シカゴ・ブルース フレドリック・ブラウン
ミシガン湖が描かれ、シカゴのいくつもの通りやホテルやレストランやカフェが、あまた出てくる。シカゴのガイドのような本だ。
20歳の主人公エド・ハンターは、植字工の父ウォリーが勤める会社の見習いとして働いていた。エドの一人称単数の目で物語は語られる。
![]() フレドリック・ブラウン/高橋真由美 創元推理文庫 2020年 332頁 |
エドが、楽器屋で中古のトロンボーンを買うかどうか迷っているところで夢から覚め、物語が始まる。昨夜、父は帰ってこなかった。2人の警察官が家にやってきて、父が殴られて道で倒れて死んでいたと母に告げた。昨日は給料日で財布に紙幣が入っていたはずだ。
エドは父の死を移動カーニバルにいるアンブローズおじさんに伝えた。
母のマッジは継母で、妹の14歳のガーディはエドと血が繋がっていない。
父が再婚したのはエドが8歳のときで、ガーディは4歳の鼻垂れだった。ガーディはエドをからかうチャンスを窺っている。だから自分の部屋のドアを全開にして、パジャマの上着を着ないで寝ている。
アンブローズはエドに、警察は事件をまともに捜査しないだろうから、ふたりで犯人を捕まえようと言った。また、マッジとガーディに気を許すなとも言った。
そこからふたりの地道な捜査が始まる。父が殺されたシカゴのフランクリン・ストリートの路地には、血痕とともに瓶の破片が散らばっていた。
検死審問は葬儀場で葬儀の前に行われた。40人くらいの人が集まった。
父が最後に立ち寄ったバーの店主カウフマンは、父が持ち帰りのビール4本を買って帰ったと言った。父がバーに来たとき、2人連れがバーにいて父と入れ違いに2人は出ていったという。カウフマンは知っていることを隠しているとアンブローズはにらんだ。
エドとアンブローズはカウフマンに執拗につきまとい、レイノルズというギャングが関わっていることを聞き出した。
アンブローズが語った父の過去は、エドが初めて聞く話ばかりだった。
新聞社を経営していたこと。メキシコを放浪したり、ブラックジャックのディーラーをやったり、決闘をしたり、スペインで闘牛士を夢みたり、見せ物の一座でジャグリングをしたり、演芸場の一員だったり、父は波乱の人生を歩んできたのだ。
アンブローズは父には自殺願望があったとエドに言った。
父が生命保険に入っていたことがわかり、そのことで母と妹が警察に連行された。保険金の受け取り人は母だった。父が殺されたとき母には、父の同僚に会っていたアリバイがあった。
以前、父はゲイリーという町で暮らしていて借金がかなりあったが、シカゴに出てくる前にすべてを支払った。大金を手にしたのだ。ゲイリーいるとき、ギャングのレイノルズの裁判の陪審人に選ばれたことがあった。そこに、謎を解く鍵があった。
エドはひとりでギャングのレイノルズと繋がりがある女性のアパートに乗り込み、物語は結末へと加速していく。
最後にエドは新品のトロンボーンを手にする。冒頭の中古のトローンボーンを買おうとした夢が現実になったのだ。
本書は殺人事件の謎を紐解くミステリであり、エドが少年から大人へと成長していく物語でもある。
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