TOKYO REDUX 下山迷宮 デイヴィッド・ピース
単語やフレーズを繰り返す独自のリズムをもつ文体で、迷宮入りした下山事件を描いた上下2段437ページの大作。著者の『TOKYO YEAR ZERO 』(2007年)、『占領都市 TOKYO YEAR ZERO II 』(2012年)に続く東京三部作の最後の作品である。
過去の事件や出来事との繋がりをモチーフとして東京の闇を描いた怪作。白人が日本を描くと黄色人種蔑視の視点が垣間見られることが往々にしてあるが、その視点がない。フラットな目で描いているところがいい。
ランキングは、『このミステリがすごい』海外部門の9位、『週刊文春』ミステリーベスト10海外部門の8位。
TOKYO REDUX 下山迷宮 デイヴィッド・ピース/黒原敏行 文藝春秋 2021年 437頁 |
本書は3部からなり、第1部は、1949年7月5日、アメリカ独立記念日の翌日に起こった下山事件を、GHQに所属する民間諜報局公安捜査官のハリー・スウィニーが身を粉にして調査する。
第2部は、1964年、オリンピックを控えた東京で、私立探偵の室田秀樹のもと行方不明の小説家黒田浪漫が書いた下山事件の作品を手に入れるようにと依頼が舞い込む。
第3部は、1948年に対日工作とのため日本に滞在したドナルド・ライケンバックが、1988年、天皇の病状が伝えられる日本にやってくる。ドナルドは同性愛者だ。
下田定則国鉄総裁は田園調布の自宅を出て車で三越デパートに向かい、開店したばかりのデパートに入店した後に消息を絶った。翌日の午後0時20分ごろ、国鉄常磐線の北千住駅と綾瀬駅の間の線路上に轢死体となって発見された。肢体はバラバラであり、雨が降っており、100人もの人間がうろうろして、鑑識が現れたのは大分経ってからだ。明らかに初動捜査にミスがあった。自殺説と他殺説がせめぎ合って結局迷宮入りとなった。
下田総裁は失踪の前日に3万人強の解雇を発表し、来週には7万人の整理を発表することになっていた。東京の街にはあちこちに下田を殺せのビラが貼られていた。
その下田事件を解明しようと、ハリー・スイニーが同僚のススム・トダと捜査に奮闘する。GHQ上層部のウィロビーから「はやく解決しろ」とプレッシャーがかかる。
ハリー・スイニーの奮闘ぶりと苦悩が描かれる。
1964年、オリンピックを5か月後に控えた東京。元警察官の探偵の室田に、失踪した探偵小説家の黒田の捜索依頼が出版社からくる。期限はアメリカの独立記念日の7月4日まで。
黒田はGHQが下山を殺害したと確証を得たと言っており、その情報をもとに小説を書いたという。黒田の小説に室田が警察を辞めたくだりが描かれている。誰が黒田に話したのか。現実とも室田の妄想ともつかぬ話が展開される。
1988年、12月、病床に臥す天皇の容態が逐一報道されている。CIA工作員として日本に派遣され、日本文学の研究者として東京に住むことになった翻訳家のライケンバックは下山事件の亡霊に苦しめられる。→人気ブログランキング
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