小説家になって億を稼ごう 松岡圭祐
長編小説をどうやって生み出すかを事細かく伝授してくれる。作品の出版社への売り込みのノウハウも教えてくれる。印税の出版社との駆け引きのコツや税金対策に触れ、個人事業主としての小説家の身のこなし方も指示している。年収一億円の流行作家になるという志の高さを最後まで貫きながら書かれている。
著者は28歳のときに、デビュー作『催眠』でベストセラー作家の仲間入りをした。その後『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』『ミッキーマウスの憂鬱』などのシリーズで知られる、売れっ子作家。「前代未聞!業界震撼!」という帯の惹句は大袈裟ではない。本書に従えば間違いなく小説が書ける。
小説家になって億を稼ごう 松岡圭祐 新潮新書 2021年 253頁 |
読者に話しかける形で書かれている。
小説作りの肝は、執筆ではなく「想造(脳内で物語を作り出す方法を著者はこう呼ぶ)」にある。この「想造」という言葉は繰り返し登場する。
好きな俳優を7人選び、顔写真をネットからダウンロードする。男女比は4対3、男女どちらが多いかは自由。それぞれに名前をつける。更に、身長や体重、年齢、出身地、職業、プロフィールを設定していく。
この段階で登場人物が、どう絡むかなにが起こるかは考えず、好みの登場人物ばかりを作り出し、たとえ犯罪者であっても、悪人なりに魅力を感じる人物にする。
7人の顔写真を眺めながら、こういう性格だったら面白いと思えるようなこと足していく。食べ物の好き嫌い、特技、趣味、なんでも画像と名前の下に付け加えていく。7人の登場人物を1枚に収まるようにレイアウトし、プリントアウトする。
さらに5人のサブの登場人物を作り出す。メインほど華やかではないものの、一癖も二癖もある脇役を揃える。この5人には一般人の顔写真を探す。
登場人物たちが動き回るか舞台を設定する。風景写真を3枚ダウンロードして登場人物の下に貼り付ける。自分の職業とか自分の生い立ちを考慮すべきとかの小説作法を聞いたことがあるかもしれないが、今はそれにとらわれない。
「想造」で物語りを構築するうち、貴方らしさが出てくる。次に誰(A)と誰(B)が街角で談笑しているとか、そこに(C)が割って入るとか、ただ情景を思い描くだけで構わない。
そこから行動の意味を連想していく。誰と誰が友達で、新たに知り合うのは誰で、誰が揉め事を起こすのか。それぞれが自然に動き出すのを待ち、その行方を追う。ここでメモや書き込みは禁止。脳は徐々に「想造」に慣れていき、理性であれこれ考えるのではなくて、本能的に夢中になれる段階に突入する。登場人物がうまく動き出さないのは、それは貴方が悪いのではなく、キャスティングが間違っている。特に気に入らないキャラを剥がし、新しい人物に入れ替える。理屈ではなく本能に従う、それが読者も魅了する物語になる。「想造」に自己制限を加えてはならない。
こうして視覚的に思い浮かべた空想物語、脳内でどんどん進行させていく。翌日になったら最初から順番に想起し直し、さらに新たな展開を付け加える。「想造」には12人全員を登場させる。1週間経ってもうまく噛み合わない、できればいない方がいいと感じるキャラがいれば壁から外す。また新たな登場人物を追加する。メイン7・サブ5という人数は減らさない。
舞台は3箇所以上に増やすことができる。ネットで探し壁に貼る。物語が長尺になっても一字も書いてはならない。文章にしようとした時点で自由な発想が失われる。文章作成段階ではノンフィクション作家と同じに条件になる。
調べ物が必要になることがある。執筆時にきちんと裏付けを取らなければならないが、今はネットで簡単に調べるくらいにしておく。
逆打ちプロットとは、登場人物たちの波乱が生じる、波乱はさらに大きなものになって襲ってくるはずである。避けてはならない。波乱を乗り越える方法を登場人物と一緒に考える。一度起きた波乱はリセットしてはいけない、解決方法が見つかるまで熟考する。解決できないは波乱にぶつかったら、1週間じっくりと考え解決不能であればそれが物語の「転」である。ここで初めて、メモを取る。波乱を解決するのではなく、物語の未来を空想する。少しずつ逆考して書いて「転」の部分に近づいていく。
ここまで来れば、あらすじを書くのも手間取らないはずだ。物語の内容を40字×3行で書く。どれも、5W1Hで書く。3幕構成で描く。第一幕、設定、第二幕、対立、第3幕、解決。第一幕25%、10行40字。第二幕50%、20行40字。第三幕25%、10行40字の分量。
すべての行が5W1Hになっている文章にする。慌てて細かい要素を書くことはない。消えてなくなることはない。思い出すたびに洗練されていくので決して焦って書こうとしない。
各行の間にその状況で思い浮かぶあらゆる事柄を書き加える。頭にあるものをすべて網羅する。「想造」したすべてを肉付してく。文章を意識しなくてよい。書く量が多い箇所はそれでいい。思い浮かんだことを書き込んでいく。
調査が必要なところは、本格的な資料を手に入れなければならない。ひとつの情報について3つのソースからエビデンスを得る。
事実を捻じ曲げて、独自の世界観を作ってもいい。
原稿を書くにあたり小説の例文となる本を数冊用意しよう。自分が尊敬する作家のものがいい。
章の中で視点は一定にする。
最初は濃厚な文章で、後半は簡素な文章がいい。
文章に詰まったらその数行を消す。
400字詰めで250枚、10万字が文庫1冊分の最低の分量。
文章表現を改めるには、最終章から始める。物語の流れが気になくなり、誤字脱字だけに集中できる。
フリーの編集者の添削を受ける有料サービスがある。
ネットの反応を利用しよう。不特定多数の人々に意見を求めることを怖がらない
小説を読むに越したことはないが、尊敬する小説家の文章を繰り返し読むことを勧める。
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