平成・令和 食ブーム総ざらい
本書は、平成元年(1989年)から令和2年(2020年)に至るおよそ30年間の日本の食文化のトレンドを探るものである。網羅的に語られていて、そうだった、そうだと納得させてくれる書きっぷりだ。まさに、平成・令和 食ブーム総ざらいである。
大まかな流れとしては、主に雑誌が発信していた食の情報を、ネットの普及により情報量が圧倒的に増え、グルメが定着した。平成はグルメという言葉が指す範囲が広がった時代だった。また、ブログやインスタグラムの普及により個人が発信する食に関する情報が、飛躍的に増えた。食のトレンドが次々にめまぐるしく変わっていくようになった。スイーツやパンやドリンクに光が当たった。
そして家庭料理をマスコミに登場した料理研究家を論じる。
本書はクックパッドニュースで2018年9月から始まった「平成食ブーム総ざらい!」「あの食トレンドを深掘り!」の連載がベースになっている。
平成・令和 食ブーム総ざらい 阿古真里(Aco Mari) インターナショナル新書 2020年 |
第1章 情報化が進んだ30年
首都圏情報雑誌『Hanako』(1988年創刊)やグルメ情報誌『danchu』(1990年創刊)が、食トレンドを取り上げてきた。『Hanako』はティラミスを流行らせ、「デパ地下」という言葉を最初に使った。
1983年、『ビッグコミック・スピリッツ』で、グルメうんちく漫画『美味しんぼ』の連載が始まった。
1993年、『料理の鉄人』(フジテレビ系)が始った。そのあと『愛のエプロン』、『どっちの料理ショー』、SMAP×SMAPの『BISTROSMAP』と、料理バライティー番組が受け入れられた。アメリカで類似番組が作られた。
2007年には『ミシュラン東京』が発刊されている。
1998年、佐野陽光が立ち上げた『クックパッド』はレシピ・サービスの巨人に成長した。2020年3月の時点で、月間アクセス数5800万という途方もない数字になっている。
『孤独のグルメ』は、『月刊PANJA』誌上で1994年から1996年にかけて連載された。その後、『SPA!』の2008年1月15日号に読み切りとして復活し、以後『SPA!』上で2015年まで新作が掲載された。 その後映像化され、テレビ東京で放映されている。フリーの輸入雑貨商の井之頭五郎(松重豊)が全国各地に赴いて商談をしたのち、町にひっそりある庶民的な店で一人で料理を満喫するというのがパターン。
2008年、放送が開始されたテレビ東京の『男子ごはん』では、ケンタロウ、栗原心平と、二世の男性料理研究家が総菜を教えた。
2010年代、スマートフォンが普及して、フェイスブックやインスタグラムを始める人が増えた。
飲食店で出てきた料理の写真を撮ることが当たり前になってきた。もともと日本料理はヴィジュアル重視なところがある。ブログにキャラ弁が投稿され話題を呼んだ。
「インスタ映え」は2017年の新語流行語大賞の年間大賞に選ばれた。
第2章 グルメが定着していく時代
1988年6月23日号で『HANAKO』は「デパ地下」という言葉を初めて使った。
1990年代後半、生春巻きを中心にベトナム料理が流行った。
韓国ブームは3回あったが食のブームは2回であった。
2002年の日韓サッカーワールドカップ、2003年『冬のソナタ』、2004年『宮廷女官チャングムの誓い』のヒット。
今回のブームは2018年ごろから。若者受けする、チーズタッカルビ、チーズドック、韓国式かき氷など。
ふたつのチキンライス。昭和のチキンライスはケチャップ味。平成は海南チキンライス、ジャスミンライスに茹で鶏のスライスをのせたもの。シンガポール、マレーシアなどの東南アジアの料理として2010年代半ばから流行っている。
スパイシーカレーは、2010年代半ばごろから流行った。
ゴーヤが注目されたのは、2001年NHKの朝ドラ『ちゅらさん』 の大ヒットによる。
2000年代初めに、空港で売られている「空弁」が流行り始める。それは国内線で機内食を出さなくなったからである。2000年には新幹線の食堂車も廃止されている。高速道路の弁当も「早弁」と呼ばれ人気がある。
赤身肉に注目されるようになり、2013年から熟成肉ブームが始まった。
平成はグルメという言葉が指す範囲が広がった時代だった。
2006年に始まった『B-1グランプリ』(全国のご当地グルメで町おこしを目指す企画)が脚光を浴びたのは2010年頃からだ。
2007年から始まった『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ系)が始まり、さまざまなご当地グルメが紹介されるようになった。
唐揚げ専門店が増えた。ニチレイフーズと日本唐揚げ協会の調べでは、2011年から2018年の間に、唐揚げ店の店舗数が3.4倍になっている。
どこの都市にも大戸屋が進出した。
第3章 スイーツ・パン・ドリンク
1988年、イタリア料理のブームが来て「イタ飯」という言葉が生まれ、デザートのティラミスが注目された。
マカロンがブームになったのは2000代半ばだった。
2005年、ピエール・エルメ・パリの旗艦店が青山にできて話題になった。もう一つマカロンブームに貢献したブランドが、ダロワイヨ。
ティラミスで始まったスイーツのの多彩さを楽しむグルメ化は、マカロンで一つのピークに達した。外国のお菓子を受け入れるようになった。タピオカ、ナタデココ、パンナコッタ、ベルギー・ワッフル、カヌレなど。カラフルな色合いがSNSの発達と重なりブームに拍車をかけた。
チョコミント・ブームが始まったのは2016年頃から。2017年8月にバラエティ番組『マツコの知らない世界』で取り上げられて人気が加速し、その年の夏猛暑も手伝って大ブームとなった。2016年ごろから流行り出した、ビーン・トゥ・バー(Bean to Bar)「カカオ豆から板チョコまで」は、ショコラティエが原材料のカカオ豆の仕入れから関わり、焙煎、成形まで一貫生産することを示す言葉。
2007年頃から、バームクーヘンがデパ地下で人気になった。
2010年ごろから、台湾発、韓国発の頭がキーンと痛くならないかき氷が日本に上陸する。
高級パンは2013年、銀座にセントル・ザ・ベーカリーという食パン専門店ができ、行列になったことから始まる。セブン・イレブンの金の食パンも乃が美も同じ頃。1ジャンルとして定着するのか廃れるのか見守るという。
アメリカのシアトルで生まれたコーヒーチェーン店のスターバックスが日本に上陸したのは1996年。その後日本中に出店網を広げ1581店に及ぶ。映画『ユー・ガット・メール』(1998年)や『プラダを着た悪魔』(2006年)で、スタバからテイクアウトする映像が流され、人気を博していった。
1994年、地ビールの生産が解禁された。2010年代に入ると地ビールはクラフトビールと名を変えて、アメリカからブームが押し寄せた。
緑茶ドリンクの成立。
2019年、タピオカ・フィーバー、ウーロン茶や緑茶にミルクや砂糖を入れてタピオカを加える。
第4章 時代を映す食文化
平成米騒動は1993年。世界的な異常気象で日本は冷夏に見舞われ、コメが200万トン足りなくなる。タイやアメリカから米をを輸入するが、タイ米は独特の匂いが敬遠され不評であった。
2013年『英国一家、日本を食べる』(マイケル・ブース)がベストセラーになる。そこで紹介される日本食文化の独自性を、江戸時代の鎖国により培われたと著者は解説している。
同年『フード左翼とフード右翼』(速水健朗)が発刊される。フード左翼とは食に安全性を求め、フード右翼とは食に値段の安さや量を求める。
遺伝子組み換え食品の商業栽培が1996年アメリカで始まった。遺伝子組み換え食品の問題点は、安全性に疑問があること、生態系に異変を及ぼす。さらに多国籍企業により種子が独占され食糧支配につながること。
スローフード協会は1986年イタリアで設立された
在来野菜とはその土地で代々受け継がれてきた野菜のことである。鹿児島県の桜島大根、京都府の聖護院大根、神奈川県の三浦大根。作り続ける理由はおいしいからだという。
アリス・ウォータースが始めたオーガニックムーブメント。
1/3ルール、賞味期限の1/3以内に小売店に納入し、消費者が購入後1/3賞味期限のを過ぎれば廃棄するというもの。食品ロスを減らすために見直しが迫られている。
コロナ禍とベイキング。コロナで家でパンやケーキやクッキー作りが流行って、小麦粉が高騰しているという。それで、洋菓子店のケーキの値が上がっている。
第5章 家庭料理の世界
1989年、『きょうの料理』で夏休み子ども料理教室が放映された。子ども料理に注目が集まった。買い物から調理まで一人でやる。Eテレで視聴率10%を獲得した。
ここで述べるのは料理技術の平均点が下がっているということだ。
1090年代、栗原はるみが一工夫あるオシャレな料理を教えることでカリスマ主婦と呼ばれ、スターダムにのし上がった。
団塊の世代の料理研究家として、栗原はるみのほかに、山本麗子、藤野真紀子、加藤千恵などが活躍した。
熱狂的栗原はるみのファンはハルラーと呼ばれた。栗原はるみが脚光を浴びたのは1992年に出した『ごちそうさまが、ききたくて。』がミリオンセラーを記録したことによる。家庭を支える主婦が、厳しくやりがいのあるものになりうると伝えた人でもあった。
料理の基礎がなっていない人々が多くなった。そこで、子どもが作る料理をとり上げ、母親からの教えられた料理に自分の工夫を加えた辰巳芳子に触れた。
フランスの食器メーカーから発売された、カラフルな色合いのル・クルーゼがブームになる。
ミールキットの市場が活性化したのは、2013年。売り出したのは有機野菜のインターネット通販のオイシックスである。時間があったら手料理をじっくり作りたいとの願望があるからである。→人気ブログランキング
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