美味しい味の表現術 瀬戸賢一編 味言葉研究ラボラトリー
食にまつわる表現を10人の食の言語研究者が分析する。
味に関する表現を網羅的に触れつつ、陳腐な使い古した表現ではない表現を追求しようとしている。
基本五味とは、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、これは覚えておきたい。
![]() 瀬戸賢一編 味言葉研究ラボラトリー インターナショナル新書 2022年 |
五感を駆使して表現する例として、丸谷才一の文章を紹介している。これが名文なのだ。
〈わたしは一体、白焼きが好物で、蒲焼よりも好きなくらいゐだが、野田岩の白焼はさすがによかった。あたたかくて淡白で口中でほろりと崩れ、可憐な風情で溶けてゆくのだ。〉(丸谷才一『食通知ったかぶり』)
これがなぜ名文かというと、「あたたかく」は触覚、「淡白」は視覚、「ほろりと」は触覚、「崩れ」は触覚と視覚、「可憐な風情」は視覚、「溶けてゆく」は視覚と触覚。これらがすべて味覚に合流する。五感に訴えかけている。
頻繁に使われるが、意味をよく理解しないで使っているコクを取り上げ、キレ、のどごしと続けて分析する。コク、キレ、のどごしを本書では次のようにまとめている。
〈コクとは、油脂成分が主体で甘味と熟成味に支えられた味が口中で立体化して、濃さを増しそのまま長くとどまる経時変化である。キレとは一言でいえば、味がすっとなくなる変化。感じている味がさっと消えるか、酸味や塩味あるいは適度な香辛料の刺激がほかの味のなかを一瞬でかけぬける。これがキレの正体だ。のどごしは、軽快にのどを通りすぎるなめらかな心地よさのことで、とくに冷たいものの場合それが涼感として感じられる。〉
人気テレビ番組『家事ヤロウ』で取り上げたコクについての説明がよりわかりやすい。
〈コクとは、〈5つの基本味(五味)「甘味・塩味・酸味・苦み・うま味」が単独ではなく複数融合した際に生まれるもの。また風味や食感なども加わりさらに増すもの。〉と説明された。
旨いは男言葉、美味しいは女言葉という、食の言葉のジェンダー論におよぶ。
「海の宝石箱」が、彦摩呂のテッパンフレーズになった理由は、「箱」にあるという。
北海道ロケの魚市場で、海鮮丼の中身が、イクラがルビー、アジがサファイア、鯛がオパールに見えたという。斬新で常識を超えているから強く印象に残るのである。→人気ブログランキング
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