木曜殺人クラブ リチャード・オスマン
ユーモア感が漂いちょっと人を食った感じの語り口は、R.D.ウィングフィールドのフロスト警部シリーズを彷彿とさせるが、フロスト警部シリーズがウリの下品なところはない。ユーモアは、イギリスのミステリの一つの特徴だという。
アガサ・クリスティの連作短篇『火曜クラブ』やアントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』で使われた、推理好きが集まって事件の謎解きを行うというパターンが使われている。
![]() リチャード・オスマン/羽田詩津子 早川書房 2021年9月 494頁 |
木曜殺人クラブは、いまや寝たきりになった元警部のペニーとエリザベスがはじめた。当初は、警察の未解決事件のファイルをペニーが持ち出して、エリザベスと事件を推理した。
いまのクラブのメンバーは、エリザベスのほかに元看護師のジョイス、元労働運動家と元精神科医がいる。
ジョイスの手記がところどころで挟み込まれ、物語の進みを整える役割をしている。
彼らは高級リタイアメント・ビレッジのクーパーズ・チェイスで暮らしている。クーパーズ・チェイスには300人ほどがいて、その中心にはいまは使われていない女子修道院の建物がある。
高齢者が増え続け介護業は成長産業である。
そんなご時世を背景に、イアンと共同経営者のトニーは、古い家を買い取りリニューアルして売り大儲けしてきた。野心家のイアンはトニーをクビにして、改装費が安いボグダンにトニーの仕事を回そうとしている。そんなことすればトニーはイアンを殺すだろうと、ボクダンはいう。
ところが、イアンではなくてトニーが自宅で撲殺された。さらに衆目の前でイアンが毒殺された。
木曜殺人クラブの面々は事件に首を突っ込もうとする。
情報源をどうするのか。マーガレットとジョイスはハンドバッグが盗まれたと警察署にかけ込み、地区担当のドナ巡査から情報を得ようとする。ドナ巡査は高級老人住宅でしばしば講演している。まんまとうまくいって、エリザベスはドナ巡査とチャットで情報を交換する関係を築いた。
ドナ巡査はフロスト警部を彷彿とさせるどこかとぼけたクリス警部を巻き込み、警察がもつほとんどの情報が木曜殺人クラブに伝わるという仕組みが出来上がってしまう。
本書のテーマはあくまで殺人事件の犯人探しであるが、もう一つのテーマは老いだ。老人たちには波乱の過去がある。主要登場人物の過去が語られ物語は奥行きと広がりをみせる。
著者のリチャード・オスマンは1970年生まれ。英国のテレビ司会者・プロデューサー。本書は著者のはじめての作品で、全英図書賞の年間最優秀著者賞を受賞した。そのほか、エドガー賞最優秀長篇賞、国際スリラー作家協会最優秀長篇賞、バリー賞最優秀新人賞、アンソニー賞最優秀新人賞などにノミネートされ、高い評価を得ている。
日本では、『ミステリ読みたい!2022年度版』第3位、『週刊文春』ミステリーベスト10海外部門第4位など、上位にランクインしている。→人気ブログランキング
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