ママはなんでも知っている ジェイムズ・ヤッフェ
ブロンクスにひとりで暮らすママのもとに、金曜日の夜に息子夫婦が訪れて、ママの自慢の手料理をご馳走になるのが習慣になっている。息子のデイビッドはニューヨーク市警殺人課の警察官である。捜査が暗礁に乗り上げている事件について、ママにせがまれて話をする。話を聞いたあと、ママはいくつかの質問をして、豊富な人生経験と人間の心理を読み解く力で、事件を解き明かしてしまう。ママは安楽椅子探偵の天才なのだ。
本書は8話からなる連作短編。謎解きの手はずといい、ストーリーの運び方といい、著者の筆運びは見事だ。オールタイムベストの常連作品。
ママはなんでも知っている ジェイムズ・ヤッフェ/小尾芙佐 ハヤカワ文庫 2015年 |
ママはデイビッドが警察官になったことに、ふたつの理由で反対している。危険であることと、知性と頭脳を必要とする職業につくべきだという理由である。
ママはちょっとばっかり耄碌しているのか、それとも耄碌したふりをしているのか、時々、単語を間違えそれを直そうとしないが、推理は確かだ。心理学の学位をもつ嫁のシャーリイはちょっとした嫌味を口にする。しかしママも負けてはいない。デイビッドは、嫁姑間のいさかいに発展しないように口を挟み火種を消すことに、ー余念がない。
殺人課におけるデイビッドの存在価値は、ママの家でママに情報を提供するためにあるといっても過言ではない。デイビッドは、ニューヨーク市警に勤めて5年になるが、大半の事件をママに解決してもらっている秘密を、だれかが嗅ぎつけるのではないかとびくびくしているというから、実に情けない。
寡婦であるママはまだたったの52歳、息子夫婦はデイビッドの上司である独身の警部を食事会に招いた。ママはまんざらでもなさそうだった。
ママの結婚前夜の事件を書いた最終章「ママは憶えている」で、ママの母親について語られる。そこでの母親の事件の解決ぶりはあざやかである。ママの安楽椅子探偵の才能は、母親ゆずりなのだ。
ユダヤ人の家系なので、ところどころでユダヤのしきたりが顔を出す。例えば、シナゴーグの話とか、肉を牛乳で煮てはいけないとか。→人気ブログランキング
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