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2022年4月

2022年4月19日 (火)

葬儀を終えて アガサ・クリスティー

1953年に発刊。エルキュール・ポアロ・シリーズの25作目にあたる。
イギリス、エンタビーのゴシック風大邸宅に暮らす富豪リチャード・アバネシーが亡くなった。リチャードは68歳で急死した。息子が6か月前に亡くなり弟のゴードンは戦死した。リチャードにとっては弱り目に祟り目の状況であった。
葬儀の後、参列した親族は邸宅内のエンタビー・ホールで一堂に会した。
Photo_20220419085101葬儀を終えて
アガサ・クリスティー/加島祥造 
ハヤカワ文庫 
2003年 482頁

遺言執行を務める弁護士のエントウイッスルから、遺産の分配が伝えられる。遺産はリチャードの弟ティモシー、亡き弟の妻へレン、妹コーラ、甥ジョージ、姪スーザン、姪ロザムンドの6名に均等に分配されると告げられた。遺産のほとんどを手にすると思っていたティモシーは、目もくらむばかりに狼狽えた。その席上でコーラは首をかたむけて、「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」と言い放った。コーラは子供の頃から変わっていて、思ったことをなんでも口にするところがあったから、参列者はその発言をまともに取り合わず受け流したかのようだった。しかし参列者の心にしこりのようなものを残した。この言葉があとあとまで後を引くことになる。言い方を変えると、コーラのこの言葉によって物語が成り立っているのである。

翌日、コーラは自宅で寝ているところを襲われ、斧で後頭部をズタズタにされた惨殺体で発見される。家の窓ガラスが割られていた。亡くなる3週間前に、リチャードはコーラの自宅を訪れ、何事かを話していた。

エントウィッスルは書類を作成するため、遺産相続人たちを訪問し証言を集める。エントウィッスルの調べが進むうちに、遺産相続人たちはそれぞれ金に困っていて、誰もがリチャードを殺害する動機があることがわかった。

そんなおり、リチャードとコーラの話の内容を知っているとみられるコーラの家政婦の毒殺未遂事件が起こる。
そして真相を明らかにすべく、エントウィッスルは探偵エルキュール・ポアロに調査を依頼する。

リチャードはコーラに何を話し、その秘密を知られたくない者によってコーラは殺されたのか?
ストーリーは作者の仕掛けた巧妙なトリックに翻弄され、意外な結末に運ばれていく。
さすがクリスティである。星5。→人気ブログランキング
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葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2022年4月12日 (火)

理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ 吉川浩満

本書で論じる進化論は単なる生物の進化を超えている。進化論を社会学的あるいは経済学的な視点でとらえ、アートに浸透し、宇宙物理学との関連にまでにも及び、哲学的として論じている。名著だ。

私たちは、ふつう、進化論を生き残りの観点から見ている。進化論は勝ち組の歴史である。本書では、逆に絶滅という観点から生物の歴史を捉えている。地球上に出現した生物のうち99.9%が絶滅した。私たちを含む0.1%の生き残りでさえまだ絶滅していないだけである。
生物の歴史は理不尽さに満ちている。大いなる自然は生物たちに恵みをもたらすだけではない。自然は生き物たちを特別な理由なく差別したり、依怙贔屓したり、ロシアンルーレットを強制したり、気まぐれな専制君主のようにふるまう。
地球は何度かの大絶滅を経験し、そのたびに生態系の再構築がなされてきた。その場合、遺伝子が悪いわけではなく、単に運が悪かったのである。
絶滅という観点から見えてくる生物の進化の理不尽さを明らかにすることが本書のテーマである。
7fbe1a955237497386d69a72fc260965理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ
吉川浩満 
ちくま文庫(単行本は2014年発刊)
2021年

 かつて、ドーキンスとグールドは、ちょっと長めのエッセイ(著書)で、侃々諤々の応酬を繰り返したので、著者もその轍を踏んで少し長めのエッセイ(試論)を書いた。

進化論が好かれるのは、進化論が生き残った生物の栄光の歴史(サクセス・ストーリー)だからだ。逆に、絶滅の観点から進化をとらえると、理不尽さに満ちた歴史である。絶滅についてもっと語ってもいいのではないかと著者はいう。

恐竜は巨大衛星の衝突で粉塵が舞い上がり、平均気温が10度も下がり絶滅した。ルールが変わったのだ。理不尽な絶滅によって開いた位置に生き残った生物がのし上がる。つまり主役が変わったのである。

進化論の言葉で語るとなんとなく説得力が増すように感じる。「勝ち組/負け組」「ガラパゴス化」「リア充」「婚活」「非モテ」といった流行語も、環境への適応に成功して生き延びる者/失敗して死に絶える者、という進化論的な文脈で見ればわかりやすくなる。
進化論にかかれば、宇宙も宇宙論も進化する物事の一員になる。

アメリカの哲学者ダニエル・C・デネットは、進化論を「万能酸」と呼んだ。万能散とは、どんなものでも侵食してしまうという空想の液体のことだ。従来の理論や概念を侵食し尽くした後に、革新的な世界像、進化論的世界像を残していく。

本書のキーワードはタイトルにある理不尽と、トートロジーである。
生物はあるとき一斉に神が創造したとする創造論者は、進化論への反論として「生き残った者が適者であり、適者が生き残る」という主張は循環論(トートロジー)であり科学ではない、と主張する 。創造論者の牙城は堅固だ。俗説が人びとを魅了する構造を理解することで、進化論の本当のおもしろさを読者に示している。→人気ブログランキング
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2022年4月 2日 (土)

桜の科学 勝木俊雄

今まさに、日本列島を桜前線が北上するなか、桜の木が全国的に伐採されるというニュースが流れている。たとえば、2022年3月には横浜市の海軍道路の200余本の桜が、道路の拡張工事に伴い伐採されると報じられた。植樹から約50年が経ち桜は老木となり、昨年は台風により倒木したことがあったという。ソメイヨシノの寿命は50年なのか?
Photo_20220402084301桜の科学
日本のサクラは10種だけ?
新しい事実、知られざる由来とは
勝木俊雄 
SBクリエイティブ株式会社 
2018年 191頁

染井吉野(本書では漢字で表記している)は染井吉野の花粉では結実できない。それゆえ結実させるには、他の種類の桜の花粉を交配させることになる。そうすると父親の特徴が表に出て、染井吉野ではなくなってしまう。染井吉野を増やすには、挿木や接木、取木で増やす方法で行われてきた。染井吉野がクローンであるというのはここからきている。

染井吉野は、はじめ数輪咲いたあと8割が咲く満開には1週間くらいかかる。染井吉野の場合、すべて同じ遺伝子を持つクローンなので、開花時期のタイミングが揃う。それゆえ一斉に咲くといわれるのである。

染井吉野は明治時代に存在が確認された。その特徴は、成長が早いこと。1年で2メートル以上となり、10年で10メートルに達するという。20メートルくらいになると成長が止まる。成長が止まると、樹木は古い枝を落とし新しい枝を出すが、染井吉野はそれがうまくいかない。古い枯れ枝が目立つようになり、花の鑑賞価値も下がる。そのせいで染井吉野は短命といわれるのではないかという。 

韓国の済州島が染井吉野の原産地であるといわれたことがある。国際的には済州島説は否定されているが、韓国では今でも支持されている。染井吉野は野生種ではなくエドヒガンとオオシマザクラ種間雑種である。しかしどこで雑種が生じたかは諸説あり、誕生の場所は確定されていない。

サクラの管理に「桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿」は、サクラは切るとその部分が腐りやすく、ウメは余計な枝を切らないと、翌年花がうまく咲かない違いからいわれる言葉である。その言葉どおりであるが、サクラの古い枝は切ったほうがいい場合もある。

本書にはこうした項目が50ある。

著者は、1967年生まれ。1992年東京大学農学部卒業、農学博士。現在国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所多摩森林科学園 チーム長。樹木学、植物分類学、森林生態学が専門。20年以上サクラを研究している。著書に『桜』(岩波新書)、『生きもの出会い図鑑 日本の桜』(学研プラス)などがある。(本書の著者紹介より抜粋)→人気ブログランキング
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