批評の教室ーチョウのように読み、ハチのように書く 北村紗衣
著者は武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。専門はシェイクスピア、舞台芸術史、フェミニスト批判。ウィキペディアの執筆者でもある。
副題の「チョウのように読み」は、情報から情報に移動するフットワークが重要であることを指し、「ハチのように書く」は、一箇所のポイントを決めて突っ込むのがやりやすい方法であるという意味である。タイトルや副題は、読者の心を掴み、批評の方向性を絞るようなものがいいという。本書ではモハメド・アリがキーワードのひとつになっている。とぼけた味の、意味深イラストがいい。
本書の評価は★5です。
批評の教室ーチョウのように読み、ハチのように書く 北村紗衣 ちくま新書 2021年9月 238頁 |
本書は「精読する」「分析する」「書く」の3つのステップを解説し、「実践編」では実際に書かれた批評を議論するという構成になっている。
批評とは、大まかにまとめると、作品の中から一見したところよくわからないかもしれない隠れた意味を引き出すこと(解釈)と、その作品の位置づけや質がどういうものなのか判断すること(位置づけ)であるという。批評に触れた人が、読む前よりも対象とする作品や作者について、興味深いと思ってくれれば良い批評である。
オスカー・ワイルドの強引とも言える批評論は著者が言いたいところを代弁しているように思う。それは「批評自体が芸術だということ」芸術は言い過ぎかもしれないが、「批評は創造的でもありまた独立している」というのは紛れもない事実だろう。
まずは「精読」すること。徹底的に読み込む。精読には辞書を必ず引く。
そして「分析」。アイザック・ニュートンの言葉、「私により遠くが見えたとしたら、それは巨人の肩の上に立つことによってこそ成り立つのです」の巨人とは、先人たちのことである。
作品を面白く分析できるようになる際、巨人の肩になってくれるもののひとつが批評理論である。批判理論とは、ざっくりいうと作品の読みときというゲームの勝ち方を探す戦略を決める理論である。全ての作品を同じ批評理論で切れるわけではないという。
著者が大学で教える、ポストコロニアル批評、フェミニズム批評、クィア批評は、学生に人気のあるテーマだという。クィアとは大雑把に言えばLGBTQのことである。これらのテーマに引き込むことが、批評を書くテクニックとしてやりやすいという。タイムラインに起こしてみる。時間軸がひとつでない作品や直線的でない作品には注意する。
とりあえず図に書いてみる。人物相関図を起こしてみる。
位置づけする。作品の友達を見つけるとは、他の作品との関連性で位置づけるというもの。たとえば『ロメオとジュリエット』とミュージカル映画『ウェストサイド物語』は友達である。親子ではなく友達なのだ。
ネットワーキングの方法とは、真ん中に中心となる作品を書き、その周りに友達と思う作品のタイトルとその理由を書く。そうすることで、作品の位置がわかってくるという。
いよいよ「書く」である。読者が対象とする作品を知らなくても、なんとなくどういうものだか想像できるように書く必要がある。どういうジャンルに属する作品でどういう特徴があるといったことを、最初にきちんと説明してから独自の見方を提供する。
初心者が批評を書くとき、メインの切り口を一つにすることが大事。自由にのびのび書いてはいけない、まとまりがつかなくなる。
◯◯ならどうする?手本にすべき批評の書き手を〇〇に入れて考える。行き詰まった時に考える手助けになるという。
「実践編」では、モハメド・アリがソニー・リストンを破った夜に、試合を終えて駆けつけたアリ、公民権運動家のマルコム・X、ミュージシャンのサム・クック、アメリカンフットボールの選手ジム・ブラウンが、ホテルの一室に集まって語り合う映画『あの夜、マイアミで』(レジーナ・キング監督 2020年)に対する、著者と生徒の批評が載っている。プロと素人の差は歴然としている。
さらに、アリが1975年にハーヴァード大学で行った公演で、観衆のリクエストに応じて即興に作った詩が紹介されている。→人気ブログランキング
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