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2022年2月

2022年2月10日 (木)

暁の死線(新版)ウイリアム・アイリッシュ

本作は1944年に出版された。オールタイムベストの1冊。
故郷に錦を飾ろうという心意気でニューヨークに出てきた若い男女が出会い意気投合する。しかし、男はやむに止まれず屋敷から金を盗んでいた。

踊ることが大好きなブリッキーは、すらりとした22歳の赤毛。ダンスホールで男たちと踊ることを商売にしている。
そのブリッキーと踊った男が、声をかけてきて無理やりタクシーに乗せようとした。ふたりの間に入った電気工のクィンという若い男が、相手を殴りブリッキーを救った。

Be35eb3925f14ba9a9fe97cd6d922088 暁の死線(新版)
ウイリアム・アイリッシュ/稲葉明雄 
創元推理文庫
2016年 388頁

ブリッキーとクィンは アイオワ州の田舎町グレン・フィールズの出身だった。しかも家が裏隣なのだ。ブリッキーは5年前にニューヨークに出てきた。その後にクィン一家がブリッキーの家の裏に引っ越してきて、今度はクィンがニューヨークに出てきた。そのため今回出会うまで、ふたりに面識はなかった。

クィンが豪邸の電気工事に携わったときに、隠し金庫に男が金を隠すのを見てしまった。しかも、置きっぱなしにしておいた道具箱の中に屋敷の鍵が紛れ込んでいた。そのあとクィンが勤めていた店が倒産し、一文なしになった。クィンはその豪邸から金を盗んだという。

鍵と金を元の場所に戻さなければ、金を盗んだことが警察にバレて、捕まってしまうとブリッキーは言う。ブリッキーはニューヨークから故郷に帰るチャンスだと思った。鍵と金を豪邸に返し終わったら、ふたりで6時発のバスに乗ってニューヨークとおさらばして郷里に帰ることにした。

ところが屋敷には銃で撃たれた死体が転がっていて、殺人の真犯人を見つけ出さなければ、自分たちが殺人犯と疑われてしまう。ニューヨークで成功できなかったふたりが、故郷に帰るために乗り越えなければならないハードルが、とんでもなく高くなってしまった。
そして、ちょっとした手掛かり持って、ふたりは夜の街に出ていく。

有無を言わせぬ強引な展開で、「ボレロ」のようにクレッシェンドにことが進んで、真犯人に迫っていく。

巻末に、著者のウィリアム・アイリッシュは、スコット・フィッツジェラルドと肩を並べる作家であったが、フィッツジェラルドに先を越されてしまい、仕方なくミステリを書き始めたと、解説されている。→人気ブログランキング
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暁の死線(新版)/ウイリアム・アイリッシュ(稲葉明雄)/創元推理文庫/2016年 
幻の女(新訳版)/ウイリアム・アイリッシュ(黒原敏行)/ハヤカワ文庫/2015年

2022年2月 1日 (火)

プロレス少女伝説 井田真木子

第22回(1991年)大宅壮一ノンフィクション賞受賞作(同時に受賞したのは家田荘子の『私を抱いてそしてキスして エイズ患者と過した一年の壮絶記録』)。
有名なエピソードだが、立花隆はこの作品を「どうでもいいことを巧みに描いた典型」『文藝春秋』(1991年5月号)と評した。
Photo_20220201084401プロレス少女伝説
井田真木子 
文春文庫 
1993年 350頁

著者は、1983年、女子プロレスの観客に異変が起きていることに気づいたという。
中年男性の他に、小学生も混じえたローティーンの少女の一群を見るようになった。そして、あっという間に中年男性と少女たちは数で拮抗するようになっていった。そしてヤジを飛ばす男たちに少女たちは「カエレ」コールを浴びせるようになった。
つまり、エロ目線で女子プロレスを観ていたオヤジたちが、女子プロレスラーをヒーローと称えるローティーン女子の熱狂的なプロレス愛に、試合会場からはじき出されたのだ。
この後、ティーンエイジャーの少女たちの間で女子プロレスが熱狂的なブームとなる。

著者は80年代に活躍した4人のヒロインたちに直接インタビューを行なって、本書を書き上げた。
その4人とは、中国籍だった天田麗文、白人の父親と先住民族の母親から生まれたアメリカ国籍のデブラ・アン・メデューサ・ミシェリー、柔道の日本チャンピオンだった神取しのぶ、そしてライオネル・飛鳥と組んでクラッシュ・ギャルズとして空前の人気を博した長与千種である。

日米の女子プロレスの歴史に触れている。
アメリカでは、女子プロレスは男子プロレスの前座的なものでしかなく、つけ足しであり、性的な見せ物の要素が強く、そこから発展しなかった。
日本には江戸時代から女相撲という人気の興行があり、男の大相撲から興行差し止めの願いが出されるほど人気があったという。そうした素地が、日本の女子プロレスを独自に発展させたと著者は分析している。

ところで、タイトルが『プロレス少女伝説』と、なぜ「少女」なのか。多くの女子プロレスラーがプロレスと関わったのは10代である。そして20歳代後半で引退していく。さらにファンの年齢は、少女に属するものだった。「少女」にした意味はそこにある。

立花隆の論評は続く。「私はプロレスというのは、品性と知性と感性が同時に低レベルにある人だけが熱中できる低劣なゲームだと思っている。そういう世界で何が起きようと私には全く関心がない」と続けた。
いくらなんでもの論評だが、これはあるパーセントの人が抱くプロレスのイメージだろう。プロレスを蔑視している人はいる。

最近プロレスを観ることはないが、力道山に歓喜しプロレスごっこで遊んだ団塊の世代の私は、プロレスに恩義があると思っている。プロレスには演技の部分が多数あることは、当時の小学生にすらバレていた。それでも大人も子どもも熱狂したのである。要は試合のストーリーに観客を納得させるものがあればいいのだ。それだけだ。→人気ブログランキング
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