その名を暴け ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー
『ニューヨーク・タイムズ紙』の女性記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが、ミラマックスの創始者でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラと性暴行を調査して、それを記事として公表する過程が描かれている。ドナルド・トランプ、ハーヴェイ・ワインスタイン、ブレッド・カバノー最高裁判所判事の3人の性暴力が主に取り上げられているが、そのなかで最も多くのページが割かれているのは、ワインスタインだ。
その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー 古屋美登里 新潮文庫 2022年5月 603頁 |
2016年、『ニューヨーク・タイムズ』に入社したミーガンが命じられたのは、大統領選の記事を書くこと。トランプは女性に対して性的暴力の常習犯だった。ワシントン・ポスト紙が2005年の「アクセス・ハリウッド」(NBCのエンターテイメント系情報番組)から録音テープを入手した。トランプの「なんだってやれる。あそこを掴むことも…」という録音テープが明るみに出たのだ。
トランプは男同士の与太話(ロッカールーム・トーク)であると弁明したものの、被害を受けた女性が名乗り出て記事になると、トランプは訴えると言い出し、被害者がトランプ支持者の嫌がらせを受けるようになった。
1979年、ミラマックス社を弟ボブと起こしたワインスタインは、ハリウッドで若手の監督や俳優を世に送り出し、アカデミー賞を獲得するような作品をいくつも手掛け、輝かしい実績を残していった。しかし、女性に対する酷い扱いが噂された。2015年、ニューヨーク市警に、イタリア人モデルからワインスタインに体を弄られたとの訴えがあったが、結局起訴されずに終わった。
ワインスタインは訴えられそうになると莫大な示談金を払い、示談書に黙秘義務を明記して被害者を沈黙させた。示談金を払った相手は8人から12人に上ることがわかってきた。
ミラマックス社に勤めていた女子職員が突然辞めるケースがいくつかあった。ワインスタインは、女子職員に対して暴言を吐き性的な要求をしていたのだった。
ジョディとミーガンは、被害者にメールを送り電話をかけ面会して、ワインスタインをの悪行を暴いていった。そして、ついに記事として掲載できるところまでに漕ぎ着けた。
記事を掲載すると通告されたワインスタインの狼狽ぶりが事細かく記載されている。
『ニューヨーク・タイムズ』の記事がネットに公開されると、続いて『ニューヨーカー誌』に、ローナン・ファローの告発記事が掲載された。これらの告発記事によって、『ニューヨー・タイムズ』をはじめ他の報道機関に、性的虐待を受けたという女性の告白が殺到した。ウェートレス、バレエ・ダンサー、家政婦やベビーシッターといった家庭内労働者、工場労働者、グーグルの従業員、モデル、看守などが声を上げた。そして#MeeToo 運動につながっていった。大物政治家や有名テレビ司会者、有名シェフ、コメディアンなど次々に告発され消えていった。
2020年3月、ワインスタインはニューヨーク最高裁判所にて禁錮23年の判決をけた
2018年9月、トランプ大統領が最高裁判事候補に任命したブレッド・カバノー判事が最高裁判所判事の候補になったとき、クリスチャン・ブレイジー・フォードは名乗り出ようと思った。高校生のときにレイプされかけたのだ。その後フォードはスタンフォード大学の心理学の教授となったが、PTSDに悩まされている。
しかし迂闊に名乗りを上げれば、共和党の猛攻撃を喰らうことになる。カバノーには他にも女性虐待を加えていたはずだとフォードの弁護団は推測していた。ところが、ひとりも被害者を見つけ出すことができなかった。フォードは告発するかどうかの選択に迫られた。公聴会の前に公開することはなかった。
ところが、公聴会の4日前にふたりがカバノーに性的虐待を受けたと名乗り出たが、結局、上院の採決で賛成50:反対48で、カバノーは最高裁判事になった。
最後の章では、本書に登場した被害者のうち12人が、カリフォルニア州の女優グウィネス・バルトローの自宅に集まり、集団インタビューが行われた。女優のアシュレイ・ジャド、トランプタワーで働いていたときにトランプに突然キスされた女性、ミラマックスのロンドン支社でワインスタインのアシスタントをしていたローラ・マッデン、同僚のゼルダ・パーキンス、マクドナルドの従業員、フォード教授など、そして弁護士たちが集まった。
本書を原作として、マリア・シュラダー監督が指揮をとり、レベッカ・レンキュビチ脚本で、ミーガンをキャリー・マリガン、ジョディをゾーイ・カザンが演じて映画化され、2022年11月に全米で公開予定である。→人気ブログランキング
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キャッチ・アンド・キル/ローナン・ファロー/関美和/文藝春秋/2022年4月
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