マーチ家の父親 もうひとつの若草物語 ジェラルディン・ブルックス
南北戦争の真っ只中、四姉妹と母親を描いた不朽の名作『若草物語』(ルイザ・メイ・オルコット著)の、姿を見せない父親を主人公にするという大胆な発想で描いた歴史小説である。父親のロバート・マーチは妻と四人の娘を残して、およそ1年間従軍牧師として北軍に同行した。
過去と現在を行ったり来たりしながら、物語は進んでいく。
著者のジェラルディン・ブルックスはオーストラリア生まれ。シドニー大学卒業後、シドニー・モーニング・ヘラルド紙で環境問題などを担当していた。その後、コロンビア大学に留学し、並行してウォールストリート・ジャーナルで、ボスニア、ソマリア、中東地域の特派員として活躍した。
2001年に、17世紀の英国を舞台にしたYear of Wondersでデビュー。
2006年に、本書でフィクション部門のピューリッツァー賞を受賞した。
3作目の小説『古書の来歴』もベストセラーとなった。
4作目の『ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』は、17世紀にハーバード大学に入学し卒業したインディアンの物語である。
![]() ジェラルディン・ブルックス/高山真由美 RHブックス+プラス 2012年 451頁 |
従軍牧師のマーチはヴァージニアから妻のマーガレットに宛てて手紙を書いた。
その後、敵に襲われ川を渡りなんとか逃げおおせて、たどり着いた家には、以前、来たことがあった。そこはマーチが18歳の行商人だった頃に長逗留したオーガスタ・クレメントの屋敷であった。そこで再会したのは黒人奴隷のグレイスである。若き日、マーチは奴隷でありながら淑女のような言葉と立ち居振る舞いをするグレイスに心を奪われたのだった。働いても給料は支給されず、ルールに逆らえば鞭打ちの刑が待っている、ただそれだけの暮らし、それが奴隷の生活であった。マーチはそれを目の当たりにしたのだ。
マーチは行商で大金を手にし投資も順調で、マサチューセッツ州のコンコードに大きな家を買った。そして奴隷解放論者のマーガレットと出会い結婚したのだ。
ふたりは自宅に黒人が隠れることができる部屋を作ったり、「地下鉄道」(逃亡奴隷を支援する組織)に手を貸すなど、奴隷解放運動に積極的に加担した。
子どもたちが生まれる前のマーガレットを熱心な奴隷廃止論者だとするなら、子どもたちが産まれた後の彼女はまるで火がついたかのような廃止論者になった。マーガレットは激情の持ち主なのだ。
そのマーガレットが、金持ちの叔母が反対するにも関わらず、急進的な奴隷解放の推進者ブラウンに入れ上げ、家を手放すことになった。ブラウンは奴隷を助けるためではなく暴動を起こすために武器を購入していた。マーガレットはそのブラウンに資金提供したのだ。
破産が宣告されたのは、マーガレットが4人目の子どもを妊娠しているときだった。
そんな困難のなか、コンコードの兵士たちを見送る式典でマーチは切り株の上に立ち、演説を促された。演説は素晴らしいもので、大喝采を浴びた。「私も従軍する」と言ったのだ。叔母はマーチの歳で従軍するとは無分別だ。虚栄心の強い愚か者、南部で野垂れ死して家族を貧乏に陥れるのがオチだと罵られた。
四姉妹とマーガレットとは貧乏ながらも健気に生きるのだが、マーチは瀕死の状態になり、マーガレットが病院に呼び寄せられることになった。そこでマーガレットは屈辱を味わうことになるのだった。→人気ブログランキング
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【ジュラルディン・ブルックスの作品】
『ケイレブ ハーバードのネイティブ・アメリカン』柴田ひさ子/平凡社/2018年
『古書の来歴』森嶋マリ/武田ランダムハウスジャパン/2010年
『マーチ家の父 もうひとつの若草物語』高山真由美/RHブックス・プラス/2012年
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