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2021年3月

明治バベルの塔

明治時代は日本刀で人を斬る話が出てきても違和感はない。政治家は妾を持ち放題であるし、むしろ財を成した人物は本妻の他に妾がいて当たり前である。
変化についていけず存在理由を前の時代にすがろうとした者がいた。変化に身を任せ悠々と生きていく者もいた。そんな大雑把で落ち着きがない明治時代を舞台に、博覧強記の著者は奇矯なアイデアで描く。一編一編が際立って面白い極品の短編集である
Photo_20210329142801明治バベルの塔(山田風太郎 明治小説全集12)
山田風太郎 
ちくま文庫 
1997年

明治バベルの塔
明治34年7月、京橋弓町の「万朝報」の社長室。社長の黒岩涙香は40歳、論説社員の幸徳秋水は31歳であった。涙香は総理大臣桂太郎が芸者を妾にしようとしている記事を書いている。のちに大逆事件の首謀者として捉えられる幸徳秋水は「万朝報」の辣腕記者である。宗教家の内村鑑三も記者である。
涙香は足尾銅山に絡む汚職を新聞の賞金クイズを通じて暴くという突飛なアイデアを使う。

牢屋の坊ちゃん
明治28年、清国の講和全権大使李鴻章をピストルで撃った男が釧路の監獄に護送された。その男・小山豊太郎は上州の村の素封家の家で育った。父親は県議会議員、本人は慶應義塾に籍を置いたこともある。
監獄では反抗的な態度を取ったことで独房に入れられたり、「闇室五昼夜」という懲罰で狭い部屋に入れられたりした。6年過ぎて釧路監獄は廃止され網走監獄に移ることになった。その後、脱走に加わらなかったことで仮釈放となる。
夏目漱石の『坊ちゃん』の無鉄砲な主人公ならば、小山豊太郎のような獄中生活を送ったかもしれないという発想で、『坊ちゃん』の文体を模倣して描いたと、「作者後口上」で書いている。

いろは大王の火葬場
木村壮平は、政府から払い下げられた牛の屠殺場を運営し、また数多いる妾に牛鍋屋をやらせ、さらに高機能の火葬場を建てた。ところが、この高級火葬場で火葬する第一号が見つからない。宣伝効果を狙って第一号は有名人にしようと部下にセールスさせるが、適当な人物が見つからない。

四分割秋水伝
幸徳秋水を、著者独自の上半身、下半身、背中、大脳旧皮質の4つの視点から描く。上半身はタテマエ、下半身は性的な面や世俗な姿を見せる家庭など、背中は逆の反面、そして大脳旧皮質は本人も意識できない原始深部の声であると、「作者後口上」で書いている。
天皇の暗殺を企てた罪で死刑となった幸徳秋水の、裏も表も心の中もすべてを描き出すということだ。

明治暗黒星
伊庭想太郎は、元禄年間に生まれた心形刀流の第10代目である。明治34年、想太郎は強引な政治手法と金権体質から波乱に人生を送る星亨を刺殺した。2人の生き様を描く。→人気ブログランキング

妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
明治バベルの塔(山田風太郎 明治小説全集12)/ちくま文庫/1997年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年
明治断頭台/文春文庫/2012年
婆娑羅/講談社文庫/1993年

コンビニ人間

コンビニ店員の主人公を通して、現代人の生き様を描く。第155回(編成28年度上半期)芥川賞受賞作。
Photo_20210325083901コンビニ人間
村田沙耶香
文藝春秋 (文春文庫 2018年)
2016年

主人公は変わった子どもだった。死んだ小鳥を食べようと言い、親からたしなめられた。
小学校のときに、取っ組み合いの喧嘩をしている同級生の男子の頭をスコップで殴って、喧嘩を止めさせた。ヒステリーになって教壇の机を出席簿で叩く若い女の先生のスカートとパンツを下げて、静かにさせた。それもこれも、「止めろ」と叫ぶ声に従っただけだとうそぶく。事件が起こるたびに、母親は学校に呼び出された。
行動すると問題が起きるので、高学年になるとほとんどしゃべらなくなり、行動しなくなった。
小学校・中学校を無事終了し高校も大学も、同じ対応でやり過ごした。

19歳の大学1年生のときに、新規開店するコンビニがアルバイトを募集していたので、そこに行ってみた。それからそのコンビニでアルバイトを続けた。主人公は36歳になり、相変わらずコンビニでアルバイトをしている。

主人公は地元の友達と会うときには、少し持病があって体が弱いからアルバイトをしていることにしている。コンビニでは、親が病気がちで介護があるからアルバイトなら時間に融通がきくからだということにしている。この二種類の言い訳は妹が考えてくれた。
コンビニは、性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身につければ全員が店員という均等な存在だ。

婚活が目的だという35歳の自己中心的な男は、若い女性の宅配便の住所を写メで撮っている。店員の一人は、四六時中、不満をいう現実逃避の男。客に注意して回る中年の客 など、まともじゃない人がいる。

昇進の望みないから、同僚はころころ入れ替わる。コンビニ店員は、コンビニ店という箱の中で、マニュアル通りの動きをすることだけを求められる。主人公にとってはコンビニ店員としてのアイデンティティだけが拠り所であり、生きる証なのだ。

〈朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのことだけが、私を正常な人間にしているのだ。〉と、自分に言い聞かせている。→人気ブログランキング 

おばちゃんたちのいるところ/松田青子/中公文庫/2019年
コンビニ人間/村田沙耶香/文春文庫/2018年
JR上野駅公園口/柳美里/河出文庫/2017年

明治断頭台

幕府が瓦解し新政府が発足したとはいえ、世の中のあらゆるところに矛盾が転がっていた。そんな明治の初期、主人公である香月経四郎と川路利良は太政官弾正台の大巡察であった。その職権はのちの検事局、警視庁、憲兵隊、会計監査院を兼ねたものであるという。2人は将来日本の警察を背負って立つ人物と目されていた。
政府は正義の具現者であるべきだというのが経四郎の信念である。川路は経四郎のそうした考え方に前のめりになるなと釘を刺す。2人は事件の謎解き合戦をはじめるのである。
Photo_20210321122501明治断頭台
山田風太郎
文春文庫
2012年

明治2年秋、東京の5人の邏卒(明治初期の警官の称)は、平民の弱みに漬け込んで金をせびるようなことをしていた。明石町の番所に酔っ払いが保護されると、羅卒は目覚めた酔っ払いに命が助かったのだから財布ごと置いていけといった。

鍋島藩切っての剣の名手香月経四郎は、文久3年(1863年)欧州使節団護衛役として欧州行きに参加したが、病気になりパリに置き去りにされ3年後に帰ってきた。パリから追いかけてきた金髪の美女エスメラルダは、パリ代々の首切り役サンソン一家の9代目にあたる。佐賀屋敷で香月経四郎と同棲をしている。叔父の真鍋直次が令嬢のお縫を連れて現れ、金髪娘をフランスにさっさと返して、お縫と結婚しろという。
経四郎はエスメラルダの父が作ったフランス式のギロチン台を、小伝馬町牢屋敷の斬罪場に作られた小屋に持ち込んだ。

まずは3人の極悪人の首をギロチンで刎ねる。その切れ味の鋭さを見せつけておいて、5人の邏卒に次はお前たちの番だと脅したものだからビビった。以後、邏卒たちは経四郎の手となり足となって働くようになる。

ギロチンによって職が脅かされる人間もいる。江戸時代から藩に引き継がれてきた首切り役だ。罪深き人間とはいえ、せめて切り手の魂の伝わる刀を持ってあの世に送ってやるのが日本人の古来の美風であるまいかという理屈だ。首切りはなんでも実入りがいいらしい。

2人が捜査したのは、築地ホテル館での胴斬り事件、神田川の人力俥墜落事件、永代橋の首吊り事件、築地居留地の足切り事件、そして5つの首事件である。それぞれの事件は、巫女に扮した金髪のエスメラルダの降霊術で真相が暴かれる。
そして、経四郎は政府内で起こった汚職事件を調査を開始する。

最後は圧巻だ。
山県有朋が陸軍の金を山城屋に融資して大損した。その調査を中止するように西郷隆盛から川路は頼まれた。薩摩人の川路は断れようはずもなかった。問題は佐賀出身の香月経四郎だ。
経四郎に事件から手を引かせようと、エスメラルダに禁断の書の翻訳を依頼して陥穽にはめた。エスメラルダは捕まり断首の刑が決まった。川路は経四郎にエスメラルダを助けるかわりに山城屋事件から手を引くようにと持ちかけた。経四郎は承知しなかった。

エスメラルダの処刑が決まっても、経四郎は淡々と日々の仕事をこなした。斬首の日になると経四郎は小伝馬町牢屋敷に関係者を集め、口上を述べた。5つの事件の裏に邏卒が絡んでいたことを連綿と述べ、邏卒たちを牢にぶち込んだ。さて、そこから痛快な大円団に向かう。→人気ブログランキング

妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
明治断頭台/文春文庫/2012年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年

甲賀忍法帖

73歳の家康は、秀忠のあとを国千代と竹千代のどちらにするかで迷っていた。
後継者選びを甲賀と伊賀の忍者対決で決めてはどうかと、天海僧正は提案した。伊賀が勝てば竹千代が、甲賀が勝てば国千代が三代将軍になる。
一方、甲賀と伊賀は和睦が成就しようとしていた。愛し合う甲賀弦之介と伊賀の朧が夫婦になれば400年にわたる甲賀と伊賀の悪縁が氷解する。しかし天海僧正のこの進言で、伊賀甲賀の10人ずつが選抜され、勝ち負けを競うことになってしまった。駿府城にたどり着けるのは甲賀なのか伊賀なのか。
Photo_20210317181601甲賀忍法帖
山田風太郎  
講談社文庫 
1998年

その10人とは、甲賀は、甲賀源之助、その祖父の甲賀弾正、風待将監(かざまち しょうげん)、鵜殿丈助(うどの じょうすけ)、地虫十兵衛(じむし じゅうべえ)、室賀豹馬(むろが ひょうま)、霞刑部(かすみ ぎょうぶ)、如月左衛門(きさらぎ さえもん)
、陽炎(かげろう)、お胡夷(おこい)。
一方、伊賀は、お幻(おげん)、朧(おぼろ)、小豆蠟斎(あずき ろうさい)、朱絹(あけぎぬ)、蓑念鬼(みの ねんき)、夜叉丸(やしゃまる)、蛍火(ほたるび)、雨夜陣五郎(あまよ じんごろう)、薬師寺天膳(やくしじ てんぜん)、筑摩小四郎(ちくま こしろう)。
ここで、以下の4名の術を紹介する。
甲賀源之介、殺意を帯びて襲いかかる者を自滅させる瞳術の使い手。陽炎、彼女が欲情に駆られる時は、吐息が猛毒をおび、抱いた者は死に至る。朧、おっとりした温和な性格だが、見るmだけであらゆる忍法を破る破幻の瞳を生まれつき備えている。薬師寺天膳、伊賀の副首領、何度殺されても蘇る不死の術をもつ。初手では殺されることが多いが、これによって相手の忍術を見破り、再度戦っと時には相手を殺害する術を得意とする。

まずは、源之助の祖父・弾正と朧の祖母・幻が相見えた。かつて愛し合った二人だったが、術の掛け合いでお互い事切れた。これで9人対9人になった。
選抜リストの巻物は、1巻は鷲が掴んだまま伊賀鍔の谷に向けて飛び去り、もう1巻は風待将監が所持して甲賀に向かった。和睦決裂がいち早く伝わった伊賀者たちは、書状を甲賀に届けさせてはならないと、5人の伊賀者が風待将監の待ち伏せた。

そんなことはつゆ知らず、甲賀源之助と鵜殿丈助が伊賀の鍔の谷に向かっている。そこで源之助は朧と出会い、丈助は朧の世話をする朱絹にちょっかいをだす。源之助は朧と夫婦になれるとばかり思っている。

隠れ谷での宴は終わったが、朧によって集められた人々が本心から弦之助を歓迎する気持ちを抱いていたものが何人いたか。
ところが、伊賀者は風待将監を葬ったばかりでなく、卍の里に忍び込み、甲賀を襲った。和睦の日が迫っているのに伊賀者が襲ってきたことが、甲賀の古強者たちには解せなかった。
甲賀もその理由を知ることとなり、全面戦争に突入する。
相手を殺した者が次の相手と戦う、トーナメント戦のように、殺し合いが続く。
そして、最終段階に入り、残った甲賀伊賀の忍者たちは、駿府城を目指している。甲賀は弦之助と陽炎、伊賀は天膳と朧が残っている。
駿府城にたどり着けるのは甲賀なのか伊賀なのか。甲賀・弦之助ロミオと伊賀・朧ジュリエットの運命はいかに。→人気ブログランキング

妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
明治断頭台/文春文庫/2012年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年

書きたい人のためのミステリ入門

著者は20年近く新人賞の下読みをしてきた。何百本という応募原稿を読んできて、「惜しいなーもう少し面白くできたはずなのに」と思うことがよくあったという。それはミステリ的お約束を踏まえていないことに起因する。ミステリは暗黙の了解が多いジャンルだという。そのお約束を、書く側だけでなく読む側の人にも知って欲しいという。ミステリの基礎体力が付けば、どこが新しいか、どこが凄いかが見えてくるという。本書はミステリの書き方を手取り足取り教えてくれる。
Photo_20210309121001書きたい人のためのミステリ入門
新井久幸
新潮新書
2020年 ✳︎10

ミステリの三つの要素は、「謎」「伏線」「論理的解決」。
できるだけ冒頭で物語の謎が示されるべきだという。
論理的解決に重きをおかれたのが、本各ミステリである。島田荘司は「本格ミステリー論」(『本格ミステリー宣言』所収)のなかで、「吸引力のある『美しい謎』が初段階で必ず必要」であり、美しい謎とは幻想味ある・強烈な魅力を要する謎で「詩美性のある謎と言い換えてもいよい、と述べた。
幻想味に関しては、ミステリのセンスから外れない限り、とんでもないものであればあるほどよい。日常的常識レベルから、理解不可能であればるほど望ましい、とする。一方、解決の論理性に関しては、徹底した客観性、万人性、日常性のあるものが望ましい。本格ミステリーとは、この両者に生じる格差もしくはそこに現れる段差の美に酔うための小説であるとある。すべてのミステリに敷衍できる。

伏線は映像として印象に残らなければならないという。伏線はダブルミーニングであることが望ましい。伏線は堂々とはって構わない。応募作品を見ていると、おっかなびっくり伏線を張ってることが多いという。読者が推理できるように印象的な手がかりを置き、解決の段になって、「ああそうだったのか。そういえば、書いてあった」と思わせてこその伏線である。
『シャーロックホームズの冒険』のなかの『唇のねじれた男』『まだらの紐』のネタを知った上で読んでみると伏線が敷かれていることがわかるという。

普段の読書で単に面白かったつまらなかったで終わらせず、どうして面白いと思ったのかどうしたらもっと面白くなるのか、突っ込んで考える癖をつける。
ミステリにおけるフェアとアンフェアの問題は『アクロイド殺し』で有名だが、大前提は地の文で嘘を吐いてはいけないということ。
文章は、一人称と三人称があり、さらに三人称多視点、神視点がある。視点のぶれには気をつける。

小説を書くときに、補助線を引くことが大切ある。
補助線とは、すでに手に入れている手掛かりに、なんらかのきっかけで別の見方や解釈が加わることで、本当の意味がわかり、全体像が見えてくることをいう。

一本のストーリーラインで語られる一つの謎を、長編として飽きずに最後まで読ませるには、相当な工夫が必要になる。閉鎖空間、少人数で語られるような物語は、そのワンシチュエーションではとても長編は持たせられない。だから各人の事情であったり、外界との接触であったり、過去のカットバックであったり、時に犯人と思しき人物のモノローグなどを入れて、読み味に変化を与えていく。そういった眼で、長編を読み返してみる。

リアルとは、作品世界に乱れがなければ、どんなに現実離れした物語でも、読者は寄り添って読むことができる。その乱れなき世界を構築することが、世界を作ることであり、読者の心をつかむことにつながる。

一貫した人物像の構築が人間を書くことの基本である。
書く前に登場人物の履歴書を作っておくという作家もいる。子供の頃から、どこでどういう経験を重ねて大人になったかまで、書く予定のないこと含めて可能な限り準備しておく。

書き過ぎないことも大切、読者が斟酌する余地を残しておく。
ともかく最後まで書ききる。うまい文章は書かなくていい。わかりやすい文章が求められる。文章は後でうまくなるという。→人気ブログランキング

ラスプーチンが来た

のちに、ヨーロッパに駐在し、ロシアの革命党員を手助けした諜報員・明石元二郎大佐の青春時代の物語である。
東条英機の父親や二葉亭四迷や森鴎外、学生の正岡子規と夏目漱石、チーホフ、内村鑑三、津田梅子、川上音二郎一座が顔を出す。このうち、二葉亭四迷と内村鑑三は濃厚にストーリーに絡む。歴史上の人物を登場させるそのさじ加減が絶妙だ。
Image_20210304155901ラスプーチンが来た
山田風太郎
文藝春秋
1984年

明石元二郎は越前黒田藩の士族の子、遠慮とか恐怖心というものを先天的に欠いた性質である。ズボラで不潔であるが、なんとも言えない愛嬌があり、友人はもとより直属の上司に認められている快男児である。

明石は参謀次長から乃木家のごたごたを鎮めるようにと頼まれた。乃木希典の妻・静子は嫁姑の確執で家を出ている。静子が相談したのが伊勢神道占の稲垣黄天。占いは当たるというが、人の弱みに付け込む悪人だ。

森有礼(ありのり)文部大臣は国語を英語になどと提案する西欧かぶれである。森有礼暗殺事件(明治22年2月)は、伊勢神宮の社殿の御帳をステッキでめくったという不敬を働いたことに激怒した内務省の役人が、暗殺に及んだ。
そのとき社殿を案内したのが禰宜を務めた竜岡左京だった。不敬な行動などなかったと竜岡が稲垣黄天に話したところ、稲垣がまったく逆の話にすり替えた。竜岡が森文部大臣の暗殺をそそのかしたという噂を流すと竜岡を脅した。
稲垣は竜岡の娘・雪香を巫女として人身御供に出せと迫っている。
竜岡の妻にはむくつけき男に抱かれたいという淫乱な性癖があって、10年前に家出して娼婦の道を選んだ。妻は血友病の遺伝子を持つが、その血は雪香に引き継がれている。

乃木家と関わるうちに、あこぎな稲垣が雪香を手中にしようしていることを知り、雪香の美貌に心ときめいた明石は、結婚を申し込んだ。血友病の遺伝子が雪香に承諾を躊躇させる。

一方、北のサハリンでは、チーホフが強制収容所を見学に来ている。町の娼館で喀血が止まらない日本人娼婦がいた。モスクワ大学医学部出身のチーホフは診察を頼まれるが、なすすべはなかった。娼婦は夏香と弟の綱太郎の母親であった。チーホフに娘宛の手紙を託した。そんななか、ラスプーチンがサハリンに現れ、チーホフは日本に上陸するというラスプーチンに娼婦の手紙を託したのだった。

ラスプーチンが日本に上陸してから、話が急展開する。
破天荒な明石元二郎、権謀術数を弄する稲垣黄天、ふたりは雪香の争奪戦を繰り広げるが、ふたりは同類の特異な人間である。そこにロシアから、特異さではふたりのはるか上をいく怪人ラスプーチンが東京に現れ、四谷の貧民窟で生活をはじめる。

ロシアで娼館を建てたいとの野心を持つ二葉亭四迷は、ラスプーチンにウラジオストクに連れてってもらおうとする。ラスプーチンは預かった雪香宛の手紙を見せた。ラスプーチンは直接雪香に渡したいという。二葉亭四迷は雪香を四谷に連れて行った。ラスプーチンは雪香をそばにおいて直接教育してみたいという。

ロシアのニコライ皇太子が、ギリシャからインド洋を経て、日本にやってきた。
ラスプーチンの日本上陸の目的は、ニコライ皇太子に会うことであった。
そして明治24年5月11日に大津事件が起こる。滋賀県の大津町で警備にあたっていた警察官・津田三蔵がニコライ皇太子に突然斬りつけ皇太子が負傷した。ラスプーチンが現れ皇太子の創に手を当てると、創は小さくなった。

雪香はラスプーチンとともに母がいるシベリアに行くという。
哀れ明石元二郎は恋に敗れたのだった。→人気ブログランキング

血友病はX連鎖劣性遺伝病で、この遺伝子を持つ女性から生まれる男児は、1/2の確率で血友病になる。女児は血友病にはならないが、1/2が血友病の遺伝子を持つことになる。

妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
明治断頭台/文春文庫/2012年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年

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