平城京 安部龍太郎
文武天皇が25歳の若さで亡くなり、天皇の母君である元明天皇の御世(707年〜715年)が始まった。
遣唐使の船長であった主人公の阿倍船人(ふなびと)は、唐から帰国の際、船の故障と偽って港に戻り、3年後に白村江の戦いで捕虜となった人々を乗せて帰ってきた。この行為が命令に反いたとされ、謹慎処分になっていた。
平城京 安部龍太郎 角川文庫 2021年 |
船人を兄の阿倍宿奈麻呂(すくなまろ)が訪ねてきて、唐の長安を模した平城京を奈良山の麓に造ることになったから、手伝って欲しいという。2年で都を造る現場の責任者になれという。権力者である藤原不比等の命令である。阿倍家にとっては白村江の戦いの汚名を挽回するチャンスだ。父の阿倍比羅夫は新羅征討軍の後将軍として闘った。
奈良の盆地を地ならしして大路小路を造らなければならない。それを1年で仕上げるためには、1日1万人の役夫が必要である。まずは役夫たちの宿舎の屋根をふく葦を難波潟で集める。船人が白村江の戦いの捕虜を助けたことは尊い行為として人々は受け止めていた。船人に協力しようと総勢四百人が集まった。
しかし問題は山ほどある。まずは平城京予定地にある古墳の移動である。豪族たちの立退きの説得を舩人がやらねばならない。さらに、冤罪によって滅ぼされ都を追われたと信じている葛城一族の立退き、もうひとつは土木工事のノウハウと膨大な労働力が期待される行基率いる宗徒が大宝律令の僧尼令により都に入れないことである。
さらに、海からの資材運びには百済の泊を利用するが、百済の泊には白村江の戦いで亡命してきた百済の民が住んでいる。白村江の戦いで百済が敗れたとき、天智天皇が多くの亡命百済人を引き受けてた。百済の泊の人々は天智天皇派のためなら労を厭わないのだ。阿倍船人はこうした難題を一つ一つ解決してゆく。
正体の知れない勢力が遷都を邪魔する。根底には天智天皇派と天武天皇派の確執がある。天智天皇派は、唐とは距離を置く方針をとる壬申の乱で敗れた一派だ。天武朝廷の流れを覆して天智天皇の系統に戻そうと心に誓っている人たちだ。一方、天武天皇派は、日本が唐の冊封国(同盟的な隷属国)となることで、白村江の戦い以来悪化している両国の関係を正常化しようと考えている。そのために行わなければないことは、大宝律令を制定し、史書の編纂を行い、都となる王城を建設することである。
船人は奈良への天皇行幸の裏警護を任されることなった。そして行幸の日、事件は起こる。
大化の改新(645年)、白村江の戦い(663年)の倭軍の惨敗、壬申の乱(672年)の後、平城京建設を描く歴史小説であり、事件の黒幕は誰かという謎を解くミステリでもある。→人気ブログランキング
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