に将棋を教えなにかと支援し、東京へ出てプロを目指すよう助言した。
東大に入学した桂介は将棋部に所属し、将棋道場で勝負に金を賭ける真剣師たちに出会った。桂介の前に、運命の人物となる元アマ名人の東明重慶が現れた。東名は刑務所から出てきたばかりだった。東名は真剣勝負の旅に桂介を連れて東北地方を巡り、そこで、桂介は対戦者同士が命を削る真剣勝負の将棋を目にすることになる。
卒業後、桂介は外資系の会社に5年勤めた後に退職して、ソフトウェアの会社を立ち上げ、その会社を創業2年で年商30億に達する企業にした。そして父親の庸一が金をせびりに会社に現れるようになる。
一方、東名は病的に痩せた身体になって桂介の前に現れた。二人は将棋を指し、負けるたびに桂介は10万円を払った。東名によって桂介の将棋の実力は伸びていった。東名が語る悲惨な生い立ちは、桂介の生い立ちと重なる部分が多分にあった。東名の勧めで桂介はプロの棋士になる決意をした。
教育者の唐沢、強引な手段で刑事として生きてきた不破、不破の無理難題に文句を言わず従う佐野、裏社会とつながりのある真剣師の東名、息子を虐待し長じると搾取する父親の庸一など、個性あふれる人物たちの存在が物語にメリハリを与えている。
ところで、中央公論新社から、本書下巻に100か所以上の誤植があると発表された。将棋の駒の動き描いた箇所である。同社のホームページに訂正が掲載されている。原本と引き換えに訂正版を送るという。→人気ブログランキング
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本日(令和2年11月22日)から日曜ごと4話に分けて、再放送されます。午後10時、BSプレミアム。
投稿: SA | 2020年11月22日 (日) 13時24分