自由研究には向かない殺人 ホリー・ジャクソン
著者はイギリス・バッキンガム出身の29歳の女性。子どものころから物語を描きはじめ、15歳で最初の小説を書き上げた。デヴュー作の本書は2019年に刊行され、英米でベストセラーになった。2020年のブリティッシュ・アワードのチルドレン・ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞。英国カーネギー賞の候補になった(カバーの著者紹介を改変)。
『このミステリがすごい』では2位、『週刊文春』ミステリーベスト10(海外部門)では2位と評価が高い。
カバーのイラストにはジャケ買いを誘う魅力がある。
![]() ホリー・ジャクソン/服部京子訳 創元推理文庫 2021年8月 582頁 |
ピップ(あるいはピッパ)は頭脳明晰で快活な17歳の娘。夏休みが明けると、リトル・キルトン・グラマースクールの最終学年になる。ピップは夏休みの自由研究に、リトル・キルトンで起こった殺人事件を選んだ。
そのほかに、ケンブリッジ大学への願書の作成のために、マーガレット・アトウッドについての論文をまとめなくてはいけない。
その殺人事件とは、5年前にキルトン・グラマースクールに通う17歳の美貌のアンディが行方不明となり、その後アンディのボーイフレンドだったサルが自殺した事件である。
サルがアンディの携帯電話を持っていて、サルの爪にアンディの血痕が付着していた。彼女の車のダッシュボードにはサルの指紋が付いていた。サルが犯人と断定され事件に終止符が打たれた。
しかしアンディは行方不明のままだ。
ピップにはサルの無罪を証明しようとする理由がある。かつて義理の父親がナイジェリア人だということでいじめを受けたときに、1年上のサルが助けてくれたことがあった。それ以来、ピップにとってサルはヒーローだった。
ピップは自由研究という隠れ蓑を使って、事件を正面切って調べ直そうと考えた。サルの弟ラヴィが協力を申し出た。ラヴィも兄は犯人ではないと思っているが、殺人犯の弟があれこれ聞き回ろうとしても拒否されるだけだ。
サルの携帯電話からわかったことは、サルはアンディに何かやめて欲しいものがあったこと。それと、サルが「ぼくだ。ぼくがやった。すみません」と父親に送ったテキストは、誰か別の人間が打ったものだ。サルはピリオドを使わない。
ピップの身の危険を顧みない体当たりの捜査(取材と呼んだ方がいいかもしれない)で、アンディの過去の悪事が暴かれるにつれて、アンディが殺されてもしょうがなかったとピップは考えるようになる。
ネット社会を反映して、携帯電話やインターネット、SNSが物語の中心にある。
テーマはシリアスだが、17歳の快活な主人公の目を通して描かれているので暗くなく爽やかなところと、構成が緻密であるところが、本書の魅力だ。→人気ブログランキング
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