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2022年5月

2022年5月21日 (土)

キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー

著者のローナン・ファローはウディ・アレンとミア・ファローの息子である。 ローナンはアメリカの3大ネットワークのひとつNBCの雇われ記者として、1952年から続く朝の番組『トゥデイ』に自らも出演し、放送する特集の取材もしていた。その中で、かつてメリル・ストリープが、神様と呼んだこともある大物プロデューサーの性犯罪を調べはじめた。その調査の過程を書いたのが本書である。
ちなみに、タイトルの「キャッチ・アンド・キル(捕まえて殺す)」は、タブロイド業界で使われるフレーズで、もみ消しのためにネタを買い入れることをいう。
Photo_20220521083901 キャッチ・アンド・キル
ローナン・ファロー 関美和 
文藝春秋 
2022年4月 493頁

ミラマックス社を設立したハーヴェイ・ワインスタインはいつも女性をを狙っていた。周りはワインスタインが女を食い物にしていることを知っていた。以前、何人もの記者がこのネタを追っていたが誰も尻尾を掴めなかったという。しかしなぜそのようなことになるのか。

ワインスタインは女性を金で黙らせ、騒ぎ立てたらキャリアはおしまいだと脅した。ワインスタインは女優志願やモデル志望の女の子たちとミーティングをしょっちゅう行なっていた。ホテルの部屋で、最初は女性重役やアシスタントを同席させ、女の子たちを安心させて、罠にかけていたという。つまり周りが協力していたのだ。有名女優にもそうでない女優にも、会社の事務員にも手を出していた。
「誰もハーヴェイを止められない。今回も握りつぶすでしょうね」というのが、ワインスタインと仕事をした者の声だった。

ワインスタインは、イスラエルの調査会社ブラック・キューブにセクハラ事件の対策を依頼していた。ブラック・キューブはイスラエルの諜報機関に所属していた人物が起こした会社である。そこのスパイたちが、相手を脅したり、警察に手を回したり、ローナンたちを尾行したり、工作活動をしていた。相手に恐怖を感じさせ追いつめるのだ。
ローナンの動きにワインスタイン・サイドが反応し、NBCに調査を止めさせるようにとのプレッシャーがかかり、著者のインスタメッセージに脅迫メールが届くようになる。銃を持つようにと周りから言われもした。
NBCの上層部から、ローナンたちの取材に待ったがかかり、ローナンは番組から降ろされ、解雇された形になった。

ウディ・アレンが7歳の義娘に性的虐待を加えたとミア・ファローが訴えた。アレンは10人の弁護士を雇い、証拠不十分で不起訴となった。アレンはワインスタインにセクハラで訴えられたときの対処法を伝授したという。アレンは、この性スキャンダルの一連の報道の煽りを受けて、ハリウッドを追われることとなった。

ついに、2017年10月、ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌がワインスタインの狼藉を報道した。報道の後、被害者が次々に名乗りを上げた。
ワインスタインは女優ら30人超と27億で和解し、上告したとはいえ懲役23年が言い渡され、刑務所に収監された。

そして驚いたことに、『トゥデイ』の人気キャスター、マット・ラウアーがワインスタインと同じようなセクハラを行なっていたのだ。疑惑が浮上した2017年11月に、NBCはラウアーを即刻解雇した。

NBC(大企業)は、「ウィキペディアの書き換え屋」を雇って、企業イメージをよくしようとうとしている。まるで、ワインスタイン報道などなかったような書かれ方に修正されていたという。

ニューヨーク・タイムズ紙やニューヨーカー誌の報道により、性スキャンダルが次々に明るみに出たことに連動し、「Me Too運動」につながっていった。著者は、ニューヨーカー誌に投稿した記事で、2018年のピューリッツアー賞を受賞した。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い/ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー/古屋美登里/新潮文庫/2022年5月

2022年5月16日 (月)

ポケットにライ麦を(新訳版) アガサ・クリスティー

1953年発刊。ミス・マープル・シリーズの6作目にあたる。『そして誰もいなくなった』と同じようにマザーグースの童謡にみたてた、見たて殺人である。投資信託会社の社長レックス・フォーテスキューが毒を盛られ殺害された。レックスの上着のポケットにはライ麦が入っていた。使われた毒はイチイの実から抽出されるタキシン。
「水松(イチイ)荘」のと呼ばれるロンドン郊外のレックスの館には、レックスより30歳も年下の二番目の妻アデルとその愛人、長男夫婦、娘とその恋人、レックスの死んだ妻の姉、そして使用人たちが、複雑な人間関係のなかで暮らしていた。そこに放蕩息子の次男夫婦がアフリカから帰ってくる。
その日の朝、レックスは、妻、娘そして長男の妻の3人と朝食を共にした。 
D8e58ab99be94e379f1c9c4d0a2483da ポケットにライ麦を(新訳版)
アガサ・クリスティー/山本やよい
ハヤカワ文庫 
2020年

客間での午後のお茶の時間に、犯人の疑いがかけられていたアデルが、マフィンを手にしたまま青酸カリで殺された。そして、おどおどしていた小間使いのグラディスが姿を消し、ストッキングで首を絞められて殺された。
こうして3人が殺されたのだ。

ニール警部は家政婦のミス・タブに話を聞く。
旦那様はきわめて不愉快な方でしたから、誰が犯人であってもおかしくないとミス・タブはいう。それに商売のやり方もアコギだったから、商売相手から恨まれている。
ミス・タブは、若く知性があり、家政婦をさせておくには勿体ないと警部はいう。

長兄は看護婦と結婚というヘマをやらかした。一方、放蕩の弟は曲がりなりにも貴族と結婚したから父親は満足だった。しかも、亡くなる前に父親は長男と、激しい言い争いをしたという。

ミス・マープルは新聞を3紙買って颯爽と汽車に乗り、それを読んで水松荘を訪れた。ミス・マープルは同じ郷里の娘グラディスに行儀見習いを教えたことがあった。その娘が殺されて、犯人は悪ふざけをして、遺体は洗濯ばさみで鼻をつままれていた。それを知ったミス・マープルは激昂した。

事件の様子が、マザーグースに出てくる「クロツグミの歌」とぴったり合うと、ミス・マープルは警部に告げた。
それが告げられたのは、ストーリーの真ん中あたり。→人気ブログランキング
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ポケットにライ麦を(新訳版)/山本やよい/ハヤカワ文庫/2020年(1953年)
葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

2022年5月 5日 (木)

平凡すぎて殺される クイーム・マクドネル

特徴のない面相のポールは殺人の容疑者になってしまい、おまけに命を狙われることになった。ブリジットとともに、姿の見えない殺し屋の手から逃れながら命を狙われる理由を突き止めようとする。舞台はアイルランドの首都ダブリン。
64f276b97bbd42aa84b5a5e0c57cc34b平凡すぎて殺される
クイーム・マクドネル/青木悦子
創元社推理文庫
2022年2月 502頁

ポールはボランティアとして老人介護施設で入居者たちの相手役を買って出て数年になる。相手によって、息子になるし孫にもなる、近所の若者にも、あるいは執事にもなる。
看護師のブリジットがポールに、死にかけた癌の末期患者を宥めてくれるようにとたのんだ。その患者は3年前に癌が見つかったが、すべての治療を拒否して、故郷のこの施設にやってきた爺さんだ。その爺さんがポールを誰と間違ったのかナイフで襲い、ポールの肩を刺した。致命傷にはならなかったが、爺さんはその襲撃で命を絶った。
かくして、ポールは殺人事件の容疑者候補になり、しかも何者かに命を狙われることになった。

爺さんの正体は大悪党のゲーリー・ファロンであった。警察としても関わりたくない厄介な人物だ。さらに悪いことにゲーリーの娘が3発の銃弾で何者かに殺された。
ブリジットはポールの命が狙われる原因を作った負目で、行動をともにすることになる。そんなおり、ポールの車に爆弾が仕掛けられた。

若い頃、ポールは銀行強盗のひとりに似ているという理由で、警察に逮捕されたことがある。ポールを逮捕したのは、型破りのバーニー部長警部だった。ところがポールにはアリバイ中のアリバイがあった。

いまやポールは悪党の親玉に命を狙われていて、その親玉に命を狙われたら100%助からないときかされる。なぜ命を狙われるのか。それがわからなくては話にならない。それを突き止めるべく、ポールとブリジットは悪戦苦闘するのだ。そこにバーニー警部が加わり、ストーリーはスラップスティックな展開をみせる。

映画の場面やセリフ、聖書、または小説の場面、あるいはTVゲームの場面などが頻回に引用され、著者の豊富な知識に圧倒される。さらに饒舌というか多彩で効果的な比喩がそこらじゅうに差し込まれ、ついニンマリさせられる。悲壮感がないところがいい。ノンストップで読み進むことができる。本年の翻訳ミステリ・ベストテン入り間違いなし。

著者のクイーム・マクドネルはアイルランド出身。本書は初の長編で「ダブリン3部作」の1作目だという。本書を発刊したときはコメディアンであった。ダブリンやマンチェスターを舞台としたミステリを中心に描いている。本書は2017年、アイルランドのインディペンデント出版を奨励するCAPアワードの最優秀小説部門にノミネートされた(表紙カバーの著者略歴より抜粋)。→人気ブログランキング
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2022年5月 2日 (月)

アガサ・クリスティー百科事典 数藤康雄 編 

アガサ・クリスティーの全238作品を年代順に、長編・戯曲は1頁に、短編は4行から6行ほどにまとめて紹介している。作品紹介の他に、「作中人物・あいうえお順」「アイテム・あいうえお順」「戯曲初演リスト」「映画化作品」「ドラマ化作品」「年譜」、巻末には「作品索引」が掲載されている。

Photo_20220502082401アガサ・クリスティー百科事典 
数藤康雄 編 
ハヤカワ文庫 
2004年 431頁

編者によれば、作中人物は少なく見積もっても7000人を超えるので、400人だけをピックアップしたという。作中人物ではネタバレに近い解説もみられる。それは作品を読んでわかるのであって、これから読むのであれば問題ない程度だろう。またアイテムについても同様のことがいえる。
さらに、クリスティー作品全般についての編者のエッセイ10編が、「コラム・ティータイム」として、ところどころに挟み込まれている。
アガサ・クリスティーは晩年になっても、筆力が衰えるどころかかえって上がっている稀有な作家と評価されている。このことは江戸川乱歩が最初に指摘した。

年代順に読むもよし興味があるものから読むもよし、本書はアガサ・クリスティー攻略に大いに手助けになる。
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アガサ・クリスティー百科事典/数藤康雄 編/ハヤカワ文庫/2004年
葬儀を終えて/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1953年原作発刊)
ナイルに死す/加島祥造訳/ハヤカワ文庫/2003年(1937年)
ねずみとり/鳴海四郎訳/ハヤカワ文庫/2004年(1952年)
さあ、あなたの暮らしぶりを話して/深町眞里子訳/ハヤカワ文庫/2004年(1946年)
そして誰もいなくなった/青木久惠訳/ハヤカワ文庫/2010年(1939年)
アクロイド殺し/羽田詩津子訳/早川文庫/2003年(1926年)

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