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2021年5月 7日 (金)

煙草屋の密室 ピーター・ラヴゼイ

短編集の中にはハズレの作品がまま紛れ込んでいることがあるが、本書はそれがない。珠玉作の集合体である。設定は変幻自在。アイロニーあり、セクシーあり、シニカルあり、ユーモアあり、もちろんどんでん返しは当たり前、地に足がついていて、濃厚である。

Photo_20210507134301煙草屋の密室
ピーター・ラヴゼイ/中村保男・他
ハヤカワ文庫
1990年 

「肉屋」
肉屋の冷凍庫に週末から閉じ込められた人物が凍死する。月曜日の朝に、肉屋の店員が2人出勤してきて、いつも朝早く出勤して開店の準備をする老店員が出勤してこないから、出店の準備を始めるが勝手がよくわからない。
店主のビューは、週末から1週間マジョルカ島に旅行に出かる前に、老店員が冷凍庫を開けっぱなしにしていたことで説教をしていた。
2人の店員が冷凍庫から肉を出そうとすると冷凍庫に錠前が取り付けてあって鍵が見当たらない。糸鋸で錠前を切って冷凍庫を開けるとビューが凍死していた。
老店員は店主に長年使えてきたのに報われていないことで、2人は錠前を隠し口裏を合わせることにした。2人の店員の思惑どおり、警察は店主が誤って冷凍庫に残されたことで決着したように見えた。ところが、老店員が出勤してきて話は意外な結末をむかえる。

「ヴァンダル族」
外でヴァンダル(文化破壊者)族が騒いでいた。
ミス・パーメンターは、アルテミス画廊に個展を開く相談したいので、人を送るように依頼すると、若造がやってきた。ミス・パーメンターは扉を開けるべきか躊躇した。
その若造イアロウは 20歳の時に母が死んで、30年以上父の世話をしてきて誰もできなかったことをしてきたのだと言った。
亡くなったミス・パーメンターの姉のマギーは有名な陶芸家だった。姉の個展を開くために、これまでに70個以上を買い戻したという。部屋にはミス・パーメンターにより貝殻がくっつけられたマギーの作品が並んでいた。あれはもう芸術作品ではないと言って部屋を後にするイアロウの頭に、鈍器が振り下ろされる。

「あなたの殺人犯」
ミセス・ダバナンは、バリー古書店の奥の部屋で陶器の立像を見た。バリーは殺人者コーダーの像だと説明した。翌日、コーダーの像はオークションでは、おそらく1000ポンドは下らないとミセス・ダバナンは知り合いからの情報を伝えた。
ミセス・ダバナンはフランスのオルレアンでバカンスをひとりで過ごすという。バリーは1000ポンド以上を手にすると見込んで、自分もオルレアンで過ごすからと、オルレアンで会う日を約束した。コーダー像はミセス・ダバナンに言ったとおり1125ポンドの値がついた。
バリーはオルレアンでミセス・ダバナンと何回か昼食を共にするが、夫人がうまく交わし一線を超えることはなかった。金が残り少なくなったとき、バリーは夫人の部屋に押しかけ迫った。「あなたを選んだのは、一緒にいて安全だと思ったからです」と言われて、バリーは逆上した。
バリーは警察の質問に当たり障りなく答え家に戻ることができた。家には美術商からの小包が届いていた。そこには、コーダー像とともに、夫人の「出展主にお返しください」との伝言が添えられていた。

「ゴーマン二等兵の運」
ゴーマン二等兵は7回脱走して7回捕まった。ドイツからの爆弾なぞ怖くなかった。自分は死なないという自信はあった。ゴーマンにとって、敵はヒットラーではなく 憲兵隊だ。憲兵に促されて外に出たとき爆弾を見舞われた。ゴーマンと手錠で繋いだ憲兵と一緒にいたプラムリッジ二等兵は死んだ。プラムリッジの認識票と自分の認識票と取り替え服も頂き、憲兵とプラムリッジ二等兵を手錠で繋いだ。これで完璧だ。そして、ゴーマン二等兵と憲兵の死体が発見されたが、プラムリッジ二等兵の遺体は発見されなかった。プラムリッジの服には金は一銭もなく鍵が二つあった。一つはロッカーの鍵。もう一つは自宅の鍵だろう。
外で音がしたので、アバベルに確かめるように言われたハーカー伍長は、ベッドから降りて棍棒を持って玄関にいった。ゴーマンの頭蓋骨めがけて棍棒を振り下ろした。

「秘密の恋人」
33歳のパムは保健所の診療部の受付係だった。クリフというシードル販売員と親密になった。2人はそれぞれバツイチであることを打ち明けた。クリフは2週間ごとにヒアフォードに滞在した。そして、パムの家に泊まっていった。クリフは料理の腕がこれほど素晴らしくなかったら外食していただろうと言った。
ある日、パムをトレーシーという女性が訪ねてきた。月曜にクリフが通ってきてセックスをするというのだ。そして火曜日にパムのところで手料理を味わう。
ふたりはクリフを殺害することにした。トレーシーは肥料工場に勤めているという。パムの役目は死亡診断書を手に入れることだ。
土曜日にトレーシーがニコチンを持って現れた。2人は作戦を練った。そして翌日、クリフから電話があり今日ヒアフォードに行っていいかときた。パムは土曜日に妹がここで死んでしまい、何もかも1人で処置しなくてはならないから大変だと答えて。パムはなにを差し置いてもあなたが欲しいのと答えた。

「パパに話したの?」
バーナードのサリーへの恋文が、4歳の息子ジョナサン・ワインディングによって、村じゅうの家に配達された。バーナードが警察学校に入ってサリーと付き合っていた頃の手紙だ。その手紙が村人によって、次々とワインディング家に届けられてきた。ジョナサンはサリーに彼女の手紙で郵便屋さんごっこをやったことを白状した。戻ってこない手紙があった。バーナードが沈み込んでいたときに、彼女の肉体的魅力を語り満たされぬ欲望をぶちまけた散文詩のような、今のサリーにとってきゃっと叫びたい内容の手紙だ。
手紙を返してこないのはかつてバーナードと付き合っていたルビーだ。サリーがルビーの部屋に忍び込んで、手紙を探していると、ルビーが戻ってきて部屋に忍び込んだことを散々なじられた。
ジョナサンはワインディング家の郵便受けにも手紙を配達したのだ。そして、帰ってこない手紙にはチャールズ皇太子の記念切手が貼ってあった。君からのラブレターに珍しい切手が貼ってあったらマイケル(ジョナサンの兄)にあげることにしたと、バーナードが言った。

「湯槽」
新居に女王様の浴室を夫ウイリアムは作った。中から戸を引けば、ひとりでに鍵がかかるシステムだ。メラニーは中から戸をひいた。
21歳のメラニーは56歳のウイリアムと結婚して、新婚旅行から帰ってきたのが1週間前。
メラニーは特注の2メートルの長さのある浴槽に横たわって、本を読んでいる。ウイリアムの本棚にあった『計画的殺人』というタイトルの本だ。そこには、新婚旅行から帰ってきた妻が風呂で死に至る話が書いてある。新婚旅行の訪問先といい新居の住所といい、本に記載されている通りだった。

「アラベラの回答」
アラベラの質問に対する雑誌の「お悩み相談」の回答が、時系列に並んでいる。
雑誌は、アナベルに恋愛作法を伝授し、アナベルが結婚すると妻としてのたしなみを指南する。ベラドンナ点眼薬は猛毒だから使わないようにと警告する。結婚後約2年で夫は激しい譫妄と痙攣に見舞われ亡くなる。雑誌は2年間の喪の服し方を伝え、後半は植物を育てることを勧めた。
アラベラは階下の画廊の主人につきまとう女性の撃退法を相談する。そして雑誌は、上階の窓から落下してきた植木鉢が女性の頭を直撃し死に至った事故を伝える。

「わが名はスミス」
イギリス行きの飛行機で、隣の男がイギリスは初めてかと話しかけてきた。42歳で心臓病を抱えているという。エヴァはイギリスに住んでいると答えた。カリフォルニアに葡萄園を2つ持ってるが、3年前に妻が突然いなくなったという。天涯孤独の身になった。イギリスには先祖を探しにいくという。ありふれたスミスという名前だから苦労する。
エヴァがそれをジャネットに話すと、昼休みに国民戸籍局で調べるという。ジャネットは国民戸籍局でジョン・スミスにあい、自分がジョンの探している4人の曽祖父の孫の可能性があることを匂わせた。そのあとジャネットが会社に出てこなくなった。
エヴァはエッジカムに行って教会を訪ねた。 すると司祭は2人の男女が訪ねてきたが、事実を話さなかったという。ジョン・スミスの祖父は精神病で非常に凶暴だったという。息子も同様の病気だった。息子には妻がいて乳飲児を抱えてアメリカに移住したという。

「厄介な隣人」
州庁の会計課首席事務官のギルバートの隣に引っ越してきたストックは、長髪を束ねた髪型で園芸店から斧を買って包んでもらわなかった。妻のジョーンは隣の家でコーヒーをご馳走になったという。56人も隣の家に集まってパーティを開いた。ある日公園でギターを鳴らして歌っているストックを見かけた。ストックの妻は通行人が投げる小銭を集めて木の鉢に入れているのだ。ストックに収入があるとすれば国から施しを受ける権利はないと、ギルバートは社会保障課に通報した。
ストックはリンゴの木を斧で倒して、1週間かかってその木を燃やした。次に園芸店に行くと、ストックはシャベルを買ったという。庭に大きな穴を掘り、ジョーンが尋ねると核ルターを作っているのだという。ギルバートは核シェルターが自分の土地の地下に入り込んでいるに違いないと思い込んだ。隣の家との境界にギルバートは穴を掘り何かを見つけ、破壊し出した。それは電線のメインケーブルだった。

「ベリー・ダンス」
ヤスミンはベリー・ダンスを夏祭りで披露してもらいたいと言われた。夏祭りの2週間前、アンジェラがわたしを夕食に招待した。アンジェラと同棲している組織委員長のダンカンも同席した。食事が終わって、ダンスを披露すると絶賛された。オークションで競り落とした人に、お望みの場所でその人だけのダンスをヤスミンが披露するという案を、ダンカンが提案した。事件が起こりそうな設定だ。
夏祭りは大盛況のうちに終わり、せりも100ポンドの値をつけた人物の手に落ちた。そして連絡がきた。
ダンカンに館に連れて行かれ、そこにはダンカンの伯父だという老人が待っていた。降圧剤が見当たらないという。ヤスミンの踊りに興奮したら血圧が上がって死んでしまう。ダンカンの企みだった。ところが、アンジェラが現れてダンカンの胸を刺した。ダンカンがヤスミンに気があると勘違いしたのだ。ノーマン伯父さんは、ぴんぴんしていて、週2回のベリー・ダンスを見物している。

「香味をちょっぴり」
女流探偵小説家のクアンが開くパーティに現れた辛口の書評家のフレッチャーの書評に義義を唱えた。クアンの新作を「香味なき10年1日如き調理法」と酷評したのだ。
クアンは私の小説は事実を土台にしているといった。フレッチャーは「あの小説はとんでもない無理がある。15人もの人が1人の男に恨みを抱き、一致団結してその男を殺すなんていうのは、まったくの幻想ですよ」といった。
クアンはそこで、パーティの参加者を1人ずつ紹介した。フレッチャーに作品を酷評された15人だった。参加者はそれぞれ致死量の毒薬を持参し、執事によって毒薬は飲み物の中に入れられたという。クアンは乾杯の発声をフレッチャーに命じた。フレッチャーは乾杯と叫び、手に持ったウイスキーを飲み干したが、15人は誰も杯を掲げなかった。

「処女と猛牛」
アリスンは教区司祭の娘、トムはパブの親父の倅。トムは小学生のときにガキ大将で、アリソンは質素な身なりだったが、村の若い男は誰もが胸を焦がした。一方、ルーファスは優等生であり、中等学校では生徒長に選ばれカレッジに進学した。何かとアリソンにちょっかいを出したが、アリソンは相手にしなかった。アリソンとトムの関係はいい方向に進んでいた。
ある日パブに男と占い師の女が現れ、トムの父親がトムとアリソンを占ってくれと頼んだ。似合いのカップルであり、猛牛と処女の組み合わせだといった。それに対してルーファスがお笑い種だと言ったものだから、トムが逆上しルーファスに掴みかかった。親父と村人が止めに入りことなきを得たが、その夜以来、ルーファスが行方不明になった。
その後トムとアリソンが結婚した。2年経って、ルーファスの遺体が発見された。トムがトラクターで轢き殺したと自白した。トムは11年服役してアリソンの元に帰ってきた。村人たちは2人を語るとき、処女と猛牛として語った。
占い女が当時の占いについて語った。「本当は彼が乙女座で、彼女が牡牛座なの」

「見つめている男」
ドナは新婚旅行で撮った写真にこだわっていた。ドナはジェイミーをつなぎとめておく、安心できる材料を探し求めていた。ふたりはジョージ王朝風の邸宅に住んでいた。ドナは自分が無一文の三流女優であることを告白した。ジェイミーは少し狼狽えたように見えた。旅行中に撮った写真を見ると、違う場所で撮った3枚の写真に同じ男が写っていた。
ジェイミーは前妻のフィオーナは殺されたと打ち明けた。フィオーナを殺した犯人は、ジェイミーに恨みを持っていたのではないかとジェイミーはいう。
ジェイミーがフランス出張に出かけるという。テムズ川の向こう岸に新婚旅行の写真に写っている男がいたという。フランスには会社の方針でドナ連れていくことができないジェイミーはいった。
ジェイミーを航空で見送るとあの男が目に入った。直に問い詰めると思い違いだという。
家に戻って部屋に入ると門の前に車が止まり、例の男が呼び鈴を押していた。ドナは無視したが、車は門の前に泊まったままだった。
夜になって寝入ってしまうと、目の前にジェイミーが立っていた。ジェイミーがドナの首を絞めようとしたとき、ジャイミーの体の力が抜けた。あの男がジェイミーの頭を鈍器で殴ったからだ。男は前妻の家族に依頼された私立探偵だった。ジェイミーはフランス出張というアリバイを細工して、前妻を殺したのだ。

「女と家」
夫のトムが銀行のベンザンス支店の支店長の話を持ちかけられたというのに、断ろうと思っていると、聞いてアニタは慌てた。アニタの必死の説得にトムは折れた。ベンザンスの不動産屋には2人の希望にそう住宅がなかった。
アニタが新聞広告で希望にそう物件を見つけた。その持ち主スパイス氏は、2人の生活スタイルを根掘り葉掘り訊くのだ。そして、引っ越した。ところがトムが鉱物探しをしている最中に穴に落ちて首の骨を折って亡くなった。警察は事故と判断した。
アニタは菓子店でスパイス氏に会った。そしてアニタの車にスパイス氏を乗せて、家をどのように使っているか見たいという要望に答えた。

「煙草屋の密室」
煙草屋の2階を借りている切手商のメシターを警察が調べにきた。メシターはそこに住んでおらず週に2回郵便物を取りに来るだけだ。煙草屋のブレードは警察とともに2階の部屋に入った。家具も何もない。鍵がかけられた部屋があった。ブレードの許可を得てメシターは鍵を取り替えたという。その日は捜査令状がないから捜査はここまでだ。
郵便物を取りに来たメシターの話によれば、1世紀以上前に、ミスEDという女性が、消印のついた切手で化粧室の壁を覆いたいので、使用済みの切手を送ってくれるようにとの新聞広告を出していた。ミスEDが借りていた部屋が煙草屋の2階であるというのだ。壁紙で隠された無数の切手をある程度剥がしたから、あとはブレードに譲るという。
警察が来てメシターはそこら中の新聞にこの話を載せたという。そして古い切手を大量に売り捌いた。メシターは価値のない古い切手に細工を施して、大量に売り捌いたという。→人気ブログランキング

煙草屋の密室/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫/1990年
マダム・タッソーがお待ちかね/ピーター・ラヴゼイ/ハヤカワ文庫 /1986年

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