おばちゃんたちのいるところ 松田青子
幽霊のおばちゃんたちが悩み多き現代人のもとに現れ、手助けしようとする。化けて出るには意志が強くなくてはかなわない。脱力してユーモアに富んでいる。
本書は、17編の連作短編からなる。巻末に作品のモチーフ一覧が示されていて、モチーフは落語が多い。
![]() 松田青子(Matsuda Aoko) 中公文庫 2019年(単行本2016年) |
米国TIME紙が選ぶ2020年の必読書100冊に、本書が選出された。
本書の他に、『乳と卵(らん)』(川上未映子)、『JR上野駅公園口』(柳美里)、『地球星人』(村田紗耶香)が選ばれた。何が起こったのだろう。翻訳者の功績だろうか、選考委員が変わったのか。
恋人に二股をかけられて振られ自殺したおばちゃんが、坊主頭をやめて、幽霊らしく髪を伸ばし始めようとする。(歌舞伎『娘道成寺』)
リストラされた新三郎のもとに灯篭を売りつけようとするセールスレディが現れる。(落語『牡丹灯籠』)
毎夜訪ねてくる骸骨を風呂に入れてマッサージしてもらうのが至福の時だ。(落語『骨つり』)
子どもの頃から嫉妬心が旺盛で「悋気しい」娘だったおばちゃんは有望な幽霊として幽霊派遣会社から嘱望されている。(落語『猫の忠信』)
おばちゃんたちと流れ作業で線香の不良品をはじく仕事をする男。(落語『反骨香』)
汀(てい)さんが現れて、汀さんの会社の線香を焚いていると会いたい人に会えるという。金木犀の匂いがわからないアレルギーの女が一番会いたいのは愛猫のミケ。汀さんはなんとかすると言って帰った。(落語『反骨香』)
仕事の能力が高いきつね目のクズハは狐の化身である。能力を隠して生きてきたことで男にも女と同じ天井が見えてきたことを知る。(落語『天神山』)
有名ホテルの本館が改築されるにあたり、座敷童の婆さんに汀さんは一時的にでもうちに来てくれないかと声をかける。(座敷童)
ふたつの仕事をこなすシングルマザーの夜留守番をする息子を見守るおばちゃん。(民話『子育て幽霊』)
八百屋お七の祀られている神社の御朱印帳書きの娘は習字がうまい。(八百屋お七)
お菊さんが営む雑貨屋に注文していた皿が9枚届くが1枚足りない。それを届けに男が現れて話がはずむ。(落語『皿屋敷』)
姫路城に住みついている富姫の1日は、観光客のスリッパのたてる音で始まる。(戯曲『天守物語』)→人気ブログランキング
おばちゃんたちのいるところ/松田青子/中公文庫/2019年
コンビニ人間/村田沙耶香/文春文庫/2018年
JR上野駅公園口/柳美里/河出文庫/2017年
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