姫神 安部龍太郎
推古天皇の御世。遣隋使を派遣する目的は、厩戸皇子が望む朝鮮半島三国と倭国の和平だった。遣隋使の水先案内と護衛の役を仰せつかったのは、宗像水軍。
遣隋使派遣に至るまでの1年間を、宗像水軍に関わる人々を中心に描く。
姫神 安部龍太郎 文春文庫 2018年 269頁 |
607年8月、宗像水軍をひきいる宗像君疾風(むなかたのきみはやて)は、遣隋使として派遣された小野妹子ら一行を渡海させる任務を厩戸皇子から仰せつかり、隋の都洛陽に向かっている。
今回の遣隋使団は朝鮮半島の三国(高句麗、新羅、百済)と倭国で組織し、四カ国が隋皇帝の冊封下に入る(属国となる)ことで相互の争いを防ぐことを目的としている。厩戸皇子の呼びかけに応じ、高句麗と新羅は使者と皇帝への貢物を送ることにしたが、百済は新羅に奪われた土地を取り戻すまでは、いかなる和平にも応じないと、使者は送らず、貢物だけを送った。かくして、4国の足並みはそろわず、それぞれの国内に和平に反対する勢力が、遣隋使の派遣を阻止しようとする。
遣隋使渡海の前年、606年の初夏、宗像の海は荒れて避難が遅れた船・三艘が海にさらわれた。村長は、伽耶に大島の遥拝宮に参籠して沖ノ島の田心姫神に、波風がしずまるように祈るように頼んだ。祈りが通じたのか嵐はおさまった。
主人公の伽耶は韓子(からこ)である。韓子とは任那に住んでいた倭人と百済人や新羅人との間に生まれた子供のことである。伽耶の母親は宗像一族の長の娘で、南加羅の新羅人の豪商に嫁いだ。伽耶は5歳まで幸せに暮らしていたが、新羅が突然任那に攻め込んできたため命からがら脱出した。両親の消息は定かでない。今は巫女の修行をしている。
大島の海岸に朝鮮人と思われる大怪我を負った若い男が漂着した。伽耶は男を助けるべく宗像に運び薬師に預けた。伽耶はなぜかその男に惹かれものを感じていた。外科処置が行われたが、創が治っていないにも関わらずその男・円照は姿を消した。新羅からの諜報ではないかと疑われた。
大和からの使者が逗留している屋敷を何者かが襲った。屋敷にいた円照は無事だった。使者は宗像水軍に隋への渡航の案内を依頼しにやって来たのだ。厩戸皇子の計画に反対する者の仕業であろう。円照は厩戸皇子と和平の道を探るため倭国に向かったが、途中で何者かに襲われ傷を負って大島に流れ着いたのだった。円照は新羅の真平王の弟である。
大和では二つの勢力が駆け引きをしていた。百済と手を組んで新羅から任那日本府を奪還しようと目論む、蘇我馬子・蝦夷親子。一方、厩戸皇子は朝鮮半島と倭国の和平を望んでいた。
朝鮮半島にたどり着く前に、遣隋使を護衛する宗方水軍は、蘇我馬子と通じている糸島水軍と戦わなければならない。宗方水軍に伽耶も同行することになったのだが、遣隋使の行く手は前途多難である。
ちなみに、沖ノ島には、本作で円照が伽耶に贈ったとされる金製の指輪が伝えられている。→人気ブログランキング
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