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2021年7月

2021年7月27日 (火)

バサラ将軍 安部龍太郎

南北朝の争いによって朝廷の権威が失墜した南北朝時代は、人々が己の力だけを頼りに生き始めようとした時代である。その象徴的な言葉がバサラ(婆娑羅)だ。バサラとは梵語で金剛石のこと。この時代に、バサラは神を恐れぬ勝手放題、贅沢三昧な振る舞いを指す言葉になっていた。その典型的な人物が足利尊氏の配下の高師直や佐々木道誉である。
本書には、南北朝の不安定な時代を背景に描かれた、視点の異なる珠玉の短編6編が収録されている。
Photo_20210727142901バサラ将軍
安部龍太郎 
文春文庫 
1998年

「兄の横顔」
尊氏は心のままに振る舞い、実務はからっきしだめで、もっぱら弟の直義が実務にあたったといわれている。
直義は隠岐から戻った後醍醐天皇の寵姫阿野廉子に大塔宮(護良新王)が、皇位を奪う野心があると吹き込んだ。尊氏は六波羅に残り、直義は大塔宮を奉じ関東武士を統率するために、執権として鎌倉に入った。大塔宮の動きが不穏である。父・後醍醐天皇によって大塔宮は鎌倉に幽閉され、直義は大塔宮を土牢に入れた。
信州から北条の残党が鎌倉に攻め上がってきた。数で及ばない直義は尊氏に援軍を要請したが間に合わず、直義は大塔宮を殺害して鎌倉から逃れた。直義が尊氏と合流したのは、三河であった。直義は尊氏に大塔宮を殺害したことを告げた。これで足利一族は朝敵となったのだ。尊氏が全ての責任を直義に取らせるために、大塔宮を鎌倉に下したのではないかと疑った。

「師直の恋」
高師直は、公家の牛車に嫌がらせをしている佐々木道誉の家来を叩き斬り一喝した。その牛車には妙齢の女性が乗っていた。十指に余る側室を抱えた38歳の師直はその女性に一目惚れをした。師直の妻は父から強引に押し付けられた女だった。
後醍醐天皇に仕えていた侍従の話から、師直が恋する女性は葵といい、30歳ばかり歳上の塩冶判官高貞の妻だとわかった。占部兼好に恋文を代筆してもらうことになった。葵はその手紙を半分読んで捨てたという。
侍従が、3人の子持ちの化粧を落とした面相を一度まともの見た方がいいという。そして師直は湯から上がった葵の姿を目にした。

「狼藉なり」
高師直の盟友土岐頼遠が酔って上皇に狼藉をはたらいた。重臣たちが評定を行ない死罪と結論を出した。切腹ではなく斬首である。師直は頼遠に結果を告げると、頼遠は受け入れるという。師直はどうにかするから美濃に逃れていろという。南朝派が兵を蓄えているが師直は放っておいた。いずれ合戦で武勲をあげてきた頼遠の力が必要になると踏んでいた。しかし、頼遠は大殿(足利尊氏)に判断を仰いだ。

「知謀の淵」
新田義興は南朝の後醍醐天皇側についた。竹沢右京亮は畠山国清から新田義興にとり入り騙し討ちにせよと命じられたのだ。足利側で生きるためにはこの機会を逃してはならない。恩賞は望みどおりにとらすという。
竹沢右京亮は、義興の乗った舟に水が入るよう細工を加え義興を討ち取った。勝利の宴で重鎮たちは右京亮を揶揄うような言動をした。かつての主人新田義興を騙し討ちにした自分を快く思わない者がいる。右京之介は卑怯者と罵られ馬鹿にされ、それは止まるところを知らなかった。卑怯者はいつまでたっても卑怯者だった。

「バサラ大名」
後円融帝と足利義満は同じ27歳、従兄弟の関係にある。義満は帝の寵愛深い三条の局をなんとかものにしたいと思っている。日野資康に何とかならないかと持ちかけた。資康はバサラな望みだという。義満の祖父尊氏が北朝を擁立した。幕府の武力無くしては一日たりとも立ち行かない。その弱みに漬け込んでの横暴である。義満は帝の座を狙おうとすらしている。後円融帝は、三条の局の息子6歳の幹仁親王を幼帝にしたて上皇として政治を操ろうとする。三条の局は義満を招いて息子を幼帝にすることを交換条件とした。義満は興醒めし、三条の局を無視することになる。
義満の叔母である崇賢門院が、義満の一連の狼藉を叱責した。あなたが力を失えばあなたに従う者はいなくなるが、帝は徳をもって民の上に立たれている。徳のある者であり続けようと努力することができる。帝が背負っているのはそういう宿命なのだ。帝に誓書を書けという。義満はそれに従った。

「アーリアが来た」
5日前小浜湾に南蛮船が着いた。象が乗っているという。5人の手下を持つ馬借の源太に、若狭屋から象を京に連れていく手配をしろと声がかかった。源太は若狭屋の荷の5分の1を扱えるようにと条件を出した。
幕府には南蛮人が来るのを喜ばぬ勢力がいるという。義満は天皇の座につくつもりだったが、突然死んだ。義嗣と義持が跡目を争い義持が勝ち将軍の座についた。義持は小浜で明との貿易を行おうとしていたが、この計画が義嗣派に漏れたのだ。
黄竹青という少女が象のアーリアの背に乗って操っている。敵は竹青を遠矢で射殺しようとするだろう。そして道中、一行が襲われる。→ にほんブログ村

平城京/安部龍太郎/角川文庫/2021年
信長の革命と光秀の正義 真説本能寺/安部龍太郎/幻冬社新書/2020年
姫神/安部龍太郎/文春文庫/2018年
等伯/安部 龍太郎/文春文庫/2015年
バサラ将軍/安部龍太郎/文春文庫/1998年
婆娑羅/山田風太郎/講談社文庫/1993年

2021年7月23日 (金)

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか 朝日順子

シカゴからロサンゼルスに至るルート66に関連したブルース、カントリー、ロックンロールの楽曲のそれらが生まれた背景と歌詞の意味、果たした役割を探る。「アメリカの真ん中の道」ルート66には、語るべき数多のエピソードがある。
著者は子どもの頃から洋楽に親しみアメリカ在住経験が何回かある。職業は翻訳家、音楽ライター。イベント出演や執筆の仕事に携わってきた。ロックの歌詞を解説するトークイベントを行なっている。
本書では日本であまり知られていない、アメリカ中西部と南部の風土や文化、そこに住む人々が何を考えているかを歌詞から紐解き、著者自身の体験も記したという。本書の情報は幅広く深くマッシブだ。著者の音楽を語る熱量は凄まじい。
66ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか
朝日順子(Junko Asahi
青土社 
2021年 234頁

第1曲目は、『On the Road Again』(ウィリー・ネルソン)を紹介する。本書のテーマ「アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか」を表す象徴的な曲だ。
オン・ザ・ロードの生活とは、音楽家が主に車両で長距離を移動する状態を示す。一番の稼ぎ時である夏は、フェスティバルでのライヴに出演するためにアメリカ全土を移動する。真冬以外は、ライヴハウスだけでなくグリルのような大きめのレストランからホテルのラウンジまで、文字通りドサ回りをする。
ローリング・ストーンズのようにスタジアム級のコンサートをやるバンド、小さな会場でのツアーを何年も続けるバンド、昔は大規模なコンサートをやっていて、今は小規模なギグを地道に続けるバンドとさまざまだが、いずれにしても彼らのロードは果てしなく続く。 

スタインベックの『怒りの葡萄』は、30年代にオクラホマ、テキサス、アーカンソーなどの中西部の州の人々(オクラホマの人が多かったためオーキーと呼ばれる)が、砂嵐で耕作不能となった土地を捨てて、ルート66を進行しカリフォルニアに向かう物語である。
ボブ・ディランに影響を与えたウッディ・ガスリーはオクラホマの出身で、オーキーたちと共にカリフォルニアを目指す旅に同行した。そのあとニューヨークに戻ったウッディはスタインベックと友達になり、『怒りの葡萄』についての曲をアルバムに載せたという。

ブルースはミシシッピー州を中心にしたディープサウスで生まれ、北上しシカゴで花開いた。一方、ロッックンロールは、それほど単純ではない。
アメリカンロックの源泉は路地裏だという。どんなに成功して金持ちになっても、ルーサー精神を失ったら、もうそれはロックではない。エルヴィス・プレスリーに代表される音楽ジャンル「ロカビリー」は、白人を蔑視する言葉「ヒルビリー」とロックンロールを合体して名づけられた。

自由であるからこそ逆に不自由であることが、反抗の文化であるロックがアメリカで発展した理由の一つだと思っているというのは示唆的だ。日本では世間体を大事にする親が多いが、アメリカでは自分の嗜好や思考を押しつける親が多いことが、反抗を生み出しているという。

“motor (車)”と“hotel (ホテル)”を組合せた造語「Motel」と呼ばれる世界初のモーテルがカリフォルニアに誕生したのは1925年。これはルート66が開通した翌年というトリビアが楽しい。→人気ブログランキング

ルート66を聴く アメリカン・ロードソングはなにを歌っているのか/朝日順子/青土社/2021年
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて/松尾理也/新潮新書/2006年

2021年7月14日 (水)

探偵稼業はやめられない

雑誌『ジャーロ』に掲載された探偵ものの短編12編を集めたアンソロジー。男性探偵6、女性探偵6と気を遣っている。
難問に直面して、苦しんだりあっさり解決をしたり、さらに難しい事件が続発したり、お馴染みの探偵の行動は、とりあえず安心して読んでいられる。初めてお目にかかる探偵は、お手並み拝見というところ。いずれにしても、いい企画の短編集だ。
塩井浩平のカバーイラストもいい。
E59a7e5202784ff9a00cf508f0155c16探偵稼業はやめられない
光文社文庫 
2003年 471頁

「フォト・フィニッシュ」サラ・パレツキー(V・I・ウォーショースキー)
ミズ・ウォーショースキーが依頼されたのは、著者の得意分野である依頼人の親族に絡む事件だ。

「空の青(エアロ・アズール)」マイクル・コナリー(ハリー・ボッシュ)
全裸の若い女性の遺体が発見され、ハリー・ボッシュはFBIプロファイラーに協力を仰いだ。ボッシュが46人の容疑者から選んだ2人は、プロファイラーが選んだ2人と一致した。そしてシリアルキラーが逮捕される。ボッシュは死刑が執行される前に犯人に面会し、全裸で殺された少女の身元を聞くが答えない。その数日前にプロファイラーも犯人に面会していた。

「スカーレット・フィーバー」ジャング・レープ(ジェニー・ゴードン、C・J・ガン)
11月のテキサツ州オースチン。ジェニー・ゴードンとC・J・ガンのふたりの女性に依頼が舞い込む。祖父が遺した小さな農場をやっているビローは踊り子に一目惚れをした。10日前に姿を消した踊り子を探してくれという。

「噛み合わない視線」ジェレマイア・ヒーリイ(ジョン・フランシス・カディ)
ストーカーに悩まされている美女が依頼人だ。犯人は警察の人間かもしれないという。下着が送られてきて、そのあと大人のおもちゃが送られてきた。会社の同僚や浮浪者、こういう人たちに私立探偵を雇ったってことをわからせてほしいという。依頼人が襲われる事件が起こる。

「ほぼ完璧な殺人」キャロリン・G・ハート(ヘンリー・O)
ヘンリー・Oが新聞記者当時、辣腕のAP通信記者として一緒に事件を担当したシルヴィアから電話がかかってきた。夫のゴードンが来たからと電話が切れた。シルヴィアの豪邸に向けてレンタカーを走らせた。ところが家には誰もいなかった。そして翌朝、シルヴィアが崖から転落して死亡した新聞記事が載った。夫は一歩も外に出ていないという。シルヴィアの過去の著作が謎を解くヒントなる。

「動物病院の怪事件」 エドワード・D・ホック(サム・ホーソン)
無人の動物病院のケージに入っていた猫が首を絞められて殺された。ホーソン医師にクリスティー動物病院長から、真相を解き明かしてほしいと依頼がくる。

「温泉は飛行機で」マーシャ・マラー(シャロン・ マコーン)
カリフォルニア行きの飛行機にゴージャスな2人の女性が乗り込んできた。麻薬の運び屋ではないかとの証拠をつかむために、シャロンは一緒に飛行機に乗り込んだ。ふたりはシロだった。セスナ機からKFCのテイクアウトを入れた袋が出てきて、なかに麻薬が隠されていた。

「懺悔」ジョセフ・ハンセン(バック・ボハノン)
5年前に行方不明に女の骨が出てきて、40歳も年上の夫が逮捕された。ボハノンは捜査に走り回る。ボハノンが手に入れたのは殺された女のノート。絵心があった女が何人かの人物を描き、金銭の出納を書いていた。

「十一時のフィルム」S・J・ローザン(リディア・チン、ビル・スミス)
パトリシア・リンが殺されて犯人は逮捕されたが無罪になった。セックスの最中か後にリンは殺されたのだ。中国人好きのミッチと付き合っていた女が、ミッチはセックスがエスカレートすると暴力を振るうという。ビデオテープを撮っているはずだという。そのビデオを手に入れるためにハニートラップを仕掛けようとするが、相手は殺人犯だ。

「南部の労働者」ローレン・D・エスルマン(エイモス・ウォーカー)
妻の浮気の調査を依頼され、相手を突き止め逢瀬のモーテルを突き止めて依頼人に報告した。数日後、妻と浮気相手が同じモーテルでショットガンで射殺された。夫が捕まり自白する。
探偵ウォーカーは殺人はプロの仕事と目星をつけ、夫の自白を撤回させようとする。

「消えた死体」 ジャネット・イヴァノビッチ(ステファニー・プラム)
変態サミーが全裸で額を撃ち抜かれ地下室で死んでいた。ステェファニーとルーラは近くのセブンイレブンで警察に連絡して戻るとすでにパトカーが来ていて、死体がなくなっていた。死体は車に乗せられて悪臭を放っているところを発見された。真犯人を突き止めたが、家族に暴力を振るう町の厄介者の男を犯人に仕立るか、ステファニーたちは思案する。

「レッツ・ゲット・ロスト」ローレンス・ブロック(マカット・スカダー)
スカダーに女友達から、ポーカーをしていた5人のうち一人が亡くなったから、力になってほしいという。部屋を訪ねると4人の男がいた。遺体の胸には細身のナイフが刺さっていた。誰かが訪ねてきてフィルが出ると刺されたという。酢いも甘いも噛み分けたアル中探偵のスカダーの手腕が発揮される。→人気ブログランキング

2021年7月 6日 (火)

姫神 安部龍太郎 

推古天皇の御世。遣隋使を派遣する目的は、厩戸皇子が望む朝鮮半島三国と倭国の和平だった。遣隋使の水先案内と護衛の役を仰せつかったのは、宗像水軍。
遣隋使派遣に至るまでの1年間を、宗像水軍に関わる人々を中心に描く。
Photo_20210706141301姫神
安部龍太郎
文春文庫
2018年 269頁

607年8月、宗像水軍をひきいる宗像君疾風(むなかたのきみはやて)は、遣隋使として派遣された小野妹子ら一行を渡海させる任務を厩戸皇子から仰せつかり、隋の都洛陽に向かっている。
今回の遣隋使団は朝鮮半島の三国(高句麗、新羅、百済)と倭国で組織し、四カ国が隋皇帝の冊封下に入る(属国となる)ことで相互の争いを防ぐことを目的としている。厩戸皇子の呼びかけに応じ、高句麗と新羅は使者と皇帝への貢物を送ることにしたが、百済は新羅に奪われた土地を取り戻すまでは、いかなる和平にも応じないと、使者は送らず、貢物だけを送った。かくして、4国の足並みはそろわず、それぞれの国内に和平に反対する勢力が、遣隋使の派遣を阻止しようとする。

遣隋使渡海の前年、606年の初夏、宗像の海は荒れて避難が遅れた船・三艘が海にさらわれた。村長は、伽耶に大島の遥拝宮に参籠して沖ノ島の田心姫神に、波風がしずまるように祈るように頼んだ。祈りが通じたのか嵐はおさまった。
主人公の伽耶は韓子(からこ)である。韓子とは任那に住んでいた倭人と百済人や新羅人との間に生まれた子供のことである。伽耶の母親は宗像一族の長の娘で、南加羅の新羅人の豪商に嫁いだ。伽耶は5歳まで幸せに暮らしていたが、新羅が突然任那に攻め込んできたため命からがら脱出した。両親の消息は定かでない。今は巫女の修行をしている。

大島の海岸に朝鮮人と思われる大怪我を負った若い男が漂着した。伽耶は男を助けるべく宗像に運び薬師に預けた。伽耶はなぜかその男に惹かれものを感じていた。外科処置が行われたが、創が治っていないにも関わらずその男・円照は姿を消した。新羅からの諜報ではないかと疑われた。

大和からの使者が逗留している屋敷を何者かが襲った。屋敷にいた円照は無事だった。使者は宗像水軍に隋への渡航の案内を依頼しにやって来たのだ。厩戸皇子の計画に反対する者の仕業であろう。円照は厩戸皇子と和平の道を探るため倭国に向かったが、途中で何者かに襲われ傷を負って大島に流れ着いたのだった。円照は新羅の真平王の弟である。

大和では二つの勢力が駆け引きをしていた。百済と手を組んで新羅から任那日本府を奪還しようと目論む、蘇我馬子・蝦夷親子。一方、厩戸皇子は朝鮮半島と倭国の和平を望んでいた。

朝鮮半島にたどり着く前に、遣隋使を護衛する宗方水軍は、蘇我馬子と通じている糸島水軍と戦わなければならない。宗方水軍に伽耶も同行することになったのだが、遣隋使の行く手は前途多難である。
ちなみに、沖ノ島には、本作で円照が伽耶に贈ったとされる金製の指輪が伝えられている。→人気ブログランキング

平城京/安部龍太郎/角川文庫/2021年
信長の革命と光秀の正義 真説本能寺/安部龍太郎/幻冬社新書/2020年
姫神/安部龍太郎/文春文庫/2018年
等伯/安部 龍太郎/文春文庫/2015年
バサラ将軍/安部龍太郎/文春文庫/1998年

2021年7月 1日 (木)

ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ

上手い文章の小説を読みたい。読み手が唸るような言葉遣いとか、会話の妙味とか、予想を超える比喩とか、意表を突く小咄の挿入とか、真似したくなるような文章を読みたい。本書はその要求に答えてくれる。
Photo_20210701082001ストリート・キッズ
ドン・ウィンズロウ/東江一紀 訳 
創元社推理文庫 
1993年

ドン・ウィンズロウのデビュー作。ニール・ケアリー探偵シリーズ第1作。
父親は姿を見せず母親はヤク中だったから、ニールは文なしで、11歳の頃から探偵の技術をニールが「父さん」と呼ぶグレアムに仕込まれた。グレアムは朋友会に属している。
朋友会は、ロードアイランド州プロヴァンスの代々銀行を経営するキタリッジ家が、私的な厄介事の処理に作った組織だ。

頭がいいニールの朋友会における待遇は破格だった。アイビーリグの大学に通い、そのあと大学院に行き、学費は全部会長持ち。いつまでもで会で働く気はないと会長に手紙を書いた。それなのに英文学のゼミの試験の2週間前に呼び出された。ニールは英文学の教授になりたいのだ。単位を落とせば落第の憂き目にあうが、そこはなんとかなるといわれた。

ニールに課せられたミッションは、3ヶ月前に家出したチェイス上院議員の娘アリー(アリソン)を連れ戻すことだ。ロンドンで元同級生が修学旅行中にアリーを見かけて話しかけたが、逃げたというのが最後の目撃情報だ。
17歳の娘が行方不明になっているというのに、警察には知らせていない。
チェイス上院議員は副大統領に指名されると見込んでいる。つまり醜聞は隠蔽したいということだ。母親のエリザベスによれば、アリーは大好きな父親に性的虐待を受けたことが原因で、家出をし麻薬に手を出したという。アリーは主人の子じゃない、それは夫も知っているという。

アリーに会った同級生の話によれば、アリーは麻薬の売人に囲われて売春をしているという。今は5月29日、アリーを見つけてヤク抜きをして、8月1日の民主党全国大会 には連れ戻さなければならない。アリーを連れ戻したら、復学が認められる。

そんなわけで、ニールはイギリスに渡りロンドンをうろついてアリーを探すが、1週間は情報なし。そして、レストラン窓ガラスの向こうについにアリーを見つけた。他に2人の男と、女1人がつるんでいた。
4人に近づき、探偵修行で培った手練手管で4人の信用を勝ち取った。

稀覯本売買の儲け話を持ちかけてアリーを誘拐する計画だ。母親がヤク中だから、ニールは麻薬からの脱却法も脱却の際の苦しみも、十分に知っている。
アリーを中毒から脱却させる過程はふたりの愛が育まれていく過程だ。本書はハードボイルドであり恋愛小説でもある。→人気ブログランキング

壊れた世界の者たち/ハーパーブックス/2020年
ボビーZの気怠く優雅な人生/角川文庫/1999年
ストリート・キッズ/創元推理文庫/1993年

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