キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー
著者のローナン・ファローはウディ・アレンとミア・ファローの息子である。 ローナンはアメリカの3大ネットワークのひとつNBCの雇われ記者として、1952年から続く朝の番組『トゥデイ』に自らも出演し、放送する特集の取材もしていた。その中で、かつてメリル・ストリープが、神様と呼んだこともある大物プロデューサーの性犯罪を調べはじめた。その調査の過程を書いたのが本書である。
ちなみに、タイトルの「キャッチ・アンド・キル(捕まえて殺す)」は、タブロイド業界で使われるフレーズで、もみ消しのためにネタを買い入れることをいう。
キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー 関美和 文藝春秋 2022年4月 493頁 |
ミラマックス社を設立したハーヴェイ・ワインスタインはいつも女性をを狙っていた。周りはワインスタインが女を食い物にしていることを知っていた。以前、何人もの記者がこのネタを追っていたが誰も尻尾を掴めなかったという。しかしなぜそのようなことになるのか。
ワインスタインは女性を金で黙らせ、騒ぎ立てたらキャリアはおしまいだと脅した。ワインスタインは女優志願やモデル志望の女の子たちとミーティングをしょっちゅう行なっていた。ホテルの部屋で、最初は女性重役やアシスタントを同席させ、女の子たちを安心させて、罠にかけていたという。つまり周りが協力していたのだ。有名女優にもそうでない女優にも、会社の事務員にも手を出していた。
「誰もハーヴェイを止められない。今回も握りつぶすでしょうね」というのが、ワインスタインと仕事をした者の声だった。
ワインスタインは、イスラエルの調査会社ブラック・キューブにセクハラ事件の対策を依頼していた。ブラック・キューブはイスラエルの諜報機関に所属していた人物が起こした会社である。そこのスパイたちが、相手を脅したり、警察に手を回したり、ローナンたちを尾行したり、工作活動をしていた。相手に恐怖を感じさせ追いつめるのだ。
ローナンの動きにワインスタイン・サイドが反応し、NBCに調査を止めさせるようにとのプレッシャーがかかり、著者のインスタメッセージに脅迫メールが届くようになる。銃を持つようにと周りから言われもした。
NBCの上層部から、ローナンたちの取材に待ったがかかり、ローナンは番組から降ろされ、解雇された形になった。
ウディ・アレンが7歳の義娘に性的虐待を加えたとミア・ファローが訴えた。アレンは10人の弁護士を雇い、証拠不十分で不起訴となった。アレンはワインスタインにセクハラで訴えられたときの対処法を伝授したという。アレンは、この性スキャンダルの一連の報道の煽りを受けて、ハリウッドを追われることとなった。
ついに、2017年10月、ニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌がワインスタインの狼藉を報道した。報道の後、被害者が次々に名乗りを上げた。
ワインスタインは女優ら30人超と27億で和解し、上告したとはいえ懲役23年が言い渡され、刑務所に収監された。
そして驚いたことに、『トゥデイ』の人気キャスター、マット・ラウアーがワインスタインと同じようなセクハラを行なっていたのだ。疑惑が浮上した2017年11月に、NBCはラウアーを即刻解雇した。
NBC(大企業)は、「ウィキペディアの書き換え屋」を雇って、企業イメージをよくしようとうとしている。まるで、ワインスタイン報道などなかったような書かれ方に修正されていたという。
ニューヨーク・タイムズ紙やニューヨーカー誌の報道により、性スキャンダルが次々に明るみに出たことに連動し、「Me Too運動」につながっていった。著者は、ニューヨーカー誌に投稿した記事で、2018年のピューリッツアー賞を受賞した。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
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