ラスプーチンが来た
のちに、ヨーロッパに駐在し、ロシアの革命党員を手助けした諜報員・明石元二郎大佐の青春時代の物語である。
東条英機の父親や二葉亭四迷や森鴎外、学生の正岡子規と夏目漱石、チーホフ、内村鑑三、津田梅子、川上音二郎一座が顔を出す。このうち、二葉亭四迷と内村鑑三は濃厚にストーリーに絡む。歴史上の人物を登場させるそのさじ加減が絶妙だ。
ラスプーチンが来た 山田風太郎 文藝春秋 1984年 |
明石元二郎は越前黒田藩の士族の子、遠慮とか恐怖心というものを先天的に欠いた性質である。ズボラで不潔であるが、なんとも言えない愛嬌があり、友人はもとより直属の上司に認められている快男児である。
明石は参謀次長から乃木家のごたごたを鎮めるようにと頼まれた。乃木希典の妻・静子は嫁姑の確執で家を出ている。静子が相談したのが伊勢神道占の稲垣黄天。占いは当たるというが、人の弱みに付け込む悪人だ。
森有礼(ありのり)文部大臣は国語を英語になどと提案する西欧かぶれである。森有礼暗殺事件(明治22年2月)は、伊勢神宮の社殿の御帳をステッキでめくったという不敬を働いたことに激怒した内務省の役人が、暗殺に及んだ。
そのとき社殿を案内したのが禰宜を務めた竜岡左京だった。不敬な行動などなかったと竜岡が稲垣黄天に話したところ、稲垣がまったく逆の話にすり替えた。竜岡が森文部大臣の暗殺をそそのかしたという噂を流すと竜岡を脅した。
稲垣は竜岡の娘・雪香を巫女として人身御供に出せと迫っている。
竜岡の妻にはむくつけき男に抱かれたいという淫乱な性癖があって、10年前に家出して娼婦の道を選んだ。妻は血友病の遺伝子を持つが、その血は雪香に引き継がれている。
乃木家と関わるうちに、あこぎな稲垣が雪香を手中にしようしていることを知り、雪香の美貌に心ときめいた明石は、結婚を申し込んだ。血友病の遺伝子が雪香に承諾を躊躇させる。
一方、北のサハリンでは、チーホフが強制収容所を見学に来ている。町の娼館で喀血が止まらない日本人娼婦がいた。モスクワ大学医学部出身のチーホフは診察を頼まれるが、なすすべはなかった。娼婦は夏香と弟の綱太郎の母親であった。チーホフに娘宛の手紙を託した。そんななか、ラスプーチンがサハリンに現れ、チーホフは日本に上陸するというラスプーチンに娼婦の手紙を託したのだった。
ラスプーチンが日本に上陸してから、話が急展開する。
破天荒な明石元二郎、権謀術数を弄する稲垣黄天、ふたりは雪香の争奪戦を繰り広げるが、ふたりは同類の特異な人間である。そこにロシアから、特異さではふたりのはるか上をいく怪人ラスプーチンが東京に現れ、四谷の貧民窟で生活をはじめる。
ロシアで娼館を建てたいとの野心を持つ二葉亭四迷は、ラスプーチンにウラジオストクに連れてってもらおうとする。ラスプーチンは預かった雪香宛の手紙を見せた。ラスプーチンは直接雪香に渡したいという。二葉亭四迷は雪香を四谷に連れて行った。ラスプーチンは雪香をそばにおいて直接教育してみたいという。
ロシアのニコライ皇太子が、ギリシャからインド洋を経て、日本にやってきた。
ラスプーチンの日本上陸の目的は、ニコライ皇太子に会うことであった。
そして明治24年5月11日に大津事件が起こる。滋賀県の大津町で警備にあたっていた警察官・津田三蔵がニコライ皇太子に突然斬りつけ皇太子が負傷した。ラスプーチンが現れ皇太子の創に手を当てると、創は小さくなった。
雪香はラスプーチンとともに母がいるシベリアに行くという。
哀れ明石元二郎は恋に敗れたのだった。→人気ブログランキング
血友病はX連鎖劣性遺伝病で、この遺伝子を持つ女性から生まれる男児は、1/2の確率で血友病になる。女児は血友病にはならないが、1/2が血友病の遺伝子を持つことになる。 |
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