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グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ 明日香壽川

著者は、東北大学教授。エネルギー・温暖化問題の科学・技術や政治経済的な側面を研究している。
「グリーンニューディール」とは、再エネと省エネの導入による景気の回復及び雇用拡大と温暖化防止である。「グリーンリカバリー」とは、「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済停滞からの復興を、気候変動対策とともに進める」というような意味合いで使われる。
本書は、2050年までに、本気でカーボンニュートラルにするにはどうしたらよいかについて書かれている。
01e8504bfe0d44999718447f00b6ab58グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ
明日香壽川(Asuka Jusen)
岩波新書 
2021年6月 260頁

気候変動に伴うジャスティス(正義)という言葉にも説明がいる。
環境正義とは、⑴一人当たりの温室効果ガス排出量が少ない途上国の人々が、一人当たりの排出量の多い先進国の人々よりも、気候変動によって大きな被害を受ける(途上国は気候変動の影響を受けやすい第一次産業が主要産業である)。⑵先進国の中でも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが、より大きな被害を受ける。⑶今の政治に関わることができない未来世代がより大きな被害を受ける。どれも定量的な事実である。

温暖化対策を阻害しているのが、温暖化懐疑論。
つまり、温暖化していない。CO2排出は温暖化と関係がない、温暖化してなにが悪いというもの。こうした人たちは、⑴化石燃料会社の関係者⑵情報リテラシーが低い人⑶反対することで経済的利益をうる人などである。

多くの人々が、1.5℃以下の気温上昇を抑制する場合は2030年までに世界全体で50%、ジャスティスを考えれば先進国は100%近くCO2排出量を減らす必要があることを知らない。温暖化対策に関心がある人でも知らない人は多い。

多くの研究者にとって京都議定書(1997年)は、大きな期待であり希望であった。京都議定書の第一約束期間が終わる直前の2010年、アメリカ、カナダ、ロシア、日本は京都議定書の延長に反対した。
日本政府が反対したのは、東京電力を代表とする電気産業、新日鉄(現日本製鉄)に代表される製鉄業界、トヨタを代表する自動車産業が温暖化対策に消極的だったからである。
環境立国になりえた日本は、あえてリーダーシップを取らない普通の国になった。

日本は省エネの先進国だというのは間違いである。1990年ごろまでは確かに省エネの先進国であったが、その後は先進国で最低レベルである。もうひとつ温暖化対策先進国というのも間違いである。世界56カ国と比べると、日本は最下位グループに属している。
さらに、日本は2050年カーボンニュートラルを宣言したものの、現行の目標や政策の大きな変更は認められず、政治家も官僚も企業も、2050年のカーボンニュートラルはどうでもいいと思っている感がある。
こういう誤解は政府が抱える御用学者が政府につごのいい情報を流布するから起こる。

米国エネルギー情報局によると、既に多くの国や地域で、太陽光や風力が最も安い発電技術であり、国によっては既存の火力発電所の運転コストよりも安くなっている。原発の競争力は著しく低下する。
米国で新しい原発の発電の平均コスト(初期建設コストと運転コスト)は、新しい風力や太陽光による発電設備の平均コストの4倍である。
さらに、原発にとって問題なのは、運転コストが再エネの平均コストと同レベルになりつつあることだ。

IEA(国際エネルギー機関)の2020年の報告書によれば、「原子力と石炭火力よりも再エネや省エネの方が、温暖化対策としてのコストは小さく、雇用創出効果は大きい」という。
これは、「原発が経済という意味でも温暖化対策という意味でもベスト」という日本政府の議論を真っ向から否定するものである。

日本で原子力発電や火力発電が廃れない理由は、原子力ムラ、火力発電ムラを潰さないための政策がとられているからだ。
10年間も稼働しない原子力発電所を抱えている電力会社が危機に陥らないのはなぜか?原発が温暖化のためでないとしたら、何のためか。それは中国が途上国の原子力発電所の建設を目論んでいる。対中技術覇権維持である。

欧州や米国では、産業界にエネルギー転換は避けられないものという覚悟がある。企業は政府との条件闘争に入っている。日本ではそのような状況にない。どうせ政府はいつものように口先だけだろうと思っている。ゆえに真剣な議論をしない。それが日本の現状である。

パリ協定の2050年にカーボンニュートラルを達成するとは、地球全体での目標であり、途上国も早期に温室効果ガスの排出をピークアウトする必要がある。 
温室効果ガスの排出削減問題は、突き詰めると「現世代と将来世代との間で、有限の温室効果ガス排出量を、何らかのルールのもとで正義や公平性を考慮しながら分配する」という命題に帰結する。
このようなジャスティスの問題を解決するためには、個人の努力だけでは不可能で、社会システムの変革が必要である。

今の社会システムを維持したい人々は、「個人のライフスタイルを変えよう」という耳あたりの良いフレーズをメディアなどで流す。個人が変わるのは重要なものの、多くの場合、このようなフレーズは、個人の問題に転嫁するすることで、社会システムのチェンジを阻止することを目的とした目眩し戦術でしかない。そのことに気づかず、無意識に騙されている人は非常に多い。

社会システムを変えるパイロットスタディがウェールズで行われている。
2015年ウェールズで制定された「未来世代の豊かさと幸せに関する法」は、政府や地方自治体などのすべての公的機関での意思決定において、未来世代の利益が十分に考慮されているかの検討を義務づけた法律である。
この法律は、社会、環境、経済そして文化という四つの側面から「豊かさと幸せ」を考え直し、より良い意思決定によって、未来世代だけでなく現代の貧困、教育、失業などの複雑な問題を解決することを目的としている。→人気ブログランキング
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ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法/ポール・ホーケン編著/東出顕子訳・江守正多監訳/山と渓谷社/2021年
SDGsー危機の時代の羅針盤/南博・稲葉雅紀/岩波新書/2020年

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