教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネスー50の麺論 青木健
ラーメン学が存在するとすれば、本書は教科書となりうる内容の本だ。
各項の長目のタイトルには著者の独自の鋭い視点がある。大胆な自説を披露していて、それが魅力である。
ラーメンフリークには物足りない本であると前置きがあり、ラーメンの気楽な入門書の位置づけであると著者はいう。
教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネスー50の麺論 青木健 光文社 2022年1月 189頁 |
「ラーメンは体育会系、カレーは文化系」としている。その理由は、ラーメン店はライバルと切磋琢磨して進歩していく。カレー店は内装や接客、ユニフォームでも独自路線を歩むことだという指摘は、納得できて面白い。
基本的な間違いを指摘する。79ページの「東北地方の直江津のかけ中華」とあるが、直江津は東北地方ではなく新潟県の南、北陸地方に限りなく近いが 、甲信越地方である。
「日本ラーメン進化樹形図」には、関東圏を中心としたラーメン店の系譜がコンパクトにまとめられている。似た樹形図はのよく見かける。どの樹形図もそうであるが、土佐っ子や香月から、背脂ラーメンが自然発生的に生まれたかのように描かれている。これは時系列からみて不適当である。背脂がスープの表面を覆う背脂ラーメンの嚆矢は、麺の太さが違うとはいえ、新潟県燕市の杭州飯店にすべきである。1955年ごろに背脂ラーメンはすでに生まれている。土佐っ子は、ざるを使って背脂を丼のラーメンの上にふりかける大胆なパフォーマンンスで有名になった。土佐っ子がちゃっちゃラーメンを提供したのは2000年代になってからのことである。
他のラーメンに関する本も同じだが、半熟煮卵を語るときに京都の老舗料亭の名物である瓢亭卵を無視してはいけない。ラーメン界では「ちばき」が半熟煮卵を創始したとしているが、食の世界全体に目をやれば、瓢亭卵からヒントを得て半熟煮卵が生まれたのは間違いない。瓢亭卵に触れないのは正統ではないだろう。
〈麺を「どんぶりのどこから抜くか」で味が変わる。すべての料理同様「そのラーメン」をより美味しくさせる食べ方はある〉というタイトルの項がある。
胡椒がついたメンマの付近の麺を抜けば胡椒の味がする。鶏油の付近に箸を突っ込み麺を抜けば鶏油の味がする。確かにその通りだ。
できれば、胡椒のついたメンマが入っているラーメンやスープの表面が鶏油に覆われたラーメンを、美味しくさせる食べ方を、著者の極意を披露してほしかった。
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