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2021年5月

平城京 安部龍太郎

文武天皇が25歳の若さで亡くなり、天皇の母君である元明天皇の御世(707年〜715年)が始まった。
遣唐使の船長であった主人公の阿倍船人(ふなびと)は、唐から帰国の際、船の故障と偽って港に戻り、3年後に白村江の戦いで捕虜となった人々を乗せて帰ってきた。この行為が命令に反いたとされ、謹慎処分になっていた。
Photo_20210526140901平城京
安部龍太郎
角川文庫
2021年

船人を兄の阿倍宿奈麻呂(すくなまろ)が訪ねてきて、唐の長安を模した平城京を奈良山の麓に造ることになったから、手伝って欲しいという。2年で都を造る現場の責任者になれという。権力者である藤原不比等の命令である。阿倍家にとっては白村江の戦いの汚名を挽回するチャンスだ。父の阿倍比羅夫は新羅征討軍の後将軍として闘った。

奈良の盆地を地ならしして大路小路を造らなければならない。それを1年で仕上げるためには、1日1万人の役夫が必要である。まずは役夫たちの宿舎の屋根をふく葦を難波潟で集める。船人が白村江の戦いの捕虜を助けたことは尊い行為として人々は受け止めていた。船人に協力しようと総勢四百人が集まった。

しかし問題は山ほどある。まずは平城京予定地にある古墳の移動である。豪族たちの立退きの説得を舩人がやらねばならない。さらに、冤罪によって滅ぼされ都を追われたと信じている葛城一族の立退き、もうひとつは土木工事のノウハウと膨大な労働力が期待される行基率いる宗徒が大宝律令の僧尼令により都に入れないことである。
さらに、海からの資材運びには百済の泊を利用するが、百済の泊には白村江の戦いで亡命してきた百済の民が住んでいる。白村江の戦いで百済が敗れたとき、天智天皇が多くの亡命百済人を引き受けてた。百済の泊の人々は天智天皇派のためなら労を厭わないのだ。阿倍船人はこうした難題を一つ一つ解決してゆく。

正体の知れない勢力が遷都を邪魔する。根底には天智天皇派と天武天皇派の確執がある。天智天皇派は、唐とは距離を置く方針をとる壬申の乱で敗れた一派だ。天武朝廷の流れを覆して天智天皇の系統に戻そうと心に誓っている人たちだ。一方、天武天皇派は、日本が唐の冊封国(同盟的な隷属国)となることで、白村江の戦い以来悪化している両国の関係を正常化しようと考えている。そのために行わなければないことは、大宝律令を制定し、史書の編纂を行い、都となる王城を建設することである。
船人は奈良への天皇行幸の裏警護を任されることなった。そして行幸の日、事件は起こる。

大化の改新(645年)、白村江の戦い(663年)の倭軍の惨敗、壬申の乱(672年)の後、平城京建設を描く歴史小説であり、事件の黒幕は誰かという謎を解くミステリでもある。→人気ブログランキング

平城京/安部龍太郎/角川文庫/2021年
信長の革命と光秀の正義 真説本能寺/安部龍太郎/幻冬社新書/2020年
姫神/安部龍太郎/文春文庫/2018年
等伯/安部 龍太郎/文春文庫/2015年
バサラ将軍/安部龍太郎/文春文庫/1998年

ボビーZの気怠く優雅な人生 ドン・ウィンズロウ

ティムは自制心のなさで、盗んでは捕まり、出所すればまた盗みを働き捕まるという体たらくだった。判事はティムを海兵隊に入れて鍛え直すのが得策だと考えた。そしてサダム・フセインのクウェート侵攻で、サウジアラビアに送り込まれた。そんなティムだが、判事の当ては外れた。アメリカに舞い戻ってきて、再び盗みを働いて捕まったのである。
ティムは、刑務所でかっとなってヘルズエンジェルのメンバーの喉をかき切って殺してしまい、ヘルズエンジェルに命をねらわれる身となった。そんなおり、伝説のサーファー、ボビーZに似ていることで、ボビーZになり切ることを条件に釈放された。
808975e922bf4152ba220052962aa067 ボビーZの気怠く優雅な人生
ドン・ウィンズロウ/東江一紀
角川文庫
1999年

一方、カリフォルニアのラグーナビーチで育ったロバート・ジェームス・ザカリア(別名ボビーZ)は、高校2年のときから一目置かれるサーファーであり、麻薬の元締めであった。ボビーZは高級マリファナしか扱わない。ボビーZは大金を残してタイで心臓発作で死んだという。

当局の企みは、麻薬王ドン・ウェルテーロに捕らえられた麻薬捜査官と、偽のボビーZを交換しようというもの。取引の日、相手が発砲して国境一帯が滅茶苦茶になって サファリパ-ク化した。そして、ティムは砂漠に建てられた城の、どでかいベッドで目を覚ますことになる。女が朝食はどうか訊ねると、ボビーZが菜食主義者だったことを思い出す。

城の持ち主の、だぼだぼに肥ったゲイのブライアンは、ドン・ウェルテーロの手下である。ウェルテーロがアメリカ南部一帯にメタ(アンフェタミン)の製造工場を建て、ブライアントが人員を供給し、ボビーZにはマーケットを提供してもらうという。
ティムは子供の前で女をナンパするドイツ男を、プールに顔の色が悪くなるまで沈めた。
ティムは一度頭に血が昇ると収拾がつかなくなる。刑務所のカウンセラーに指摘されたことを思い出す。
エリザベスが、その子ども・キットは、エリザベスの友人のオリヴィアとボビーZの子どもだという。僧侶(ザ・モンク)と呼ばれる男が、ボビーZの信頼のおける部下であり金庫番であることがエリザベスの話からわかった。

ウェルテーロがボビーZを捕まえようとする理由は、ウェルテーロのタイ産の麻薬の代金300万ドルを、ザ・モンクがちょまかしたのだ。ティムは、ウェルテーロがボビーZを生かしておかないということを知って、砂漠の城からトラックをかっぱらって6歳のキットを連れて城から脱出した。

ボビーZの命を狙う人物がもうひとりいる。東ロサンゼルスの顔役ルイス・エスコバールだ。兄のホルヘを殺したのは、ボビーZが手を回したからだと吹き込まれていた。

一方、ボビーZの味方も動き出す。伝説の語り部アル中のワンウェイは、精神病院に出たり入ったりだが、ボビーZが帰還したと大声で喚いている。さらに、ボビーZの金庫番のザ・モンクも動き出す。

ティムの命を狙うのはヘルズエンジェルとエスコバールの手下、そしてウェルテーロは生捕にせよという命令を出している。ティムはウェルテーロに300万ドルを返して誤解を解くことにした。ティムはエリザベスとキットを連れて奮闘する。→人気ブログランキング

壊れた世界の者たち/ハーパーブックス/2020年
ボビーZの気怠く優雅な人生/角川文庫/1999年
ストリート・キッズ/創元推理文庫/1993年

ミステリー作家の休日 小泉喜美子 

どんでん返しや息詰まる駆け引きが、肩の力が抜いた歯切れのいい文体で綴られる。著者は歌舞伎と外国ミステリーに詳しい。歌舞伎物が1遍、歌舞伎『弁天小僧』を下書きにした作品が1遍ある。
Cb71b6b9ef71496194443e232d05969dミステリー作家の休日
小泉喜美子 
光文社文庫 
2019年 ✳︎8

「ミステリー作家の休日」
初冬の夕方、女流推理小説家の家に電話がかかってきた。相手は「殺す。お前ら二人を殺す。明日の午後」と言って一方的に電話を切った。再び電話が鳴ったとき、女史は受話器を取らなかった。夫は留守だ。
缶詰のボルシチにアレンジを加えたツマミでウイスキーを飲んでいると、再び電話が鳴った。一度切れてまた鳴りはじめたとき、受話器を取って「この糞馬鹿野郎」と叫んで切った。
2回目3回目4回目の電話が誰からかかってきたかを推理する。『九マイルは遠すぎる』を例にとって女史は解説する。出版社の担当者は、そのエピソードを書いてみたらどうかという。

「昼下がりの童貞」
局長室にふんぞり返って葉巻に火をつけた初老の男に、新入社員の頃の話を訊きたいと新米の青年記者は言った。
戦後すぐの頃に、男は横浜支局に学生アルバイトとして雇われた。ちょっとした英語をゆくゆくはしゃべりたいと思っていたが、仕事は買い物の使い走りと新聞のバックナンバーの整理、広告文を東京本社まで届けることだった。
本社に向かう途中、手にしていた5枚の原稿が風に持っていかれ、洋館の庭で5枚目を見つけた。そこで女に声をかけられ、お茶を飲んでいくように言われた。そこまで聞いて、記者は面白い話だから記事にしましょうという。
男はその屋敷に女子高校生がいたことにした。

「ダイアモンド」
将来有望な野球選手が9回表2死二三塁でピンチヒッターに立ち三振に倒れた。
その足で喫茶店に入ると、女性がなんで9回裏をやらないのかと、息巻いている。野球選手は説明したがわかってくれない。女性は舞台俳優だという。劇は殺人も起きないし警察も出てこないそれでミステリだと舞台俳優はいう。
その舞台女優との仲は発展したが、父親が大の野球嫌いであった。野球選手が彼女の家に行くと、恋敵の舞台監督が彼女の家にいた。カーラジオから緊急ニュースが流れ、父親がプレイしているゴルフ場で爆発が起こったという。ゴルフ場に駆けつけると、父親はいなかった。そもそも父親はゴルフ場の会員でないという。家に戻ってくると、父親のベンツから野球少年たちが降りてきた。そして、父親は妻と妻の両親からプロ野球選手のになることを反対された過去を話した。野球選手と舞台女優は結婚して、今のところ幸せに暮らしている。

「青い錦絵」
歌舞伎『弁天小僧』を下書きにしている。
おれと女の二つの視点で描かれる。
夏の夜に、おれは潜水服とシュノーケルに身を包んで南伊豆の海岸小岩場にいる。親父は時化で溺死し、そのあと母親も死んだ。ツノダシという深海魚を捕獲して、それを鑑賞するための水槽や細々とした付属品を売って生活が成り立っている。
岬の白い家、そこには美人の女が一人で住んでいて、誰とも付き合わない。水槽と周辺機器と生きた魚を売りつけると、言い値で買ってくれた。
女は男の魂胆を見抜いている。酒を飲ませて男が持参したウエットスーツを着させてシュノーケルをつけて、窓から海に転落させた。そして、男が設置した水槽も窓から捨てた。

「紅い血の谷間」
兄の千也は歌舞伎の女形として称賛をあつめているが、弟の千二郎はできが悪いと、もっぱら噂されている。千二郎は、バーに行ってジョージアナにいつもの『紅い河の谷間』をリクエストをして、ウイスキーのソーダ割りを1杯だけ飲むそれが楽しみだった。
初日を数日後に控えた夜、千二郎は「あの子を養子にしたときは」という、父母の話を聞いて愕然とした。
千也は婚約者に逢いに行くときに、車で人影を轢いたが、そのままやり過ごした。そして、千也は車で壁に激突し自殺した。
ここから話は急展開する。養子だったのは千也の方で、千二郎は実子だった。はてさて、すべてを継いで重圧に耐えて生きていけるのだろうか。ジョージアナとの関係はどうなる?

「本格的にミステリー」
ミステリー作家の美幽子が自殺した。教えてくれたのは千果子だった。3人は同じ大学のグループだった。
千果子によれば1週間前から行方がわからなくなって、同棲相手が失踪届けを警察に出していた。湖のほとりで女の投身自殺があった。同棲の男は忙しいからいけないと断ったらしい。死体が上がったわけではなくて、所持品がおかれていたという。
3人はミセス・レイ主催のポプリ展覧会の会場での、3人のエピソードが語られる。
そして6か月後、美幽子の遺体は発見されていない。出張から帰ってきた夫にミセス・レイのポプリの匂いが鼻をくすぐった。

「あじさいの咲く料理店」
紫陽花が見事なフランス料理店の話。雇われシェフの独白の形で物語が進む。
オーナーとおかみさんが田舎に紫陽花亭というフランス料理店を開くと、オーナーが病気で亡くなった。そこに私が入った。徐々に繁盛し、オーナーが植えた7本の紫陽花が毎年見事に咲いた。ある日オーナーの弟が店に現れ、食事をした。そのうちに仲間のヤクザを連れてきて飲食するようになり、客は店を敬遠するようになった。
そのうち弟が姿を見せなくなった。ごろつきの弟がいなくなった翌年、7本の紫陽花の1本だけ色が違って咲いた。それが噂になり、ついに警察が庭を掘り返したが、死体は出てこなかった。

「パリの扇」
パリで実業家岩井原平次郎氏夫人が危うく殺されかけた事件について話す。
1930年代のパリ。ぼくは新進演出家としてパリで勉強していた。レヴュー団の花形だった23歳の彼女が、その3倍の年齢の男の後妻として嫁いだのだ。船でアメリカを経由して新婚旅行を兼ねてパリに着いた。パリの一流ホテルで2人を迎えた。そこに、男装の麗人海野都も現れた。
そしてぼくは3人をエスコートすることになった。本場のレヴューでの駝鳥の大羽根扇かざした踊り子たちがコーラスする様に感激していた。ぼくはそうした踊り子たちが身につけているものを買い込んでいた。
下宿に寄ってみますかという誘いに3人が乗った。3人をもてなしていると隣に住むアルベールとフランス語を教えてもらっているガストンが現れた。そこで岩井原が1週間「R」に泊まっているから遊びに来てくれと、社交辞令を口にした。これが、ことの発端だ。
翌日、警察から岩井原夫人が襲われて怪我をしたと連絡が入り、「R」ホテルにに駆けつけた。結局は、件のフランス人2人が岩井原氏に対する同性愛行為の未遂を、岩井原夫人に目撃されたことに動転し、夫人を殴ったというものだった。→人気ブログランキング

殺人は女の仕事/光文社文庫/2019年
ミステリー作家の休日/光文社文庫/2019年 
女には向かない職業/P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳/ハヤカワ文庫/1987年
時の娘/ジョセフィン・ティ/小泉喜美子/ハヤカワ文庫/1977年

殺人記念日 サマンサ・ダウニング

訳ありの怪しい女性を演じたらハリウッドでピカイチのニコール・キッドマンの主演で、本書の映画の企画が進行中だという。
夫婦で殺人を繰り返すという前代未聞のストーリーだ。テニスコーチのわたしの一人称単数で進行する。わたしの名前は最後まで明かされない。今年の翻訳ミステリの上位にランクする傑作。
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サマンサ・ダウニング/唐木田みゆき
ハヤカワ文庫
2021年 ✳︎9

もともと、妻のミリセントは、「わたし」にとって手の届くような女ではないという。つまり、ミシセントに嫌われないようにという意識が主人公にはある。これが夫婦で連続殺人に手を染めた理由だろう。妻とうまくバランスをとってやっていくには、殺人が必要というわけだ。子どもは一男一女で、思春期にさしかかっていてなにかとややこしい問題を起こす。

最初の殺人はやむ終えない事情があった。
ミリセントは姉のホリーとの二人姉妹だった。子どもの頃、ホリーがミリセントの手を押さえて、親指と人差し指の間を紙で切った。その後、ミリセントは腕を骨折させられ、車に同乗して一歩間違えば死に至る事故に遭わされた。警察はホリーがミリセントに殺害の意図をもっていたとした。そしてホリーは精神病院に入れられた。23年後退院した。
退院したホリーはミリセントにストカーのようにつきまとうようになった。ホリーは家にやってきてミリセントに襲いかかった。わたしは、テニス・ラケットをホリーの頭に振り下ろして殺した。遺体は見つからないように山に穴を掘って埋めた。

2人目も仕方がなかった。
ホリーはパートタイムで食料雑貨店の品出しの仕事をしていた。主人公はホリーの仕事場に行って家族に手出しをするなとホリーに告げた。大声で怒鳴り合うのをロビンが通路の端で見ていた。ロビンがわが家に現れて警察に徹底的に調べてもらうと言った。帰すわけにいかなかった。ワッフルパンでミリセントがロビンの頭を殴って殺した。
ふたりの女性をやむおえない理由で殺したが、ミリセントと力を合わせたことによる達成感が快感であった。それが次の殺人の呼び水となった。

その後、主人公は標的にする女を見つけ出そうと、聴覚障害者を装って女をあさった。浮気に発展したこともあった。息子が不倫に気づいて、ミリセントに知られたくないならゲーム機を買ってくれと強請ってきた。

かつて、この町で9人の女性の連続殺人事件が起きた。逮捕された犯人オーウェン・オリバーは、警察の捜査手順の過ちで釈放され、町から姿を消した。
殺人をオーウェンの仕業に装うために、主人公はリポーターのジョッシュに、オーウェンになりすました手紙を送り付けていた。その手紙により警察は振り回された。また、住民たちはオーウェンの影に怯えていた。そのせいで、友人の妻が自殺し、娘のジェンナは精神が不安定になった。

流れが変わったのは、イギリスに住んでいるオーウェンの妹が、オーウェンはすでに死んでいると訴えたことだった。そして、連続殺人事件の担当が辣腕のクレア・ウェリントン刑事に変わった。これを機に夫婦は追いつめられていく。→人気ブログランキング

煙草屋の密室 ピーター・ラヴゼイ

短編集の中にはハズレの作品がまま紛れ込んでいることがあるが、本書はそれがない。珠玉作の集合体である。設定は変幻自在。アイロニーあり、セクシーあり、シニカルあり、ユーモアあり、もちろんどんでん返しは当たり前、地に足がついていて、濃厚である。

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ピーター・ラヴゼイ/中村保男・他
ハヤカワ文庫
1990年 

「肉屋」
肉屋の冷凍庫に週末から閉じ込められた人物が凍死する。月曜日の朝に、肉屋の店員が2人出勤してきて、いつも朝早く出勤して開店の準備をする老店員が出勤してこないから、出店の準備を始めるが勝手がよくわからない。
店主のビューは、週末から1週間マジョルカ島に旅行に出かる前に、老店員が冷凍庫を開けっぱなしにしていたことで説教をしていた。
2人の店員が冷凍庫から肉を出そうとすると冷凍庫に錠前が取り付けてあって鍵が見当たらない。糸鋸で錠前を切って冷凍庫を開けるとビューが凍死していた。
老店員は店主に長年使えてきたのに報われていないことで、2人は錠前を隠し口裏を合わせることにした。2人の店員の思惑どおり、警察は店主が誤って冷凍庫に残されたことで決着したように見えた。ところが、老店員が出勤してきて話は意外な結末をむかえる。

「ヴァンダル族」
外でヴァンダル(文化破壊者)族が騒いでいた。
ミス・パーメンターは、アルテミス画廊に個展を開く相談したいので、人を送るように依頼すると、若造がやってきた。ミス・パーメンターは扉を開けるべきか躊躇した。
その若造イアロウは 20歳の時に母が死んで、30年以上父の世話をしてきて誰もできなかったことをしてきたのだと言った。
亡くなったミス・パーメンターの姉のマギーは有名な陶芸家だった。姉の個展を開くために、これまでに70個以上を買い戻したという。部屋にはミス・パーメンターにより貝殻がくっつけられたマギーの作品が並んでいた。あれはもう芸術作品ではないと言って部屋を後にするイアロウの頭に、鈍器が振り下ろされる。

「あなたの殺人犯」
ミセス・ダバナンは、バリー古書店の奥の部屋で陶器の立像を見た。バリーは殺人者コーダーの像だと説明した。翌日、コーダーの像はオークションでは、おそらく1000ポンドは下らないとミセス・ダバナンは知り合いからの情報を伝えた。
ミセス・ダバナンはフランスのオルレアンでバカンスをひとりで過ごすという。バリーは1000ポンド以上を手にすると見込んで、自分もオルレアンで過ごすからと、オルレアンで会う日を約束した。コーダー像はミセス・ダバナンに言ったとおり1125ポンドの値がついた。
バリーはオルレアンでミセス・ダバナンと何回か昼食を共にするが、夫人がうまく交わし一線を超えることはなかった。金が残り少なくなったとき、バリーは夫人の部屋に押しかけ迫った。「あなたを選んだのは、一緒にいて安全だと思ったからです」と言われて、バリーは逆上した。
バリーは警察の質問に当たり障りなく答え家に戻ることができた。家には美術商からの小包が届いていた。そこには、コーダー像とともに、夫人の「出展主にお返しください」との伝言が添えられていた。

「ゴーマン二等兵の運」
ゴーマン二等兵は7回脱走して7回捕まった。ドイツからの爆弾なぞ怖くなかった。自分は死なないという自信はあった。ゴーマンにとって、敵はヒットラーではなく 憲兵隊だ。憲兵に促されて外に出たとき爆弾を見舞われた。ゴーマンと手錠で繋いだ憲兵と一緒にいたプラムリッジ二等兵は死んだ。プラムリッジの認識票と自分の認識票と取り替え服も頂き、憲兵とプラムリッジ二等兵を手錠で繋いだ。これで完璧だ。そして、ゴーマン二等兵と憲兵の死体が発見されたが、プラムリッジ二等兵の遺体は発見されなかった。プラムリッジの服には金は一銭もなく鍵が二つあった。一つはロッカーの鍵。もう一つは自宅の鍵だろう。
外で音がしたので、アバベルに確かめるように言われたハーカー伍長は、ベッドから降りて棍棒を持って玄関にいった。ゴーマンの頭蓋骨めがけて棍棒を振り下ろした。

「秘密の恋人」
33歳のパムは保健所の診療部の受付係だった。クリフというシードル販売員と親密になった。2人はそれぞれバツイチであることを打ち明けた。クリフは2週間ごとにヒアフォードに滞在した。そして、パムの家に泊まっていった。クリフは料理の腕がこれほど素晴らしくなかったら外食していただろうと言った。
ある日、パムをトレーシーという女性が訪ねてきた。月曜にクリフが通ってきてセックスをするというのだ。そして火曜日にパムのところで手料理を味わう。
ふたりはクリフを殺害することにした。トレーシーは肥料工場に勤めているという。パムの役目は死亡診断書を手に入れることだ。
土曜日にトレーシーがニコチンを持って現れた。2人は作戦を練った。そして翌日、クリフから電話があり今日ヒアフォードに行っていいかときた。パムは土曜日に妹がここで死んでしまい、何もかも1人で処置しなくてはならないから大変だと答えて。パムはなにを差し置いてもあなたが欲しいのと答えた。

「パパに話したの?」
バーナードのサリーへの恋文が、4歳の息子ジョナサン・ワインディングによって、村じゅうの家に配達された。バーナードが警察学校に入ってサリーと付き合っていた頃の手紙だ。その手紙が村人によって、次々とワインディング家に届けられてきた。ジョナサンはサリーに彼女の手紙で郵便屋さんごっこをやったことを白状した。戻ってこない手紙があった。バーナードが沈み込んでいたときに、彼女の肉体的魅力を語り満たされぬ欲望をぶちまけた散文詩のような、今のサリーにとってきゃっと叫びたい内容の手紙だ。
手紙を返してこないのはかつてバーナードと付き合っていたルビーだ。サリーがルビーの部屋に忍び込んで、手紙を探していると、ルビーが戻ってきて部屋に忍び込んだことを散々なじられた。
ジョナサンはワインディング家の郵便受けにも手紙を配達したのだ。そして、帰ってこない手紙にはチャールズ皇太子の記念切手が貼ってあった。君からのラブレターに珍しい切手が貼ってあったらマイケル(ジョナサンの兄)にあげることにしたと、バーナードが言った。

「湯槽」
新居に女王様の浴室を夫ウイリアムは作った。中から戸を引けば、ひとりでに鍵がかかるシステムだ。メラニーは中から戸をひいた。
21歳のメラニーは56歳のウイリアムと結婚して、新婚旅行から帰ってきたのが1週間前。
メラニーは特注の2メートルの長さのある浴槽に横たわって、本を読んでいる。ウイリアムの本棚にあった『計画的殺人』というタイトルの本だ。そこには、新婚旅行から帰ってきた妻が風呂で死に至る話が書いてある。新婚旅行の訪問先といい新居の住所といい、本に記載されている通りだった。

「アラベラの回答」
アラベラの質問に対する雑誌の「お悩み相談」の回答が、時系列に並んでいる。
雑誌は、アナベルに恋愛作法を伝授し、アナベルが結婚すると妻としてのたしなみを指南する。ベラドンナ点眼薬は猛毒だから使わないようにと警告する。結婚後約2年で夫は激しい譫妄と痙攣に見舞われ亡くなる。雑誌は2年間の喪の服し方を伝え、後半は植物を育てることを勧めた。
アラベラは階下の画廊の主人につきまとう女性の撃退法を相談する。そして雑誌は、上階の窓から落下してきた植木鉢が女性の頭を直撃し死に至った事故を伝える。

「わが名はスミス」
イギリス行きの飛行機で、隣の男がイギリスは初めてかと話しかけてきた。42歳で心臓病を抱えているという。エヴァはイギリスに住んでいると答えた。カリフォルニアに葡萄園を2つ持ってるが、3年前に妻が突然いなくなったという。天涯孤独の身になった。イギリスには先祖を探しにいくという。ありふれたスミスという名前だから苦労する。
エヴァがそれをジャネットに話すと、昼休みに国民戸籍局で調べるという。ジャネットは国民戸籍局でジョン・スミスにあい、自分がジョンの探している4人の曽祖父の孫の可能性があることを匂わせた。そのあとジャネットが会社に出てこなくなった。
エヴァはエッジカムに行って教会を訪ねた。 すると司祭は2人の男女が訪ねてきたが、事実を話さなかったという。ジョン・スミスの祖父は精神病で非常に凶暴だったという。息子も同様の病気だった。息子には妻がいて乳飲児を抱えてアメリカに移住したという。

「厄介な隣人」
州庁の会計課首席事務官のギルバートの隣に引っ越してきたストックは、長髪を束ねた髪型で園芸店から斧を買って包んでもらわなかった。妻のジョーンは隣の家でコーヒーをご馳走になったという。56人も隣の家に集まってパーティを開いた。ある日公園でギターを鳴らして歌っているストックを見かけた。ストックの妻は通行人が投げる小銭を集めて木の鉢に入れているのだ。ストックに収入があるとすれば国から施しを受ける権利はないと、ギルバートは社会保障課に通報した。
ストックはリンゴの木を斧で倒して、1週間かかってその木を燃やした。次に園芸店に行くと、ストックはシャベルを買ったという。庭に大きな穴を掘り、ジョーンが尋ねると核ルターを作っているのだという。ギルバートは核シェルターが自分の土地の地下に入り込んでいるに違いないと思い込んだ。隣の家との境界にギルバートは穴を掘り何かを見つけ、破壊し出した。それは電線のメインケーブルだった。

「ベリー・ダンス」
ヤスミンはベリー・ダンスを夏祭りで披露してもらいたいと言われた。夏祭りの2週間前、アンジェラがわたしを夕食に招待した。アンジェラと同棲している組織委員長のダンカンも同席した。食事が終わって、ダンスを披露すると絶賛された。オークションで競り落とした人に、お望みの場所でその人だけのダンスをヤスミンが披露するという案を、ダンカンが提案した。事件が起こりそうな設定だ。
夏祭りは大盛況のうちに終わり、せりも100ポンドの値をつけた人物の手に落ちた。そして連絡がきた。
ダンカンに館に連れて行かれ、そこにはダンカンの伯父だという老人が待っていた。降圧剤が見当たらないという。ヤスミンの踊りに興奮したら血圧が上がって死んでしまう。ダンカンの企みだった。ところが、アンジェラが現れてダンカンの胸を刺した。ダンカンがヤスミンに気があると勘違いしたのだ。ノーマン伯父さんは、ぴんぴんしていて、週2回のベリー・ダンスを見物している。

「香味をちょっぴり」
女流探偵小説家のクアンが開くパーティに現れた辛口の書評家のフレッチャーの書評に義義を唱えた。クアンの新作を「香味なき10年1日如き調理法」と酷評したのだ。
クアンは私の小説は事実を土台にしているといった。フレッチャーは「あの小説はとんでもない無理がある。15人もの人が1人の男に恨みを抱き、一致団結してその男を殺すなんていうのは、まったくの幻想ですよ」といった。
クアンはそこで、パーティの参加者を1人ずつ紹介した。フレッチャーに作品を酷評された15人だった。参加者はそれぞれ致死量の毒薬を持参し、執事によって毒薬は飲み物の中に入れられたという。クアンは乾杯の発声をフレッチャーに命じた。フレッチャーは乾杯と叫び、手に持ったウイスキーを飲み干したが、15人は誰も杯を掲げなかった。

「処女と猛牛」
アリスンは教区司祭の娘、トムはパブの親父の倅。トムは小学生のときにガキ大将で、アリソンは質素な身なりだったが、村の若い男は誰もが胸を焦がした。一方、ルーファスは優等生であり、中等学校では生徒長に選ばれカレッジに進学した。何かとアリソンにちょっかいを出したが、アリソンは相手にしなかった。アリソンとトムの関係はいい方向に進んでいた。
ある日パブに男と占い師の女が現れ、トムの父親がトムとアリソンを占ってくれと頼んだ。似合いのカップルであり、猛牛と処女の組み合わせだといった。それに対してルーファスがお笑い種だと言ったものだから、トムが逆上しルーファスに掴みかかった。親父と村人が止めに入りことなきを得たが、その夜以来、ルーファスが行方不明になった。
その後トムとアリソンが結婚した。2年経って、ルーファスの遺体が発見された。トムがトラクターで轢き殺したと自白した。トムは11年服役してアリソンの元に帰ってきた。村人たちは2人を語るとき、処女と猛牛として語った。
占い女が当時の占いについて語った。「本当は彼が乙女座で、彼女が牡牛座なの」

「見つめている男」
ドナは新婚旅行で撮った写真にこだわっていた。ドナはジェイミーをつなぎとめておく、安心できる材料を探し求めていた。ふたりはジョージ王朝風の邸宅に住んでいた。ドナは自分が無一文の三流女優であることを告白した。ジェイミーは少し狼狽えたように見えた。旅行中に撮った写真を見ると、違う場所で撮った3枚の写真に同じ男が写っていた。
ジェイミーは前妻のフィオーナは殺されたと打ち明けた。フィオーナを殺した犯人は、ジェイミーに恨みを持っていたのではないかとジェイミーはいう。
ジェイミーがフランス出張に出かけるという。テムズ川の向こう岸に新婚旅行の写真に写っている男がいたという。フランスには会社の方針でドナ連れていくことができないジェイミーはいった。
ジェイミーを航空で見送るとあの男が目に入った。直に問い詰めると思い違いだという。
家に戻って部屋に入ると門の前に車が止まり、例の男が呼び鈴を押していた。ドナは無視したが、車は門の前に泊まったままだった。
夜になって寝入ってしまうと、目の前にジェイミーが立っていた。ジェイミーがドナの首を絞めようとしたとき、ジャイミーの体の力が抜けた。あの男がジェイミーの頭を鈍器で殴ったからだ。男は前妻の家族に依頼された私立探偵だった。ジェイミーはフランス出張というアリバイを細工して、前妻を殺したのだ。

「女と家」
夫のトムが銀行のベンザンス支店の支店長の話を持ちかけられたというのに、断ろうと思っていると、聞いてアニタは慌てた。アニタの必死の説得にトムは折れた。ベンザンスの不動産屋には2人の希望にそう住宅がなかった。
アニタが新聞広告で希望にそう物件を見つけた。その持ち主スパイス氏は、2人の生活スタイルを根掘り葉掘り訊くのだ。そして、引っ越した。ところがトムが鉱物探しをしている最中に穴に落ちて首の骨を折って亡くなった。警察は事故と判断した。
アニタは菓子店でスパイス氏に会った。そしてアニタの車にスパイス氏を乗せて、家をどのように使っているか見たいという要望に答えた。

「煙草屋の密室」
煙草屋の2階を借りている切手商のメシターを警察が調べにきた。メシターはそこに住んでおらず週に2回郵便物を取りに来るだけだ。煙草屋のブレードは警察とともに2階の部屋に入った。家具も何もない。鍵がかけられた部屋があった。ブレードの許可を得てメシターは鍵を取り替えたという。その日は捜査令状がないから捜査はここまでだ。
郵便物を取りに来たメシターの話によれば、1世紀以上前に、ミスEDという女性が、消印のついた切手で化粧室の壁を覆いたいので、使用済みの切手を送ってくれるようにとの新聞広告を出していた。ミスEDが借りていた部屋が煙草屋の2階であるというのだ。壁紙で隠された無数の切手をある程度剥がしたから、あとはブレードに譲るという。
警察が来てメシターはそこら中の新聞にこの話を載せたという。そして古い切手を大量に売り捌いた。メシターは価値のない古い切手に細工を施して、大量に売り捌いたという。→人気ブログランキング

煙草屋の密室/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫/1990年
マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫 /1986年

藍染袴お匙帖 藁一本 藤原緋沙子

シーボルトに師事した外科医・桂千鶴は評判がすこぶる良い。亡くなった父・桂東湖から桂治療院を継いで、治療に犯罪捜査に奮闘している。千鶴は藍染めの袴をはいて往診するので「藍染先生」と呼ばれている。
ストーリーは、ちょっと待ってくれと言いたいくらいスピーディに進む。

7851fc8d2a2b45c0849b0c0fe9d7c8f8藍染袴お匙帖 藁一本
藤原緋沙子
双葉文庫
2019年 ✳︎7

「藁一本」
両親を亡くした姉弟の姉が働いて金を稼ぎ、京で医学の勉強に励む弟・梅之助に仕送りをしていた。梅之助が師事する医者は金の亡者で評判が著しく悪い。梅之助はこっそり江戸に舞い戻って、姉からの仕送りの金を博打に注ぎ込んでいた。千鶴は梅之助を桂治療院で仕事をさせようとしたが、半日で姿を消した。
呉服屋の桑島屋徳兵衛が寄り合いの帰り道に、附子(トリカブト)を飲まされて毒殺された。附子の出所をたどると、桂診療所の名を語って梅之助が手に入れていた。姉弟の父親は、若い時に徳兵衛と一緒に働いていたが、徳兵衛の罠にはまり10両を盗んだ犯人に仕立て上げられた。父親は解雇され、酒浸りになり流行病にかかり亡くなった。母親も間もなく亡くなった。
徳兵衛は賭場に出入りしていて、賭場の人間を脅し借金を帳消しにさせたのだった。徳兵衛は賭場の者によって無理やり附子を飲ませ殺された。
南町奉行の与力と同心20名が賭場に入り、一味を一網打尽に捕縛した。梅之助は弱みに漬け込まれて加担したが、直接手を下したわけではないことがわかった。

「桜狩」
御目見(おめみえ)医師の候補が辻斬りで殺された。御目見医師は町医者でありながら必要なときにお城に呼ばれる。末は役高をいただけるような医者になれるという。牢医である千鶴も候補に上がっている。
お初という娘が田楽の屋台を出す巳之助を好きになって、所帯持ちか訊いてくれと千鶴に頼んだ。巳之助は兄を殺した相手を追って江戸に出てきた武士だった。
御目見医師候補の島田祥助は腕が悪いが、山城屋の娘と婚姻が決まっていて、診療所を建設中だという。山城屋は幕府御用達だ。娘婿になる男に大金を使って御目見医師に推挙することは簡単だ。そして御目見医師候補がまたも殺された。次は千鶴が狙われる。
お初が手伝うようになって巳之助の屋台は繁盛するようになった。そこに千鶴とお道が田楽を買いに現れると、浪人に斬りつけられた。浪人は巳之助が追う仇であった。巳之助によって浪人は自害に追い込まれた。
かくして桜の花びらが舞うなか、巳之助はお初に、菊池求馬は千鶴にプロポーズするのだった。→人気ブログランキング

藁一本 藍染袴お匙帖/2019年
風光る 藍染袴お匙帖/2005年

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