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2021年4月

風光る 藍染袴お匙帖 藤原緋紗子

千鶴は、医学館の教授方であった父・桂東湖の遺志を継いで江戸府内でも珍しい女医となって3年が経つ。藍染川沿いにある200坪ばかりの土地に、住居を兼ねた治療院が建っていて、裏庭は薬園になっている。西陣の平織りの生地を近くの紺屋で染めた袴をはいて往診する。人は千鶴を藍染先生と呼ぶ。

主な登場人物を紹介する。千鶴は父の時代から女中として桂家に奉仕するお竹、医師を目指す助手のお道の3人で住んでいる。おじの酔楽は千鶴を娘のように可愛がる医者。南町奉行の同心、浦島亀之助はなにかにつけ治療院に顔を出し千鶴の気を引こうとする。岡っ引きの猫八こと猫目の甚八は、頼りない亀之助の代わりにこまめに動く。菊池求馬は200石旗本の当主だが仕事がない。治療院に顔を出して千鶴を助け、事件を解決に導く。千鶴とは相思相愛の仲である。
『藍染袴お匙帖』シリーズは、2010年にNHK土曜時代劇で『桂ちづる診療日録』のタイトルでドラマ化された。桂千鶴を市川由衣が演じた。

82a36d6db4be4e639989d1fdb1337a39風光る 藍染袴お匙帖
藤原緋紗子
双葉文庫
2005年

「蜻火(かげろひ)」
新しい建物を建てようと土を掘り返したところ、人骨が出てきた。南町奉行所同心定中役の浦島亀之助は千鶴の知恵を借りようと治療院にやってきた。妻に逃げられた亀之助は千鶴にぞっこんで、何かと治療院にやってくる。
徳蔵が相模屋の番頭を辞して、人骨が出た土地に店を出したのが3年前。2年前に、徳蔵一家が神隠しにあった。
千鶴はおじの酔楽先生から届いた粘土を使って、頭蓋骨にスーパーインポーズを施す。すると、それは明らかに徳蔵の顔であった。
徳蔵の妻だったおきちは、巳之助という悪徳高利貸しと一緒にいることがわかった。巳之助は徳蔵を殺して縁の下に埋め、おきちと娘をさらった。そして、阿漕な取り立てをする金貸として羽振りが良くなっていたのだ。
亀之助と大勢の小者で、巳之助一味の根城である向島の一軒家に踏み込んだ。

「花蝋燭」
やくざ者を殺したお栄が牢の中で子どもを産んだ。産後の肥立ちが思わしくなく、お栄は息を引き取った。千鶴はことの真相を明らかにしてくれるよう女囚たちに哀願された。
女中として蝋燭屋の三国屋に入ったお栄は絵心があり、お栄が絵を施した花蝋燭は三国屋に客を呼び寄せた。養子であった与茂助は店の繁盛で三国屋の跡取りになれたのだ。千鶴は仕入れで西国巡りから帰ってきた与茂助に直接真相を訊く。
殺された銀六から与茂助は強請られていた。銀六がお栄に匕首を突き付けると、お栄は銀六の手首に噛みついた。与茂助は銀六目がけて材木を振り下ろすと、避けた銀六の上に材木が倒れてきて頭に当たりそのまま銀六は死んだ。お栄は自分が手込めにされそうになって、材木で殴ったと奉行所に申し出たのである。
与茂助はお栄を妻に迎えようと思っていた。お栄が産んだ子どもは与茂助の子どもだったのだ。
 
「春落葉」
賊は裸にして後ろ手に縛り口と目に鳥もちを塗った有森藩の中間に、「これで思い知ったか」と捨て台詞をして立ち去ったという。両国橋の西詰で小鳥に芸をさせている痩せた老人・宇吉が、桂治療院に運ばれてきた。宇吉の腹には手の施しようのない腫瘤があった。
宇吉は鳥刺しである。鳥刺しとは御鷹匠の差配で鷹の餌をとる者だ。おおかたは町人が請け負うが帯刀を許されている。鷹には1日雀10羽を必要とする。そんな宇吉がなぜ江戸にいるのか。
そして、またもや鳥もち事件が起こった。おふさという長唄の師匠で、有森藩の御留守居役の須崎源之丞の妾だった。
その昔、有森藩の城下で呉服商を営んでいた井筒屋の息子兄弟が、傷ついた雉を助けようと捕まえた。兄弟は、国家老の三男坊・須崎源之丞に御鷹場で禁止されている鳥を捕獲したと、鳥もちで追い回され、弟の顔を鳥もちが覆い殺された。井筒屋は藩に事の次第を訴えたが、兄・儀一の作り話と退けられ井筒屋は追放になった。その一部始終を見ていた宇吉は、源之丞の仕業だと言い出せなかったことを後悔した。
鳥もち事件の犯人は儀一の仕業と分かった。源之丞は酒宴の席で庭に出て、鳥もちを口に放り込まれて死んだ。源之丞の隣には年老いた男の小さな骸が転がっていた。

「走り雨」
弟子のお道を人質に取られた千鶴は、ある町家まで目隠しで駕籠で連れていかれ、人質解放と引き換えに若い侍の肩の創を縫合した。
おじの酔楽が風邪をひいたから、代わりに、大目付の下妻の子どもを往診しろという。子どもはよくある便通の支障であった。下妻の妻が一昨日5人の覆面武士が侵入してきて、警護の武士が、そのうちのひとりに肩に傷を負わせたという。
千鶴は、駕籠の中で橋を渡って坂を登り鐘を聴き、石段を登り、琵琶の音を聞いたことを頼りに、連れていかれた町屋の場所を突き止め、菊池求馬とともにその家に乗り込んだ。そこには肩を切られ治療を受けた順之助がいた。
本山藩は藩主が贅沢をして農民の食い扶持までも税として納めさせた。下妻は疲弊した18ヶ村を幕領として取り上げ、石高を下げ農民たちを救ったのだ。下妻を襲った順之助たちは自分たちの藩主が正しいと誤解していたのだ。血気盛んな5人の前に、千鶴、求馬、酔楽、下妻が現れて、下妻が真実を切々と伝えるのだった。結末は泣ける。→人気ブログランキング

藁一本 藍染袴お匙帖/2019年
風光る 藍染袴お匙帖/2005年

大聖堂 レイモンド・カーヴァー

訳者は、巻末に「解題」というタイトルで、各短編のあらすじと解説を書いている。レイモンド・カーヴァーという作家を掘り出して、日本に紹介するのだからという意気込みで。。
カーヴァーが描くのは、決して着実な人生を送っている人々ではない。虐げられた人々だ。カーヴァーはちゃんとしたくても、ちゃんとできない人の苦悩を描いている。
本書は全米批評家協会賞およびピューリッツアー賞候補となった。訳者は「大聖堂」が大傑作とするが、「熱」も劣らず傑作である。
Be30496f95b940d2a084b61c5934fcad大聖堂
レイモンド・カーヴァー/村上春樹
中央公論新社
2007年

「熱」
妻のアイリーンが同僚の教師と駆け落ちした。途方に暮れたカーライルは幼いに2人の子どもを抱え奮闘した。ベビーシッターの当たりが悪くさんざんな目にあった。夏休み中は子どもの面倒をみることで手がいっぱいだった。3か月経って、アイリーンが電話をかけてきた。スピリチュアルな言葉を口にし、駆け落ち相手の男の母親ミセス・ウェブスターをベビーシッターに雇ってはどうかという。翌朝、カーライルが勤めに出る前に、ミセス・ウェブスターが現れた。ミセス・フェブスターは家事も子どもたちの面倒も完璧にこなした。カーライルは気持ちが落ち着き授業に身が入るようになった。
この後カーライルは高熱を出す。ミセス・ウェブスターの看病のおかげでカーライルは回復する。
ところが、ウェブスター夫妻は引っ越さなければならないことになった。止むに止まれぬ事情に、カーライルは納得せざるを得なかった。

「羽根」
夫婦は夫の同僚の家に招待された。クジャクがいて赤ん坊がいた。赤ん坊はひどく不細工で、食事が終わると臭いクジャクを家の中に入れることになった。帰りにクジャクの羽根を何本かもらった。その後、夫婦は同僚の家を訪れていない。

「シェフの家」
夏、アル中だった夫が戻ってきてくれという。夫はシェフの家に住んでいた。マス釣りをしたりして夏を過ごした。シェフの娘と子どもが帰ってきて住むから、出て行ってくれという。夫の計画は台無しになった。

「保存されたもの」
サンディーの夫は解雇されたあと、ソファーで過ごすようになった。
そんなとき冷蔵庫が壊れた。サンディーは競売で冷蔵庫を手に入れようと思い立ち、新聞の広告を夫と2人で目を通した。その夜の7時から近くで納屋競売があることがわかった。サンディーは父と競売に行ったことを思い出していた。あわてて調理したポークチョップを食べようとテーブルに着こうとしたとき、テーブルから水が滴り落ちていた。

「コンパートメント」
マイヤーズはフランスのストラスバーグの大学にいる息子に会いに行く。息子と暴力沙汰になり、そのことが妻との離婚に拍車をかけたとマイヤーズは思っている。マイヤーズがいるコンパートメントに男が乗ってきて、何を話しているかわからなかった。男は眠った。用を足しにトイレに行って帰ってくると、コートのポケットに入れておいた息子への土産の時計がなくなった。男かそれとも誰かが入ってきて盗んでいったのか。躊躇していると、男は停車した駅で降りた。こんなコンパートメントにはいたくないとコートを着て列車の端に行った。帰ってくるとコンパートメントが見つからない。停まっている間に切り離されたのかもしれない。小柄で浅黒い肌の人たちでほぼ満員のコンパートメントの男が、マイヤーズに入れと手招きする。男たちは席を開けてくれた。マイヤーズはそこに座った。ストラスバーグに向かっていないかもしれないと思いながら、眠りに落ちた。

「ささやかだけれど、役に立つこと」
母親は息子の誕生日の前日に、愛想の悪いパン屋でバースデイケーキを予約した。翌朝登校時に息子は車にはねられ、そのまま一人で帰宅したものの、事故の状況を話しているうちに力が抜け眠ってしまった。救急車で病院に連れてきてそのまま入院した。夫に連絡し、夫が病院に駆けつける。医者はショックで目を覚まさないだけだという。息子は眠り続けたまま、一時夫が家に帰ると意味不明の電話がかかる。
病院に戻るとスキャンが必要だと医師がいう。こうしているうちに子どもは息を引き取る。パン屋から電話がくる。
母親にはパン屋が悪党に思えた。予約から3日経って、パン屋に行き事情を説明すると、パン屋は出来立てのシナモンロールを出してくれた。

「ビタミン」
同棲している女の仕事上の部下を首尾よくデートに連れ出した。バーでいいムードなところに、ベトナム帰りの酔った黒人が現れて、金をちらつかせて執拗に連れの女に言い寄った。
すんでのところで逃れて車に戻ると、仕事がうまくいってない女は「お金が欲しくてたまらなかった」と言って泣く。そうなったら手を握る気にもなれず、相手が心臓麻痺になっても構いやしないという気分になって別れた。帰ると、同棲相手の女が愚痴を並べる。うんざりしながら、なんとかなだめて、やっと眠りにつく。

「注意深く」
アル中から脱却しようと、ロイドはひとり暮らしできる住まいに移った。朝食にドーナッツを食べシャンペンを飲んだ。2週間経って11時頃妻が訪ねてきた。朝から耳の穴が耳垢が詰まって気になっていた。妻がハンドバックから出てきた爪切りをふたつに分解して、ナイフのような部分にティッシュを巻きつけて、耳垢をとろうした。トイレに行かせてくれと頼んで、便器の後ろに隠したシャンパンを飲んだ。妻は大家からサラダオイルをもらうという。妻は大家からベビーオイルを借りてきた。それを温めて、横に寝転んで耳の穴にベビーオイルを入れて十分経って、耳からオイルが出てきてそれをタオルで押さえていた。聞こえるようになった。
妻は帰っていった。シャンパンを抜いて、反対の耳が耳垢で詰まるのではないかという不安に襲われた。ベビーオイルを入れたコップを洗いシャンパンを注ぎ、飲むと脂っぽかった。表面に油が浮いていた。それを捨てて、瓶に口をつけて飲んだ。大して異様なことと思われなかった。窓の外を覗くと、光線の角度から3時ごろだろうと見当をつけた。

「ぼくが電話をかけている場所」
フランク・マーティン・アルコール中毒療養所に入って、JPと近しくなった。
JPは取り止めもなく話し続けている。煙突掃除のロキシーが好きになり、ロキシーと結婚し掃除一家の一員となった。子どもが生まれて、望み通りだったが、酒の量が増えていった。ビールがジントニックになった。水筒にウォッカを詰めて仕事に出た。
大晦日に妻に電話したが誰も出なかった。ガールフレンドに電話をかけようとして途中でやめた。悪態をつく男の子との間に何か悪いことが起こってるのは聞きたくないと思った。
元旦になると、JPの妻が面会にやってきた。2人は仲がいい。JPがロキシーと初めて会ったとき、JPがロキシーに頼んだように、わたしはロキシーにキスをしてくれないかと頼んだ。ロキシーは快くやってくれた。
わたしは電話をしようと小銭をポケットから引っ張り出した。まずガールフレンドに電話しよう。

「列車」
夜遅くミス・デントは無人の駅舎にたどり着いた。這いつくばった男の頭に銃を突きつけたばかりだった。そこから逃げるように駅舎に向かったのだ。やがて靴を履いていない白髪の老人と厚化粧の女が駅舎に入ってきた。女は不満をぶつけている。老人は煙草を取り出したがマッチが見つからず、ミス・デントに目を向けたがミス・デントは首を横に振った。女が話しかけてきたので、ミス・デントは銃を持っていることから話を始めようかと思った。そこに列車がやってきた。数人の客は、乗り込んでくる3人に目をやった。老人と女は並んで座り、ミス・デントはその後方の席に座った。そして列車は走り出した。

「轡」
アパートと美容院をやっている私のところへ、一家4人がミネソタから引っ越してきた。農家だったという。夫はどこかに勤め妻は近くのレストランに勤めた。美容院にやってきて、農業をやめなければならなかった理由を話す。それは夫が馬を飼い、競馬レースに手を出したからだという。
数ヶ月して一家がアパートから出て行った。部屋には馬具が残されていた。
馬具は否応なく家族を自分の思う方向に向かせるという。

「大聖堂」
妻の古い友人の男が家に泊まる。男は盲人だ。妻が酔い潰れてしまい、不貞腐れている夫と盲人はテレビを前にしている。TVは大聖堂を映し出している。夫は盲人に大聖堂がどんな形をしているか、説明する。そしてふたりで、大聖堂の絵を描き始めるのだった。→人気ブログランキング

/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社/2008年
大聖堂/レイモンド・カーヴァー/中央公論新社 2007年
頼むから静かにしてくれ〈1〉/レイモンド カーヴァー/中央公論新社/2006年
短編小説のアメリカ 52講 こんなにおもしろいアメリカン・ショート・ストーリーズ秘史/青山 南/平凡社ライブラリー/2006年

明治開化 安吾捕物帖 坂口安吾

坂口安吾は江戸川乱歩が認めるミステリ作家である。
本作の他に坂口安吾のミステリ作品には、『続 明治開化 安吾捕物帖』『不連続殺人事件』があり、『勝海舟捕物帖』は本書の改題である。
Photo_20210417103901明治開化 安吾捕物帖
坂口安吾
角川文庫
1973年

本連作短編集に毎回登場する人物は以下の4名。
泉山虎之助は、幼少のころ勝海舟に師事しそのあと山岡鉄舟について剣術を習った。今は神楽坂で道場を開いている。推理マニアで事件に何かと首を突っ込む。
洋行帰りの紳士探偵、結城新十郎は優れた推理力を備えていて、警視庁から請われているが、役所勤めは性に合わないと、警視庁雇という身分になっている。
神楽坂の住まいには、右隣に泉山虎之介、左隣に花廼屋因果が住んでいる。
戯作者の花廼屋因果は、虎之介に輪をかけた推理マニアで、隣の新十郎のもとに事件が持ち込まれると、頼まれてもいないのに顔を出す。
一方、赤坂氷川下の屋敷にいる勝海舟は、いつも悪血を瀉血しながらべらんめえ調で登場する。虎之助の話に安楽椅子探偵ぶりを発揮するが、海舟の推理は大筋でいいところまでいくが、七割がた外れる。著者は海舟を日本の大頭脳と持ち上げるが、そんな体たらくだ。
冒頭に口上があって、本書の構成パターンが説明される。
〈この捕物帖はたいがい五段からできています。第一段は虎之助が海舟を訪ねて事件の説明にかかること。(ただしこの段は省くことがあります)。第二段は事件の説明。第三段は海舟が推理のこと。第四段は新十郎が犯人を見つけだすこと。第五段は海舟が負け惜しみを言うこと。〉

「舞踏会殺人事件」
仮面舞踏会で政商加納五郎兵衛が何者かに殺害される。上流社会の退廃を描く。

「密室の大犯罪」
人形町の小間物問屋川木の主人藤兵衛が土蔵の二階で殺された。部屋の内側からカケガネがかかっていた。藤兵衛はそこで一人で暮らしていた。
海舟の推理は外れたが、海舟は虎之助の話だけで推理したのだから読みの深さに虎之助は敬服した。

「ああ無常」
車夫が運んでいた行李に女性の死体が詰め込まれていた。中橋英太郎の妾が行方不明で、遺体はその妾ヒサであった。入り組んだ男女の愛憎相関図が事件のカギとなる。

「万引一家」
浅虫家の未亡人と娘は万引き症だ。
所有する土地から石油が出たりして浅虫家は経済的には順風満帆だが、その頃遺伝すると思われていた癩病と万引という血が流れていた。海舟の推理は外国に逃げた長男が犯人。

「血を見る真珠」
昇竜丸の船長畑中利平は豪州に初航海して、二度座礁しボルネオの北端のスールー海で真珠の貝である白蝶貝、黒蝶貝の密集地帯を発見した。そのあたりは無人島である。密漁しても見つからないだろうと踏んで、潜水夫、八十吉、清松を連れて機械潜水を用意した。息綱持ちにそれぞれの妻君が付き添った。問題は荒くれ男たちの中に若い女が2人いるという状況である。

「石の下」
碁をさしていて、千頭津右衛門が亡くなった。千頭家には代々言い伝えがあった。息子の成人にあたって先祖代々受け継ぐことがある。それは決して文字にしてはならないとされている。千頭家はキリシタンの残党である。先祖が隠したのはキリシタンの品々を地下に埋めたのだ。「石の下」という言葉が事件を解くカギだ。

「時計館の秘密」
梶原正二郎が父の野辺の送りを済ませたその夜、荒くれ者たちがやってきて、飲めや歌えと騒いだ。嫌がる正二郎を連れて荒くれ者たちは無銭遊興、無銭飲食を重ねて塩釜まで逃げ落ちた。釜石で正二郎は淫奔な娘と結婚させられたが、知人の世話で海運業をはじめ大成功した。東京に時計館と呼ばれる洋館を建てるまでになった。
正二郎は妾と暮らすようになり幸せを掴んだが、釜石から淫奔母娘と旅絵師がやってきて洋館に住みついた。ある日を境に3人は姿を消した。多分東京湾の底に沈んでいるんだろうと、新十郎は推理した。

「覆面屋敷」
風守は気狂い扱いされ座敷牢に入れられている。
風守は生まれると本家の後嗣に選ばれたが、テンカンもちだった。それを知ると生母は自害した。ところが頭脳は明晰で難解な書物を読むことができたが、座敷牢に入れられているのは夢遊病があるからだった。ところが風守を見た者がいないのは不思議だった。→人気ブログランキング

婆沙羅 山田風太郎

婆沙羅大名と呼ばれた佐々木道誉が主人公である。
婆沙羅とは、仏語で物狂いに近いほど綺羅を飾った服装や風俗を指し、見栄を張り遠慮なく振舞うこと。
鎌倉幕府の打倒に失敗して隠岐島へ御流された後醍醐天皇は京に戻り、足利尊氏擁する光明天皇に対抗して吉野の地に南朝をたて、南北朝時代が始まった
足利尊氏を補佐するのは尊氏の弟・足利直義である。直義が尊氏に仕える悪辣な高ノ師直、師泰兄弟を討つと、道誉は直義を殺害した。尊氏が亡くなると、道誉は尊氏の息子・尊詮の寵臣となった。乱世だからこそ上手く立ち回わることで道誉の存在価値がある。
5469a3df58c04807a8d6c59e3d88357b婆沙羅
山田風太郎
講談社文庫
1993年

朝廷の監視機関である六波羅探題襲撃の計画が発覚し、後醍醐天皇は隠岐島に御流されることになった。牢内の天皇は常人の3倍の食欲があり要求が通らないと断食を始める。餓死させるわけにいかないから要求通りになる。21人の妾から隠岐島に連れていく側妾3人を真言密教の大秘法で選びたいという。牢番の検非違使である佐々木信誉は許可した。邪教立川流にのっとった大秘法は、淫卑極まりないものであった。

道誉は後醍醐天皇の御流の旅に1500人の警護をつけた。道誉は天皇はいずれ京に戻ってくると予測したが、道誉の予想通り後醍醐天皇は翌年6月に隠岐から戻ってきて、「建武の新政」が始まった。そして世は乱れに乱れた。

道誉は後醍醐天皇寄りの立場と見せておいて、鎌倉幕府を倒した功労者である楠木正成に「帝とは距離をおいた方がいいのでは」と助言した。正成は「帝が天魔鬼神でおわすとも必ずお守りして死ぬるものと覚悟している」と答えた。

尊氏は、人に対して憎悪の念を持たない、物を惜しむところがない、小事に拘らない性格である。動揺の震源地は反勢力の南朝にあるが、その存在をあたかも認めているのが尊氏である。弟の足利直義は優柔不断な兄を補う分、冷徹な合理主義者である。

尊氏に仕える高ノ師直、師泰兄弟は強欲で好色であり悪辣であった。ふたりは、次第に主を主とも思わぬようになった。足利氏の内紛である観応の擾乱で、尊氏は高兄弟を庇ったが、直義は高兄弟は許せないとふたりを惨殺した。その背後には道誉がいた。
道誉は乱世であればあるほど自分のやりたい放題がやれると思っていた。

尊氏が息子の尊詮に政務に与えた職を直義に返さなかったことで、直義は尊氏に叛旗をあげた。
道誉は寺に幽閉されていた直義を毒殺すると尊氏に持ちかけそれを実行した。
尊氏は直義の死後、悪夢を見ることが多くなった。
そして尊氏が背中の化膿が悪化して亡くなると、道誉は尊詮の寵臣となった。そのとき道誉は53歳であった。
婆沙羅大名佐々木道誉を通して百鬼横行の乱世・南北朝時代を描いた傑作。→人気ブログランキング

妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
明治バベルの塔(山田風太郎 明治小説全集12)/ちくま文庫/1997年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年
明治断頭台/文春文庫/2012年
婆沙羅/講談社文庫/1993年

幻の女(新訳版)

1942年発表のオールタイムベスト作品。
妻とうまくいっていない夫・ヘンダーソンには妻が周知の恋人がいる。
ヘンダーソンは妻とレストランで食事をして劇場でショーを見て、離婚を切り出そうと策を練った。妻を誘うと、「付き合っている女と行きなさい」と馬鹿にした笑いが返ってきた。憤慨したヘンダーソンは青いネクタイを床に放り、恋人に電話をかけたが留守だった。
5152f68bac134ebf833658669e2cc5c9幻の女(新訳版)
ウイリアム・アイリッシュ/黒原敏行 
ハヤカワ文庫 
2015年

ヘンダーソンは最初に出会った女性に声をかけ、ディナーをともにしショーに誘うことに決めた。
バーでカウンターに座っているオレンジ色の帽子を被った黒いドレスの女を誘った。すると女はつきあうという。
ふたりはタクシーに乗りレストランに行きディナーをともにした。その後劇場ではバンドの目の前の席に着いた。女は女性歌手が歌っているにも関わらず席を立った。しかも歌手の帽子と女がかぶっている帽子は同じデザインだった。その後再びバーに戻り1杯飲んで、女はバーに残りヘンダーソンはバーを後にした。
ヘンダーソンが家に帰るとすでに3人警官がいて、妻は青いネクタイで絞殺されていた。

警察は妻が死亡した時刻のヘンダーソンのアリバイを訊ねる。ヘンダーソンは一緒にいた女がどんな顔をしていたかまったく記憶がなかった。ましてや、名前も住所も電話番号もきいていなかった。
警察がつきそってヘンダーソンのアリバイを証言しそうな人物に訊ねるが、バーテンダーはひとりだったと明言し、タクシー運転手も女は知らないといい、レストランのウエーターもひとりだったといった。さらに、劇場のドアマンも女はいなかったと証言した。
こうしてヘンダーソンは妻殺しで起訴され、アリバイが成立することなく死刑が確定する。
ここまでのストーリーで、本書のたった四分の一である。

死刑執行までの日数が刻々と少なくなるなか、ヘンダーソンの友人が捜査を始める。
ヘンダーソンの捜査にあたったバージェス警部は、ヘンダーソンが妻を殺していないと見ているが、幻の女を探し出す時間的余裕がない。幻の女を捜索する友人に警察は協力するという。

友人はバーテンに面会し、タクシーの運転手から話を訊き、ドアマンの家を訪ねるが、女は見ていないという。彼らを不可解な事故が襲う。

そして、最後の謎解きはバージェス警部が行う。
ミステリの読者人気投票で、常に上位に食い込む本書は、伏線も展開も見事。さすが名品である。→人気ブログランキング

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