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2021年8月25日 (水)

SDGsー危機の時代の羅針盤 南 博・稲葉雅紀

SDGs (持続可能な開発目標)は、2015年9月、国連で193カ国の首脳の合意のもと採択された「2030アジェンダ」の主要部分を占める。「危機の時代の羅針盤」としてのSDGsにじっくり目を通してみようというのが本書の主旨である。著者は日本の主席交渉官としてSDGs交渉を担当した南博と、市民社会からSDGsに関わってきた稲葉雅紀。
Fae85e24c0b0460088e055b17f435c29SDGsー危機の時代の羅針盤
南 博・稲葉雅紀
岩波新書
2020年 220頁

SDGsとは、〈①世界から貧困をなくすことと「持続可能な社会・経済・環境」へと変革することの二本の柱とする目標。②2030年を期限として、17のゴール169のターゲット、232の指標により世界の社会・経済・環境のあらゆる課題を取りまとめる、相互に不可分の目標。③条約のように、国連加盟国を法的に縛る者ではないが、先進国、新興国、途上国がともに取り組むものであり、実現にあたっては、「誰一人取り残さない」ことがうたわれている目標。〉である。

SDGsは持続可能なという概念と、MDG s(ミレニアム開発目標)への批判を土台にして作られた。まず、MDGsは途上国の開発問題が中心で、先進国はそれを援助する側という位置付けであったのに対し、SDGsは、開発だけでなく経済・社会・環境の3側面すべてに対応し、先進国にも共通の課題として設定している。それに伴い目標の数も8から17に増えてより包括的となった。
さらに、SDGsでは、課題を解決するために、企業の創造性とイノベーションに期待を寄せており、企業の役割が重視されている。
「持続可能な開発」とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすような開発」と定義されている。

SDGsは気候変動や経済格差の拡大等の慢性的な危機に直面した国際社会が、3年をかけて策定した危機時代の羅針盤である。外交官をはじめ、国際機関、民間企業、民間財団、市民社会、そして当事者たちが、対立や分断を乗り越えて、力を合わせて合意に達することができた。
SDGsには法的な拘束力がない、それゆえにゴールとターゲットのうち、自国に都合の悪いものは無視して、いいとこ取りができる。それにしても、すべての国連加盟国が合意に達したことは、多国間外交史上稀有なことだという。

SDGsの内容を列記すると、飢餓や貧困をなくして、すべての人に健康と福祉を、質の高い教育を受けて、ジェンダーを平等にする。安全な水とトイレを世界中に普及させ、クリーンなエネルギーを行き渡らせる。あらゆる人に働きがいのある仕事を。産業と技術革新の基盤を作り、人や国の不平等をなくす。住み続けられる街づくりを、持続可能な消費と生産パターンを確保する。気候変動対策、海の豊かさを守る。陸の豊かさを守る、平和で包摂的な社会を推進し、パートナシップで目標を達成しよう。

2019年に、SDGsの進捗状況を評価する「SDGサミット」が開かれた。国内、国家間で、富や収入を得る不平等が拡大しており、飢餓人口が増え、貧困をなくすことはおぼつかない。ジェンダー平等実現はままならない。そして国連がSDGs達成に黄信号を投げかけ、今後の10年で取り返すとなりふり構わず、2030年までの「行動の10年」を提起した。

現在、人類は地球の資源再生能力の1.69倍を使っているという。資源再生能力とは化石燃料や金属あるいは森林などのことである。持続可能な開発を続けるためには、資源の消費を1以下にしなければならない。満身創痍の地球をなんとか回復基調にもっていき、その状態を次の世代さらにその次の世代へと引き継ぐことが、SDGsのキーワード 「持続可能な」の意味するところである。
2020年から新型コロナウイルスが世界を席巻した。COVIV-19が落ち着いたあと、経済損失を急速に挽回しようと非常手段として再び安易に化石燃料に依存することにつながりかねない懸念がある。→人気ブログランキング
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