アデスタを吹く冷たい風 トマス・フラナガン
日本で独自に編まれた7篇から成る短篇集である。本書は、ハヤカワ・ミステリの復刻希望アンケート調査で、1998年と2003年に2度にわたって1位に輝いたという。いずれの作品も特異な設定でひねりを効かせた結末が用意されている。
最初の4篇には辣腕のテナント少佐が登場する。舞台はクーデターで生まれた共和国とは名ばかりの地中海沿いの軍事独裁国家。時代は1950年代だろう。オールタイムベストの常連作品。
アデスタを吹く冷たい風 トマス・フラナガン/宇野利泰 ハヤカワ文庫 2015年 |
アデスタを吹く冷たい風
風が吹き荒さび地面に根雪が残る中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒をアデスタの町に運んでいると主張する。テナント少佐は商人が銃の密輸していると睨んでいる。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからなかった。次は尻尾をつかんでやる。
獅子のたてがみ
テナント少佐はアメリカ人医師を暗殺させたことで審問官に審問されている。スパイ行為を働いた医師を大佐の命令で殺したという。大佐を部下たちは「獅子」と呼んでいる。テナント少佐は大佐に奪われた憲兵隊長の地位に復帰しようとしている。少佐は医師のスパイ行為が無実無根であると知っていた。少佐は中尉にライフルで自宅にいる医師を撃つよう命じた。そして暗殺は実行された。
良心の問題
ブレーマンが死んだ後、主治医は家に呼ばれたという。ピストルで殺されたブレーマンの腕にはナチの収容所で入れられた番号があった。犯人のフォン・ヘルツィッヒにも、刺青をそぎ取り植皮した跡があった。
国のしきたり
バドラン大尉の密輸取り締まりのの業績はめざましいものがあった。密輸を取り締まることで、経済の混乱を防ぎ、没収物質に加え罰金を徴収し、没収品の競売により国庫の収入になった。ジェネラルから異例の感状をさずかった。ところが2年目になると、密輸の情報が伝えられ、大尉が注意を払って監視を行うも、取り立てて成果が上がらないことが続いた。
そこで大佐とテナント少佐が掴んだ密輸の情報をバドラン大尉に知らせ、お手並みを見物するということになった。
もし君が陪審人ならば
弁護士は担当した被告が無罪になった殺人事件を皮肉屋の大学教授に話をする。
無謀にも被告の妻はセントラル公園を夜中に散歩するという癖があった。散歩中にナイフで刺されて殺された。それを若い男女が見ていて、公園から駆け出していく男が夫に似ていると証言した。そして過去に夫が被告となった妻殺しの事件が語られる。
うまくいったようだわ
夫人が夫を殺したと知り合いの弁護士に連絡した。心臓をめがけて2発撃ったから間違いなく死んでいると夫人はいう。陪審員の前に立つのは嫌だという。
強盗に襲われたことにすることにした。鍵やベッドに細工を加えた。弁護士はパトカーのサイレンに驚く。弁護士が鍵を壊しているときに、夫人が警察に連絡したのだ。
玉を懐いて罪あり
15世紀のイタリア。モンターニュ伯は、ボルジア家の家宝というべき名玉をフランス太公に献上することに決めたのだが、それをモンターニュ伯の部下の兵士が盗み去ったと太公の使者にいう。
モンターニュ伯はその盗む場面を見たであろう聾啞の男に、絵画による尋問を行う。→人気ブログランキング
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