女副署長 緊急配備 松嶋智左
田添杏美(たぞえあずみ)は懲罰人事で、県北に位置する佐紋署に左遷された。海岸に面する佐紋町は県の中心から車で3時間のところにある。懲罰人事の引き金となったのは、第一作『女副署長』(新潮文庫 2020年)で起こった殺人事件である。杏実が副署長として赴任した日坂署の敷地内で、迫りくる台風のなか警部補が殺されたのだ。
本書は、殺人犯を捜査するミステリであるとともに、警察組織の内部で起こる人間関係の軋轢を描く群像劇でもある。狭い町のドメスティックな事件を扱っているが、前作に勝るとも劣らぬ傑作である。元警察官で白バイ隊員の勤務経験がある著者ならではの視点は斬新だ。
女副署長 緊急配備 松嶋智左 Matsushima Chisa 新潮文庫 2021年 368頁 |
佐紋署では、署長が怪我で入院したため杏美が署長代理を兼務することになった。急遽、警察署協議会が開かれ、そのあとの懇親会を官舎で開くという。警察署協議会には警察のトップと町の重鎮が名を連ねている。町の重鎮が警察の案件に何かと関わってくる土地柄なのだ。杏美は署の外で宴会をすることを主張した。
杏美の脇を固める登場人物はそれぞれが事情を抱えている。シングルマザーの木崎亜津子は、総合病院の堀尾院長から駐車違反の揉み消しを依頼され、仕方なく書類を偽造した。甲斐祥吾は認知症の父親を抱えているが、マスコミ対応で家に帰ることができない。
さらに、杏実の因縁の人物が佐紋町にいた。来年定年を迎える伴藤弘敏は、30年前、杏実と同じ交番に勤務していた。伴藤の怠慢により高齢女性が交通事故で亡くなった。正義感に溢れる杏実はそれを許すことができず、上司に報告した。逆恨みした伴藤は、杏実のありもしない異性関係の噂を流し、婚約破棄に至らせたのだ。それを機に伴藤は出世の道が遠のき、杏実は独身を貫き女性として異例の出世を遂げて副署長になった。伴藤は10年前に駐在勤務を願い出て、妻と子どもと共に佐紋町にやってきたのだ。
佐紋町は面積280平方キロ、人口2万弱、佐紋署員総数66名で所轄を見守るには限界がある。そんな佐紋町に立て続けに事件が起こる。
はじめは隣接署管内で起こったひったくり事件だった。緊急配備が発令されたが、バイクに乗って高齢者の荷物を奪った犯人は捕まっていない。
そして、標高200メートルの小牧山の納屋で女性の撲殺死体が発見される。さらに、怪しい人物を尾行していた警察官が頭部を殴られ重傷を負う。
そして、殺人事件の指揮を執るために県警から辣腕の刑事課長・花野司朗が乗り込んできたのだ。グリズリーのような迫力のある体躯と容姿の花野は、前作『女副署長』の殺人事件の捜査で、ことごとく杏実と対立した。
花野の指示は杏実の予想を超えるものであったが、それが気に入らない。ところが花野の打つ手は次々と当たり、事件の核心に近づいていくのだった。→人気ブログランキング
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女副署長 緊急配備/松嶋智左/新潮文庫/2021年5月
女副署長/松嶋智左/新潮文庫/2020年
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