JR上野駅公園口 柳美里
本書は、2020年の全米図書賞(National Book Awards)の翻訳部門を受賞したことで話題になった。
テーマは、日本の高度成長期の中で不幸の連続である主人公の生涯と、上野恩賜公園を寝ぐらにするホームレスに及ぼす皇族の理不尽である。
なお、上野恩賜公園と呼ばれるのは、寛永寺の境内地が明治維新後に官有地となり、大正13年(1924年)に宮内庁から東京市に下賜されたことによる。
JR上野駅公園口 柳美里 (Yu Miri) 河出文庫 2017年(単行本2016年) |
主人公は天皇陛下と同じ昭和8年に福島県相馬郡八沢村で生まれた。
家は貧しく主人公の下に7人の兄弟姉妹がいたので、国民学校を卒業すると、小名浜漁港に出稼ぎに出た。12歳だった。やがて北海道に渡り、郷里に帰るのは盆暮れだけ。結婚して、昭和35年2月23日、親王殿下と同じ日に長男の浩一が生まれた。
オリンピックの前の年、昭和38年に上野に向かった。仕事はオリンピックの競技場造りで、重機などはなくもっぱら人力だった。
浩一はレントゲン技師の国家試験に受かったばかりの21歳のときに、アパートで突然死んだ。解剖が行われたが死因は不明だった。八沢村での浄土真宗の葬式の模様が描かれる。
60歳で出稼ぎをやめて八沢村に帰った。ところが、今度は妻が寝ているうちに死んだ。動物病院に勤める孫が面倒を見てくれたが、眠れなくなり、家を出て上野に来た。ホームレスになったのは67歳の時だ。故郷に居場所がなかったのだろう。
恩賜公園のホームレスは東北出身者が多い。
園内のレストランは余った料理を外に置いてくれるし、コンビニは期限切れの弁当を並べておいてくれる。それに教会から炊き出しがある。食べ物には困らない。
アルミ缶を集めて売れば金になった。
喪服を着たサラリーマン風の若い男とごま塩頭の会話も、婦人たちの「ルドゥーテのバラ図鑑展」ついての会話も、耳を傾ければ聞こえてくる。
「まもなく2番線に池袋・新宿方面行きの電車が参ります、危ないですから黄色い線の内側までお下がりください」と、上野駅で流れるアナウンスと同じだ。耳を傾ければ、いろいろな音が聞こえてくる。
天皇家の方々が博物館や美術館を観覧される前に、特別清掃がある。テントをたたんで公園の外に追い出される。ホームレスたちは、それを「山狩」と呼んでいる。山狩は現代社会の歪みの象徴的な出来事だ。ホームレスの人々もその痕跡も、皇族方の目に触れさせてはいけないのだ。
その月は5度の山狩があった。上野公園で暮らす500人のホームレスが追い出された。その日は雨が降って寒い日だった。
体調が思わしくなかった。ホームレスたちが「エロっこ映画館」と呼ぶ映画館に入って座席にすわったが、いつもならすぐに眠ってしまうのに目が冴えて眠れなかった。
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おばちゃんたちのいるところ/松田青子/中公文庫/2019年
コンビニ人間/村田沙耶香/文春文庫/2018年
JR上野駅公園口/柳美里/河出文庫/2017年
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