歴史・時代小説縦横無尽の読みくらべガイド 皆川博子
本書で紹介している作家は176名、取り上げている小説は488作。すごい数だ。
本書は【時代劇は楽しい!】【こんなテーマで読み比べてみた】【幕末・明治を読む】【今とつながる物語】【この作家はこれを読め!】の五部からなる。
歴史・時代小説縦横無尽の読みくらべガイド 皆川博子 文春文庫 2017年 |
第1部から第4部までは、ダジャレ仕立てのタイトルが目立つ。
たとえば、「シャモナベイビー!」の項で取り上げるのは、池波正太郎の『鬼平犯科帳』と司馬遼太郎の『龍馬がいく』。『鬼平犯科帳』には五鉄の「軍鶏鍋」が何回も出てくるという。『龍馬がいく』では風邪をひいた龍馬が、峰吉少年に軍鶏肉を買いに行かせる。ところが峰吉は「鳥新」という店で30分も待たされる。話は進んで龍馬の暗殺に至ってしまう。そこで著者が話題にするのは書かれていない軍鶏のゆくへ。暗殺はおいておいて軍鶏がどうなったかを推理している。
話は広がる。池波正太郎は詳しい調理法を書かないという。そこで、池波作品に登場する料理を解説したり再現したりする本が登場する。『池波正太郎 鬼平料理帳』(佐藤隆介)を紹介したあと、料理時代小説の代表格である高田都の『みをつくし料理帖』をとり上げる。
ダジャレがちゃんと機能しているのがいい。ダジャレは本文中にもちりばめられている。著者は気の利いたダジャレを飛ばすが、流行り言葉にも敏感な万能型だ。
【幕末・明治を読む】の「豆は夜更け過ぎに餅へと変わるだろう〜旧暦新暦大混乱」や「時の名前に身をまかせ〜暮れ六つって何時?」の項は、太陽暦導入に伴う混乱を描いた作品を挙げている。明治初期ならではテーマだ。
西洋定時を受け入れがたい人にとっては、「一日が明け六つの鐘で始まり、暮れ六つの鐘で終わることに、いったいなんの不都合があるのだろうか。夏の一日が長く、冬の一日が短いのは道理であろう」(『五郎治殿御始末』浅田次郎)という心境なのだ。
【この作家はこれを読め!】の章では、「巨匠を読む」には、司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平を取り上げている。「名手の世界を味わう」では、山本兼一、葉室麟、北原亞以子、宮部みゆき、平岩弓枝、宇江佐真理、杉本章子を紹介している。さらに、「今を代表する実力派たち①男性作家編」「今を代表する実力派たち②女性作家編」、「読み逃すな!注目の新進作家」「現代小説からの参入」、さらに「文庫書き下ろし時代小説①武家・剣豪編」「文庫書き下ろし時代小説②市井・伝奇編」という具合に、第五部だけでも、蟻一匹も逃さぬような網羅ぶりだ。まさに縦横無尽だ。
ところで、飛鳥時代、奈良時代の作品の紹介が手薄なのは、元々この時代の作品が少ないからだろう。本書をめくっているとつい小説を買いたくなる。本書が優秀な時代小説解説本である証拠だ。→人気ブログランキング
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