女副署長 松嶋智左
女性副署長を主人公にした本格警察小説。
著者の松嶋智左は元白バイ隊員。経験者だから身にしみているヒエラルキーの微妙な力関係を描いている。大型台風襲来の中で署の駐車場で起こる身内の警察官殺害という特異な密室事件を扱った傑作である。本書は文庫書き下ろし。
女副署長 松嶋智左 Matsushima Chisa 新潮文庫 2020年 384頁 |
33年のキャリアを持つ、県内初の女性副署長・田添杏美が、山際にある日見坂署に赴任してきて半年が経った頃、事件は起こった。
8月の初め、大型台風が接近する暴風雨の中、真夜中に、署内の駐車場で胸をナイフでひと突きされ警察官が殺された。
事件の捜査の先頭に立つ刑事課の強面の大男・花野課長は、「犯人はまだ署内にいる、署長といえども外に出すな」と命令する。花野の荒っぽいが犯人を確実に検挙してきた実績は、多くが認めるところだ。花野は杏美も署長も捜査の対象だという。杏美は頭に血が上った。
殺害現場の駐車場は監視カメラの死角になっていた。しかも、折からの暴風雨で血液も足跡も流されてしまった。
捜査課は全署員の事情聴取を行っている。調べが進むと殺された鈴木係長は、何人かの署員に金を貸していたことがわかった。
署員と交際している署長の娘に聴取しようとする花野に、杏美は直轄の警ら隊を署長宅の警備に当たらせ待ったをかけた。そこで、杏美と花野の間に火花が散る。警ら隊が署長や副署長の配下にあり、捜査課の花野がどうすることもできないという構図は、警察官を経験したからこそ気づくアイデアだろう。
花野は杏美に詰め寄る。かつて、杏美が別の署にいたときに、留置した被疑者の身体検査を怠って麻薬所持を見落とした若い警察官を、杏美は処分するよう上に申し出た。その警官は辞職した。花野はその若い警官を可愛がっていたという。なぜ処分を求めたかを花野は杏美に問いただした。公にされていないが、杏美には処分を訴える確固たる正義があったのだ。
署内で署員がおそらく署員に殺されるという前代未聞の事件である。県警の人間が捜査に加わる前に被疑者を挙げなければ、日見坂署の署員の面子が丸つぶれになると、杏美は思った。花野も同じ思いだろう。
外では台風が猛威をふるい、署員全員に緊急招集がかけられた。市中では道路の冠水や家屋の倒壊などの被害が出ている。河川の中州に取り残された少年の救助が行われている。
一方署内では、留置所から逃げ出し霊安室に逃げ込んだ女が署員が捕まえられた。この不祥事から殺害事件の犯人が絞り込まれていく。→人気ブログランキング
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