平凡すぎて殺される クイーム・マクドネル
特徴のない面相のポールは殺人の容疑者になってしまい、おまけに命を狙われることになった。ブリジットとともに、姿の見えない殺し屋の手から逃れながら命を狙われる理由を突き止めようとする。舞台はアイルランドの首都ダブリン。
平凡すぎて殺される クイーム・マクドネル/青木悦子 創元社推理文庫 2022年2月 502頁 |
ポールはボランティアとして老人介護施設で入居者たちの相手役を買って出て数年になる。相手によって、息子になるし孫にもなる、近所の若者にも、あるいは執事にもなる。
看護師のブリジットがポールに、死にかけた癌の末期患者を宥めてくれるようにとたのんだ。その患者は3年前に癌が見つかったが、すべての治療を拒否して、故郷のこの施設にやってきた爺さんだ。その爺さんがポールを誰と間違ったのかナイフで襲い、ポールの肩を刺した。致命傷にはならなかったが、爺さんはその襲撃で命を絶った。
かくして、ポールは殺人事件の容疑者候補になり、しかも何者かに命を狙われることになった。
爺さんの正体は大悪党のゲーリー・ファロンであった。警察としても関わりたくない厄介な人物だ。さらに悪いことにゲーリーの娘が3発の銃弾で何者かに殺された。
ブリジットはポールの命が狙われる原因を作った負目で、行動をともにすることになる。そんなおり、ポールの車に爆弾が仕掛けられた。
若い頃、ポールは銀行強盗のひとりに似ているという理由で、警察に逮捕されたことがある。ポールを逮捕したのは、型破りのバーニー部長警部だった。ところがポールにはアリバイ中のアリバイがあった。
いまやポールは悪党の親玉に命を狙われていて、その親玉に命を狙われたら100%助からないときかされる。なぜ命を狙われるのか。それがわからなくては話にならない。それを突き止めるべく、ポールとブリジットは悪戦苦闘するのだ。そこにバーニー警部が加わり、ストーリーはスラップスティックな展開をみせる。
映画の場面やセリフ、聖書、または小説の場面、あるいはTVゲームの場面などが頻回に引用され、著者の豊富な知識に圧倒される。さらに饒舌というか多彩で効果的な比喩がそこらじゅうに差し込まれ、ついニンマリさせられる。悲壮感がないところがいい。ノンストップで読み進むことができる。本年の翻訳ミステリ・ベストテン入り間違いなし。
著者のクイーム・マクドネルはアイルランド出身。本書は初の長編で「ダブリン3部作」の1作目だという。本書を発刊したときはコメディアンであった。ダブリンやマンチェスターを舞台としたミステリを中心に描いている。本書は2017年、アイルランドのインディペンデント出版を奨励するCAPアワードの最優秀小説部門にノミネートされた(表紙カバーの著者略歴より抜粋)。→人気ブログランキング
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