明治バベルの塔
明治時代は日本刀で人を斬る話が出てきても違和感はない。政治家は妾を持ち放題であるし、むしろ財を成した人物は本妻の他に妾がいて当たり前である。
変化についていけず存在理由を前の時代にすがろうとした者がいた。変化に身を任せ悠々と生きていく者もいた。そんな大雑把で落ち着きがない明治時代を舞台に、博覧強記の著者は奇矯なアイデアで描く。一編一編が際立って面白い極品の短編集である
明治バベルの塔(山田風太郎 明治小説全集12) 山田風太郎 ちくま文庫 1997年 |
明治バベルの塔
明治34年7月、京橋弓町の「万朝報」の社長室。社長の黒岩涙香は40歳、論説社員の幸徳秋水は31歳であった。涙香は総理大臣桂太郎が芸者を妾にしようとしている記事を書いている。のちに大逆事件の首謀者として捉えられる幸徳秋水は「万朝報」の辣腕記者である。宗教家の内村鑑三も記者である。
涙香は足尾銅山に絡む汚職を新聞の賞金クイズを通じて暴くという突飛なアイデアを使う。
牢屋の坊ちゃん
明治28年、清国の講和全権大使李鴻章をピストルで撃った男が釧路の監獄に護送された。その男・小山豊太郎は上州の村の素封家の家で育った。父親は県議会議員、本人は慶應義塾に籍を置いたこともある。
監獄では反抗的な態度を取ったことで独房に入れられたり、「闇室五昼夜」という懲罰で狭い部屋に入れられたりした。6年過ぎて釧路監獄は廃止され網走監獄に移ることになった。その後、脱走に加わらなかったことで仮釈放となる。
夏目漱石の『坊ちゃん』の無鉄砲な主人公ならば、小山豊太郎のような獄中生活を送ったかもしれないという発想で、『坊ちゃん』の文体を模倣して描いたと、「作者後口上」で書いている。
いろは大王の火葬場
木村壮平は、政府から払い下げられた牛の屠殺場を運営し、また数多いる妾に牛鍋屋をやらせ、さらに高機能の火葬場を建てた。ところが、この高級火葬場で火葬する第一号が見つからない。宣伝効果を狙って第一号は有名人にしようと部下にセールスさせるが、適当な人物が見つからない。
四分割秋水伝
幸徳秋水を、著者独自の上半身、下半身、背中、大脳旧皮質の4つの視点から描く。上半身はタテマエ、下半身は性的な面や世俗な姿を見せる家庭など、背中は逆の反面、そして大脳旧皮質は本人も意識できない原始深部の声であると、「作者後口上」で書いている。
天皇の暗殺を企てた罪で死刑となった幸徳秋水の、裏も表も心の中もすべてを描き出すということだ。
明治暗黒星
伊庭想太郎は、元禄年間に生まれた心形刀流の第10代目である。明治34年、想太郎は強引な政治手法と金権体質から波乱に人生を送る星亨を刺殺した。2人の生き様を描く。→人気ブログランキング
妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
明治バベルの塔(山田風太郎 明治小説全集12)/ちくま文庫/1997年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年
明治断頭台/文春文庫/2012年
婆娑羅/講談社文庫/1993年
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