タウ・ゼロ ポール・アンダースン
核戦争によって壊滅的に破壊された地球は、スウェーデンが最大の富裕国になった。第二の地球を求めて、先発隊として男女25名ずつが、宇宙船〈レオノーラ・クリスティーネ号〉に乗り込み、代替の地球になりうる「おとめ座ベータ星」に向かった。
ハードSFの金字塔、オールタイムベストの常連作品。
タウ・ゼロ ポール・アンダースン /朝倉久志 創元SF文庫 1992年 |
まずは〈レオノーラ・クリスティーヌ号〉に搭載されている恒星間ラムジェット・エンジンについて説明しなければならない。SFファン待望の恒星間ラムジェット・エンジンは、1960年に、ロバート・ハザードにより考案された。現在ジェット・エンジンの一種として使われている。エンジン前部の吸入口から空気を吸い込んで、それを高速飛行による空気圧で圧縮して燃料の一部として使用する。ハザードのアイデアは宇宙空間に豊富にある水素原子を吸入口から取りこみ、核融合燃料として使用しようというものである。これによって宇宙船は、出発時に膨大な質量の燃料を積み込む必要がなくなる。ただし銀河系の外では物質の密度が低くなり、宇宙船の速度は上がらない可能性がある。
タウについても説明する。宇宙船の一定の速度をV、光の速度をCとすれば、タウは(1-V2乗/C2乗)の平方根になる。タウが少なくなるということは光速に近づくということである。つまりタウ・ゼロとは光速という意味だ。
ハードSFとは科学性が強い作品のこと。すでに用いられている科学技術や一般的に知られている知見に基づき、科学的・論理的に構成される。整合性のあるストーリーとして、納得しながら読むことができる。
乗組員は集団見合いの状態である。当然のことながら男女間や男同士のトラブルが起こる。寝取られたとか奪ったとか、痴話喧嘩が頻発する。登場人物たちはまるで舞台俳優のように振る舞い声を発する。
宇宙船に災難が降りかかったのは旅の3年目、星々から計算した時間では10年目に近づいたときだった。宇宙船は小星雲と衝突した。減速システムが破壊され減速できなくなった。船長以下乗組員の願いとは裏腹に、事故後、タウは未曾有の割合で減少していった。そして加速していった。
亜光速移動によるウラシマ効果で、乗員たちにとっての数年が、故郷の地球では年月が何万年も過ぎていく。何万年も過ぎてしまった地球に戻ることはできない。「おとめ座ベータ星」は諦めざるを得ない。宇宙船の中で宇宙の流浪の民になってしまうと、乗員たちは苦悩する。
未知の速度に達し、眠りが浅くなり不眠者が増え、トランキライザーの使用量が増えていく。
そして船内で厳しく禁止されていた妊娠者が現れた。犯罪である。しかし、今や船内に正気なものなどいないとすれば、生まれてくる赤ん坊は、希望の光となりうる。
解決策は、星間物質の希薄な星系を見つけて減速装置を修理し、移住可能な星を見つけるしかない。だが、そうしている間にも船の外では、何億年もの時間が過ぎ去っていくのである。→人気ブログランキング
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