匿名作家は二人もいらない アレキサンドラ・アンドリュース
本書は今年末のミステリ・ランキングで上位に入るのは間違いない。文句なしの大傑作だ。
原題は、「Who is Maud Dixon?(モード・ディクソンは誰?)」である。そのモード・ディクソンとは、アメリカで300万部のベストセラーとなった『ミシシッピ・フォックスロット』の匿名作家のペンネームだ。あらゆるメディアでモード・ディクソンは何者か?が取り沙汰されている。
匿名作家は二人もいらない アレキサンドラ・アンドリュース/大谷瑠璃子 早川文庫 2022年 536頁 |
作家を志望する26歳のフローレンス・ダロウは、2年前にニューヨークの出版社に編集アシスタントとして入社した。フローレンスは母親から職を変えるようにせっつかれている。編集アシストなど辞めて不動産関係か銀行関係の仕事の就くようにと再三電話で言われている。母子家庭で育ったフローレンスは、フロリダ大学を優秀な成績で卒業し地元で勤めたが、小説家になることが諦めきれずにニューヨークに出てきて、編集アシスタントになった。
作家になるチャンスを掴もうと上司とベッドを共にするが、焦るあまりストーカー行為に走ってしまい、フローレンスは解雇され、上司およびその家族への接近禁止命令が裁判所から言い渡されたのだ。
職を失ったフローレンスに手を差し伸べたのは、別の出版社のグレタである。
グレタは、匿名作家モード・ディクソンのエージェントである。モード・ジャクソンのアシスタントにフローレンスを推薦したのだ。
フローレンスがハドソン駅に着くと、モード・ジャクソンがオンボロのレンジロヴァーで迎えにきていた。本名はヘレン・ウィルコックスと名乗った。ヘレンは32歳だという。そして、1848年築の古い家に連れて行かれた。
フローレンスの主な仕事は、メールの返事書き、手書き原稿のパソコンへの打ち込み、情報の下調べなどだった。
ヘレンは悪筆だった。どうしても読めない字をヘレンに訊ねると、自分で想像しなさいとヘレンは怒った。そして次第にフローレンスが下書きを勝手に書き換えてしまうようになった。
フローレンスはヘレンの描いている作品は魅力がないと感じた。ヘレンの文章を書き換えることで、ヘレンのアシシタントを超えて共同執筆者になったような気分になった。その書き換えた部分をヘレンは気づかないのか、なんの反応もないのだ。
そんな折、ヘレンは次の小説はモロッコが舞台だという。フローレンスがモロッコの下調べを始めると、突然、ヘレンはモロッコに2週間滞在するのでローレンスも一緒に来るようにという。
そして舞台は、ストーリーが二転三転するモロッコに移る。
上昇志向の強いフロレンスとサイコパス風の行動をとるヘレンの対決は見ものだ。
著者のアレキサンドラ・アンドリュースは、1985年生まれ。マンハッタンのアッパーイーストサイドの恵まれた環境で育った。子どもの頃からアガサ・クリスティなどが大好きだった。大学では比較文学を専攻し、卒業後はジャーナリスト、ファッションブランドのコピーライター、編集者として働いた。2014年に雑誌の編集者と結婚し、夫に同行してパリで生活していた2017年に小説を書きはじめた。現在は夫とふたりの子どもとともにブルックリンに在住し、次の作品を執筆中だという(解説からの抜粋による)。→人気ブログランキング
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