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2021年9月

女副署長 緊急配備 松嶋智左

田添杏美(たぞえあずみ)は懲罰人事で、県北に位置する佐紋署に左遷された。海岸に面する佐紋町は県の中心から車で3時間のところにある。懲罰人事の引き金となったのは、第一作『女副署長』(新潮文庫 2020年)で起こった殺人事件である。杏実が副署長として赴任した日坂署の敷地内で、迫りくる台風のなか警部補が殺されたのだ。
本書は、殺人犯を捜査するミステリであるとともに、警察組織の内部で起こる人間関係の軋轢を描く群像劇でもある。狭い町のドメスティックな事件を扱っているが、前作に勝るとも劣らぬ傑作である。元警察官で白バイ隊員の勤務経験がある著者ならではの視点は斬新だ。
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松嶋智左 Matsushima Chisa  
新潮文庫 
2021年 368頁

佐紋署では、署長が怪我で入院したため杏美が署長代理を兼務することになった。急遽、警察署協議会が開かれ、そのあとの懇親会を官舎で開くという。警察署協議会には警察のトップと町の重鎮が名を連ねている。町の重鎮が警察の案件に何かと関わってくる土地柄なのだ。杏美は署の外で宴会をすることを主張した。

杏美の脇を固める登場人物はそれぞれが事情を抱えている。シングルマザーの木崎亜津子は、総合病院の堀尾院長から駐車違反の揉み消しを依頼され、仕方なく書類を偽造した。甲斐祥吾は認知症の父親を抱えているが、マスコミ対応で家に帰ることができない。
さらに、杏実の因縁の人物が佐紋町にいた。来年定年を迎える伴藤弘敏は、30年前、杏実と同じ交番に勤務していた。伴藤の怠慢により高齢女性が交通事故で亡くなった。正義感に溢れる杏実はそれを許すことができず、上司に報告した。逆恨みした伴藤は、杏実のありもしない異性関係の噂を流し、婚約破棄に至らせたのだ。それを機に伴藤は出世の道が遠のき、杏実は独身を貫き女性として異例の出世を遂げて副署長になった。伴藤は10年前に駐在勤務を願い出て、妻と子どもと共に佐紋町にやってきたのだ。

佐紋町は面積280平方キロ、人口2万弱、佐紋署員総数66名で所轄を見守るには限界がある。そんな佐紋町に立て続けに事件が起こる。

はじめは隣接署管内で起こったひったくり事件だった。緊急配備が発令されたが、バイクに乗って高齢者の荷物を奪った犯人は捕まっていない。
そして、標高200メートルの小牧山の納屋で女性の撲殺死体が発見される。さらに、怪しい人物を尾行していた警察官が頭部を殴られ重傷を負う。

そして、殺人事件の指揮を執るために県警から辣腕の刑事課長・花野司朗が乗り込んできたのだ。グリズリーのような迫力のある体躯と容姿の花野は、前作『女副署長』の殺人事件の捜査で、ことごとく杏実と対立した。
花野の指示は杏実の予想を超えるものであったが、それが気に入らない。ところが花野の打つ手は次々と当たり、事件の核心に近づいていくのだった。→人気ブログランキング
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女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年

小説家になって億を稼ごう 松岡圭祐 

長編小説をどうやって生み出すかを事細かく伝授してくれる。作品の出版社への売り込みのノウハウも教えてくれる。印税の出版社との駆け引きのコツや税金対策に触れ、個人事業主としての小説家の身のこなし方も指示している。年収一億円の流行作家になるという志の高さを最後まで貫きながら書かれている。
著者は28歳のときに、デビュー作『催眠』でベストセラー作家の仲間入りをした。その後『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』『ミッキーマウスの憂鬱』などのシリーズで知られる、売れっ子作家。「前代未聞!業界震撼!」という帯の惹句は大袈裟ではない。本書に従えば間違いなく小説が書ける。
D0d178ddaf3a406fa896efe22be1fa35小説家になって億を稼ごう
松岡圭祐 
新潮新書 
2021年 253頁

 読者に話しかける形で書かれている。
小説作りの肝は、執筆ではなく「想造(脳内で物語を作り出す方法を著者はこう呼ぶ)」にある。この「想造」という言葉は繰り返し登場する。
好きな俳優を7人選び、顔写真をネットからダウンロードする。男女比は4対3、男女どちらが多いかは自由。それぞれに名前をつける。更に、身長や体重、年齢、出身地、職業、プロフィールを設定していく。
この段階で登場人物が、どう絡むかなにが起こるかは考えず、好みの登場人物ばかりを作り出し、たとえ犯罪者であっても、悪人なりに魅力を感じる人物にする。
7人の顔写真を眺めながら、こういう性格だったら面白いと思えるようなこと足していく。食べ物の好き嫌い、特技、趣味、なんでも画像と名前の下に付け加えていく。7人の登場人物を1枚に収まるようにレイアウトし、プリントアウトする。
さらに5人のサブの登場人物を作り出す。メインほど華やかではないものの、一癖も二癖もある脇役を揃える。この5人には一般人の顔写真を探す。

登場人物たちが動き回るか舞台を設定する。風景写真を3枚ダウンロードして登場人物の下に貼り付ける。自分の職業とか自分の生い立ちを考慮すべきとかの小説作法を聞いたことがあるかもしれないが、今はそれにとらわれない。
「想造」で物語りを構築するうち、貴方らしさが出てくる。次に誰(A)と誰(B)が街角で談笑しているとか、そこに(C)が割って入るとか、ただ情景を思い描くだけで構わない。
そこから行動の意味を連想していく。誰と誰が友達で、新たに知り合うのは誰で、誰が揉め事を起こすのか。それぞれが自然に動き出すのを待ち、その行方を追う。ここでメモや書き込みは禁止。脳は徐々に「想造」に慣れていき、理性であれこれ考えるのではなくて、本能的に夢中になれる段階に突入する。登場人物がうまく動き出さないのは、それは貴方が悪いのではなく、キャスティングが間違っている。特に気に入らないキャラを剥がし、新しい人物に入れ替える。理屈ではなく本能に従う、それが読者も魅了する物語になる。「想造」に自己制限を加えてはならない。
こうして視覚的に思い浮かべた空想物語、脳内でどんどん進行させていく。翌日になったら最初から順番に想起し直し、さらに新たな展開を付け加える。「想造」には12人全員を登場させる。1週間経ってもうまく噛み合わない、できればいない方がいいと感じるキャラがいれば壁から外す。また新たな登場人物を追加する。メイン7・サブ5という人数は減らさない。
舞台は3箇所以上に増やすことができる。ネットで探し壁に貼る。物語が長尺になっても一字も書いてはならない。文章にしようとした時点で自由な発想が失われる。文章作成段階ではノンフィクション作家と同じに条件になる。
調べ物が必要になることがある。執筆時にきちんと裏付けを取らなければならないが、今はネットで簡単に調べるくらいにしておく。
逆打ちプロットとは、登場人物たちの波乱が生じる、波乱はさらに大きなものになって襲ってくるはずである。避けてはならない。波乱を乗り越える方法を登場人物と一緒に考える。一度起きた波乱はリセットしてはいけない、解決方法が見つかるまで熟考する。解決できないは波乱にぶつかったら、1週間じっくりと考え解決不能であればそれが物語の「転」である。ここで初めて、メモを取る。波乱を解決するのではなく、物語の未来を空想する。少しずつ逆考して書いて「転」の部分に近づいていく。

ここまで来れば、あらすじを書くのも手間取らないはずだ。物語の内容を40字×3行で書く。どれも、5W1Hで書く。3幕構成で描く。第一幕、設定、第二幕、対立、第3幕、解決。第一幕25%、10行40字。第二幕50%、20行40字。第三幕25%、10行40字の分量。
すべての行が5W1Hになっている文章にする。慌てて細かい要素を書くことはない。消えてなくなることはない。思い出すたびに洗練されていくので決して焦って書こうとしない。

各行の間にその状況で思い浮かぶあらゆる事柄を書き加える。頭にあるものをすべて網羅する。「想造」したすべてを肉付してく。文章を意識しなくてよい。書く量が多い箇所はそれでいい。思い浮かんだことを書き込んでいく。
調査が必要なところは、本格的な資料を手に入れなければならない。ひとつの情報について3つのソースからエビデンスを得る。
事実を捻じ曲げて、独自の世界観を作ってもいい。
原稿を書くにあたり小説の例文となる本を数冊用意しよう。自分が尊敬する作家のものがいい。

章の中で視点は一定にする。
最初は濃厚な文章で、後半は簡素な文章がいい。
文章に詰まったらその数行を消す。
400字詰めで250枚、10万字が文庫1冊分の最低の分量。
文章表現を改めるには、最終章から始める。物語の流れが気になくなり、誤字脱字だけに集中できる。

フリーの編集者の添削を受ける有料サービスがある。
ネットの反応を利用しよう。不特定多数の人々に意見を求めることを怖がらない
小説を読むに越したことはないが、尊敬する小説家の文章を繰り返し読むことを勧める。

そして、目出たく1億円を稼ぐ小説家になる。その後もいくつかのアドバイスがある。→人気ブログランキング
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批評の教室ーチョウのように読み、ハチのように書く 北村紗衣

著者は武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。専門はシェイクスピア、舞台芸術史、フェミニスト批判。ウィキペディアの執筆者でもある。
副題の「チョウのように読み」は、情報から情報に移動するフットワークが重要であることを指し、「ハチのように書く」は、一箇所のポイントを決めて突っ込むのがやりやすい方法であるという意味である。タイトルや副題は、読者の心を掴み、批評の方向性を絞るようなものがいいという。本書ではモハメド・アリがキーワードのひとつになっている。とぼけた味の、意味深イラストがいい。
本書の評価は★5です。
3ac0903a4ee94a35a7e181e1605d2bcd批評の教室ーチョウのように読み、ハチのように書く
北村紗衣
ちくま新書
2021年9月 238頁

本書は「精読する」「分析する」「書く」の3つのステップを解説し、「実践編」では実際に書かれた批評を議論するという構成になっている。
批評とは、雑にまとめると、作品の中から一見したところよくわからないかもしれない隠れた意味を引き出すこと(解釈)と、その作品の位置づけや質がどういうものなのか判断すること(位置づけ)であるという。批評に触れた人が、読む前よりも対象とする作品や作者について、興味深いと思ってくれれば良い批評である。

オスカー・ワイルドの強引とも言える批評論は著者が言いたいところを代弁しているように思う。それは「批評自体が芸術だということ」芸術は言い過ぎかもしれないが、「批評は創造的でもありまた独立している」というのは紛れもない事実だろう。

まずは「精読」すること。徹底的に読み込む。精読には辞書を必ず引く。

そして「分析」。アイザック・ニュートンの言葉、「私により遠くが見えたとしたら、それは巨人の肩の上に立つことによってこそ成り立つのです」の巨人とは、先人たちのことである。
作品を面白く分析できるようになる際、巨人の肩になってくれるもののひとつが批評理論である。批判理論とは、ざっくりいうと作品の読みときというゲームの勝ち方を探す戦略を決める理論である。全ての作品を同じ批評理論で切れるわけではないという。
著者が大学で教える、ポストコロニアル批評、フェミニズム批評、クィア批評は、学生に人気のあるテーマだという。クィアとは大雑把に言えばLGBTQのことである。これらのテーマに引き込むことが、批評を書くテクニックとしてやりやすいという。タイムラインに起こしてみる。時間軸がひとつでない作品や直線的でない作品には注意する。
とりあえず図に書いてみる。人物相関図を起こしてみる。
位置づけする。作品の友達を見つけるとは、他の作品との関連性で位置づけるというもの。たとえば『ロメオとジュリエット』とミュージカル映画『ウェストサイド物語』は友達である。親子ではなく友達なのだ。
ネットワーキングの方法とは、真ん中に中心となる作品を書き、その周りに友達と思う作品のタイトルとその理由を書く。そうすることで、作品の位置がわかってくるという。

いよいよ「書く」である。読者が対象とする作品を知らなくても、なんとなくどういうものだか想像できるように書く必要がある。どういうジャンルに属する作品でどういう特徴があるといったことを、最初にきちんと説明してから独自の見方を提供する。
初心者が批評を書くとき、メインの切り口を一つにすることが大事。自由にのびのび書いてはいけない、まとまりがつかなくなる。
◯◯ならどうする?手本にすべき批評の書き手を〇〇に入れて考える。行き詰まった時に考える手助けになるという。

「実践編」では、モハメド・アリがソニー・リストンを破った夜に、試合を終えて駆けつけたアリ、公民権運動家のマルコム・X、ミュージシャンのサム・クック、アメリカンフットボールの選手ジム・ブラウンが、ホテルの一室に集まって語り合う映画『あの夜、マイアミで』(レジーナ・キング監督 2020年)に対する、著者と生徒の批評が載っている。プロと素人の差は歴然としている。
さらに、アリが1975年にハーヴァード大学で行った公演で、観衆のリクエストに応じて即興に作った詩が紹介されている。→人気ブログランキング
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台北プライベートアイ 紀 蔚然

プライベートアイとは私立探偵のこと。
台北市に登場した新探偵を拍手をもって迎えたい。
司馬遼太郎の小説の一節や宮崎駿の『トトロ』の話が出てきたり、日本風のカフェが出てきたり、横溝正史や江戸川乱歩が引用されたりして、いたって親日的なのだ。
この小説のクライマックスは主人公と連続殺人犯とが闘うハードボイルドなシーンである。著者は先進国におけるシリアルキラー論に言及し、それと対比して台湾人論を展開している。本書は台湾の社会文化論の内容を含んでいる。
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紀 蔚然(き・うつぜん)/船山むつみ 
文藝春秋 
2021年 383 頁

50歳がらみの劇作家で大学教授の呉誠(ウー・チェン)は、妻に愛想をつかされ離婚し、大学を辞め演劇界とも縁を切り、マンションを売ってうらぶれた臥龍街に引っ越した。呉誠が退路を絶って私立探偵としてやっていこう決めた、そのきっかけとなったのが亀山島(グイシャンダオ)事件である。演劇関係者との宴会で、呉誠は酔いも手伝って仲間や後輩たちを次々に罵倒したのだ。呉誠の言葉は核心をついていたが、それは凄まじいものだった。その荒れた宴会を境に、呉誠は周りとの関係がギクシャクしだした。
呉誠は、大学に入った冬に眠れなくなり医師に薬を処方してもらい、それ以来パニック障害と戦っている

初めての依頼は林夫人からのものだった。3〜4週前からひとり娘が夫を無視しだしたという。まるで仇を見るような目で夫を見るという。その真相を明らかにするのが依頼の内容で、依頼料は3万円プラスタクシー代だ。夫の林氏は中央健康局台北支局総合サービスセンターで働いている会計監査課副課長、誇り高き公務員である。
第一の事件は尾行という探偵の初歩テクニックを駆使してなんとか片付けた。

実は呉誠が第一の依頼を捜査する間に、呉誠の家から20分の所で一人の男が死体となって発見されていた。その男を含む比較的年配の被害者3人が後頭部を鈍器で殴られ殺された。
呉誠がその連続殺人の容疑者として逮捕された。逮捕の理由は公園の防犯カメラに被害者たちと一緒に写っている画像があったからだ。
呉誠はテレビで活躍するやる気満々の弁護士、涂耀明(トォー・ヤオミン)を雇った。情報をリークした警察や、名誉を毀損する報道を行なったマスコミと真正面から闘う姿勢をとったのだ。→人気ブログランキング
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オリーヴ・キタリッジ、ふたたび エリザベス・ストラウト 

前作『オリーヴ・キタリッジの生活』では、オリーヴの40歳代から70歳代半ばまでを描いている。オリーヴはアメリカ・メイン州の架空の町クロズビーで、数学の教師として働いていた。大柄な女性で不愛想なところも高飛車なところもあり、おまけにちょっとした癇癪もちだが、驚くほどの正直者。前作ではニューヨークに住む足医の息子との関係が気まずくなった。
そのオリーヴが帰ってきた。本作ではオリーヴの74歳から86歳までを描いている。夫を亡くしたオリーヴは、かつて大学教授だったジャックとつきあうようになりやがて結婚する。
本書は13編の連作短編の形で、オリーヴが中心だったり、ジャックが主人公だったり、あるいはオリーヴやジャックがちらりと顔を出してたりしてストーリーは進む。老いることの悲しさや辛さ、そして喜びが描かれている。
65913f7803184a71ad50959c74a82505オリーヴ・キタリッジ、ふたたび
エリザベス・ストラウト/小川高義
早川書房
2020年 436頁

「逮捕」
74歳のジャックは妻を亡くして6年になる。レスビアンの娘に電話した。バーで1杯やってから帰る途中にスピード違反で警察に捕まった。ちょっとしたことで知り合いになったオリーヴからメールがきた。メールのやりとりで、不倫をしたことまで書いてしまった。

「産みの苦しみ」
オリーヴは、訳のわからないことを口にするジャック・ケニソンと仲良くなった。
オリーヴが、ジャックに電話をかけると家に来ないかという。ジャックは襲わないから泊まっていってくれという。オリーヴは承諾した。眠れなかった。

「母のない子」
息子夫婦が、ニューヨークから3人の子どもを連れて2泊3日で泊まりに来た。
嫁は傍若無人で、子どもたちは上の2人は連れ子で愛想がない。1番下の2歳のヘンリーはオリーヴの亡き夫の名前がつけられて愛想があった。手編みの帽子をプレゼントした。
なんとか2日間が終わり一家が帰る段になって、結婚することになったと息子に言うと、息子は不機嫌になった。ジャックはスポーツカーでやってきた。ジャックが挨拶するが、息子のクリストファーのよそよそしさといったらなかった。一家が帰ったあと帽子が外に捨てられていた。いやはや、難儀な話だ。

「ペディキュア」
ジャック79歳、オリーヴ78歳、11月、1時間ほどのドライヴに出かけた。
取り止めのない話をして、ペディキュアをしたことを話した。オリーヴは体が大きいので、自分で爪を切れなくなったことを悲しんでいた。
オリーヴはよく喋る。それをジャックは聴いている。オリーヴ自身は、相手が興味を持てそうにない取り止めのない話をしていることがわかっている。ジャックは、オリーヴの話を受け入れている。「うひゃあ」とジャックは言って、ジャックの話にオリーヴは「あらら」と相槌を打った。
帰り道にジャックはオリーブと軽い口喧嘩になって。浮気の相手が悪いということで攻撃しあった。家に帰って、一人でウイスキーを飲みながら死んだ妻を思い出した。寝ぼけて、オリーヴにここは自分の家だと諭された。

「詩人」
84歳になったオリーヴは、街のあちこちに顔を出す。ダイナーで朝食を食べていると、郷里出身の女詩人アンドレアを見かけた。オリーヴは席を移って話し込む。詩人は月並みな話には興味を示さない。息子について話すと乗ってきた。
理容室に髪に切りに行くと、アンドレアが交通事故に遭い命に別状はないが重篤だという。翌日雑誌に掲載されたアンドレアの詩を読んだ。そこには、オリーブの言ったことがそのまま書かれていた。
オリーヴはアンドレアのフェイスブックに、「死ななくて良かったね」と書き込んだ。

「心臓」
オリーブは心臓発作を起こして意識がなくなり救急病院のICUにいる。意識を取り戻し、息子が見舞いにきた。息子は優しく接してくれた。
ICUから出て歩行練習が始まって便が出なかった。ガスが出て、ベッドの上で大便を漏らしてしまった。看護師も、主治医も全く驚かない。抗生物質のせいだということになった。
退院すると、4人の介護人が次々と来た。4月のある日の午後、オリーブはポーチに出て腰をかがめタバコの吸い殻を拾おうとして前のめりになって転んだ。冷たい雨が降った。自分にオリーヴ起きなと言ったが、だめだった。
介護人のベティが吸ったタバコの吸い殻を見つめていてそうなったのだ。ベティがやってきたので怒鳴りつけてやろうと思ったけれど 、3人の子を抱えて奮闘している話を聞いて、よく頑張っていると励ました。

「友人」
オリーヴは老人ホームに入った。バーバラが話しかけてきた。食堂に行くとバーバラが手を振った。そのバーバラが死んだ。
イザベルと友達になった。オリーヴは、ときにオムツをするようになって恥ずかしかったが、イザベルのバスルームの棚にも紙おむつが置いてあった。そしてイザベルも死んだ。→人気ブログランキング
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オリーヴ・キタリッジ、ふたたび/エリザベス・ストラウト/小川高義/早川書房/2020年
オリーヴ・キタリッジの生活/エリザベス・ストラウト/小川高義/ハヤカワepi文庫/2012年

シカゴ・ブルース フレドリック・ブラウン

ミシガン湖が描かれ、シカゴのいくつもの通りやホテルやレストランやカフェが、あまた出てくる。シカゴのガイドのような本だ。
20歳の主人公エド・ハンターは、植字工の父ウォリーが勤める会社の見習いとして働いていた。エドの一人称単数の目で物語は語られる。
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フレドリック・ブラウン/高橋真由美
創元推理文庫 
2020年 332頁

エドが、楽器屋で中古のトロンボーンを買うかどうか迷っているところで夢から覚め、物語が始まる。昨夜、父は帰ってこなかった。2人の警察官が家にやってきて、父が殴られて道で倒れて死んでいたと母に告げた。昨日は給料日で財布に紙幣が入っていたはずだ。
エドは父の死を移動カーニバルにいるアンブローズおじさんに伝えた。

母のマッジは継母で、妹の14歳のガーディはエドと血が繋がっていない。
父が再婚したのはエドが8歳のときで、ガーディは4歳の鼻垂れだった。ガーディはエドをからかうチャンスを窺っている。だから自分の部屋のドアを全開にして、パジャマの上着を着ないで寝ている。

アンブローズはエドに、警察は事件をまともに捜査しないだろうから、ふたりで犯人を捕まえようと言った。また、マッジとガーディに気を許すなとも言った。
そこからふたりの地道な捜査が始まる。父が殺されたシカゴのフランクリン・ストリートの路地には、血痕とともに瓶の破片が散らばっていた。

検死審問は葬儀場で葬儀の前に行われた。40人くらいの人が集まった。
父が最後に立ち寄ったバーの店主カウフマンは、父が持ち帰りのビール4本を買って帰ったと言った。父がバーに来たとき、2人連れがバーにいて父と入れ違いに2人は出ていったという。カウフマンは知っていることを隠しているとアンブローズはにらんだ。
エドとアンブローズはカウフマンに執拗につきまとい、レイノルズというギャングが関わっていることを聞き出した。

アンブローズが語った父の過去は、エドが初めて聞く話ばかりだった。
新聞社を経営していたこと。メキシコを放浪したり、ブラックジャックのディーラーをやったり、決闘をしたり、スペインで闘牛士を夢みたり、見せ物の一座でジャグリングをしたり、演芸場の一員だったり、父は波乱の人生を歩んできたのだ。
アンブローズは父には自殺願望があったとエドに言った。

父が生命保険に入っていたことがわかり、そのことで母と妹が警察に連行された。保険金の受け取り人は母だった。父が殺されたとき母には、父の同僚に会っていたアリバイがあった。

以前、父はゲイリーという町で暮らしていて借金がかなりあったが、シカゴに出てくる前にすべてを支払った。大金を手にしたのだ。ゲイリーいるとき、ギャングのレイノルズの裁判の陪審人に選ばれたことがあった。そこに、謎を解く鍵があった。
エドはひとりでギャングのレイノルズと繋がりがある女性のアパートに乗り込み、物語は結末へと加速していく。

最後にエドは新品のトロンボーンを手にする。冒頭の中古のトローンボーンを買おうとした夢が現実になったのだ。

本書は殺人事件の謎を紐解くミステリであり、エドが少年から大人へと成長していく物語でもある。
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タリバン 田中 宇

2021年8月31日、アメリカ軍がアフガニスタンから完全 撤退した。アフガニスタンとタリバンは、旬の話題だ。
現在、Amazonで新書『アフガニスタンー戦乱の現代史』(岩波書店 2003年)には、9000円以上の値がついている。ならば本書はどうかというと、8月31日は1439円で、9月1日には1800円、日が経つにつれ値が上がっている。本書を手に入れたのは値が上がる前だ。本書は、2001年9月11日の同時多発テロの1ヶ月後に発刊されている。
タリバンを理解するには、アフガニスタンの近代史を理解しなければならない。
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田中 宇(Tanaka Sakai
光文社新書 
2001年 214頁

「グレートゲーム」とは、中央アジアの覇権を巡るイギリス帝国とロシア帝国の情報戦をチェスになぞらえて名づけられた。
17世紀以来、インドへの関与を強めていたイギリスが、19世紀半ばにムガール帝国を滅ぼしインドを植民地とした。同時期、イギリスはアフガニスタンに対しても侵略の手を伸ばした。1838年、イギリスはアフガニスタンに侵攻した。イギリス軍は難なくカブールを占領し、アフガニスタンをインドと同じように支配しようとした。しかし、イスラムの聖職者たちはジハード(聖戦)を宣言した。ジハードとは、あらゆるイスラム教徒の男性が参戦しなければならないという国民皆兵の布告である。ジハードの最中に戦死すると、どんな人も天国に行けることになっている。特に若者や子どもたちはこの教えを信じ、戦場で死ぬことを少なくとも表向きは喜びと考えている。
それに呼応してゲリラ戦が始まり、イギリスの支配が始まって2年後の冬に、イギリス軍は1万6千人が全滅したが、ただ一人、医師のウイリアム・ブライドンだけがアフガニスタンを脱出した。この医師が、シャーロックホームズの相手のワトソンのモデルとなったというのは有名な話である。

1978年、アフガニスタンでは共産主義政党による政権が成立したが、これに対抗するムジャヘディン(聖戦士)の蜂起が始まった。ほぼ全土が抵抗運動の支配下に落ちたため、共産主義政権はソ連に軍事介入を要請した。1979年12月にソ連軍が軍事介入した。ソ連軍にもジハードが宣告された。

オサマ・ビンラディンは、ソ連軍と戦うゲリラを支援するためアフガニスタンに赴いた。ビンラディンはサウジアラビア最大の建築会社、サウジ・ビンラディン・グループのオーナー一族の息子である。

宗教信仰をすべて迷信として弾圧するソ連が、アフガニスタンに侵攻したことは、イスラム教徒の怒りをかっていた。アメリカの同盟国のパキスタンやサウジアラビアは率先して、アフガニスタンのイスラム同胞を救えというキャンペーンを張った。アフガニスタンやパキスタンにある軍事訓練センターに志願兵となった若者が運ばれたが、訓練センターを運営しているのはCIAだった。ビンラディンは一族が持つ豊富な資金を使いそのプロジェクトに参加した。
アフガニスタンのイスラム聖戦への志願兵を募るための事務所を、中東諸国やパキスタン、アメリカなどイスラム教徒が多い国に設立し、数千人の若者をアフガニスタンに集めムジャヘディンとして軍事訓練を行った。CIAが武器を供与し、ビンラディンが給料を支払っていた。

1989年、ソ連がアフガニスタンから撤退し戦争は終結したが、アフガニスタン側でこの戦争を戦っていたゲリラの内部で内戦が起こった。ソ連の侵攻を受けていた10年間、アフガンのゲリラを支援していたのはパキスタンであり、その背後にいたのがアメリカだった。

パキスタンの難民キャンプで育ち神学校に通っていた若者たちは、こうした醜い戦いをする腐敗したムジャヘディンから祖国を解放しようとする運動を始めていた。それがタリバンである。タリバンとはアラビア語で「学生たち」という意味である。

タリバンは腐敗したムジャヘディンと戦い、アフガニスタンの国土の9割を支配するようになった。このドラマはパキスタンによって周到に準備されたものだった。
アメリカはアフガニスタンからパキスタンを通って石油と天然ガスのパイプラインを敷設する計画を、タリバン侵攻当初から目論んでいた。タリバンは住民に対し、厳格なイスラム教信仰に基づいた生活を送るよう強制した。
そのタリバンの政策に対し、アメリカは人権侵害と非難しなかった。アメリカがタリバンを非難するようになったのは、オサマ・ビンラディンが対米テロを強めた1998年以降である。

ビンラディンは、ゲリラ組織同士の争い失望し、母国サウジアラビアに帰り一族の会社経営の場に復帰した。翌年1990年イラク軍がクエートに侵攻して、サウジアラビアは自国の中に米軍(多国籍軍)の駐留を許し、イラクを攻撃させることとなった。ビンラディンはアフガン帰りの兵士を率いて祖国のためにイラク軍と戦うことを計画し、サウジ政府の国防相に持ちかけた。ビンラディンの計画ではイラク軍に勝てないと提案を断った。
米軍がイラク軍を撃退した。ビンラディンは、聖地メッカを擁するサウジアラビアの王室が異教徒であるアメリカ軍に頼ったことを、モスクでの演説で非難した。

ビンラディンはスーダン亡命した。サウジアラビアだけではなく中東諸国の多くは軍事的、あるいは経済的にアメリカに頼る国になっていたが、これらの国の政府は転覆されるべきだとした。1991年、サウジアラビア政府はビンラディンを国外追放した。ビンラディンはアブガニスタンに身を寄せるようになった。ビンラディンはアフガニスタンに移って間もなくアメリカに宣戦布告を発している。

アフガン戦争時代志願兵募集のため世界各地に作られたビンラディンの事務所は、アラビア語でアルカイダ(拠点)と呼ばれるようになり、アルカイダのネットワークは、アメリカを攻撃するテロのネットワークとして再編されていった。

1997年オルブライト国務長官がタリバンの女性差別を明確に非難した。この頃からアメリカのトーンが変化した。タリバンは国際社会の敵としての立場に追い込まれた。
1998年8月、ケニアとタンザニアにあるアメリカ大使館が爆破され、多数の死傷者が出た。アメリカ政府は、この事件の背後にビンラディンがいると主張し、タリバン政権にビンラディンを引き渡すよう要求したが拒否されたため、1999年10月に国連を動かしタリバン政権に対する経済制裁を発動した。

2001年9月11日、大規模テロ事件が起こると、アメリカはビンラディンの引き渡しに応じなかったタリバンを攻撃し始めた。アフガニスタンを民主的な国にする目的で、アメリカ軍はアフガニスタンに駐留した。→人気ブログランキング
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