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2022年9月 1日 (木)

第三次世界大戦はもう始まっている エマニュアル・トッド

著者は、フランスの歴史人口学者・家族人類学。国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論により、『最後の転落』(76年)でソ連崩壊を、『帝国以後』(2002年)で「米国金融危機」を、『文明の接近』(07年)で「アラブの春」を、さらにはトランプ勝利、英国EU離脱なども次々に“予言”。著書に『エマニュエル・ドットの思考地図』(筑摩書房)、『「ドイツ帝国」が世界を破壊させる』『シャルリとは誰か?』『問題は英国ではない、EUなのだ』『老人支配国家 日本の危機』(いずれも文春新書)など。(表紙カバーより抜粋)
とくに、『帝国以後』は世界的ベストセラーになった。

ウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなくアメリカとNATOにある。事実上、米露の軍事衝突が始まり「世界大戦化」してしまった以上、戦争は容易には終わらない。ロシア経済よりも西側経済の脆さが露呈してくるだろう。というのが、本書の主旨。
Photo_20220901083401第三次世界大戦はもう始まっている 
エマニュアル・トッド/大野舞 
文春新書 
2022年6月 206頁

シカゴ大学教授の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーは「戦争の責任は米国とNATOにある」と言っている。ウクライナは事実上もはやNATOだった。ドイツが統一された1990年、ソ連に対してNATOは東方に拡大しないと約束した。ところが、1999年、ポーランド、ハンガリー、2004年、ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニアがNATOに加盟した。ロシアは2度譲歩したのである。 ところが、2008年には、ブカレストでのNATO首脳会議で、ウクライナとジョージアを将来NATOに組み込むと宣言された。直後、プーチンは「ジョージアとウクライナのNATO入りは絶対許さない」と警告し、デッドラインを明確に示した。
そして2014年、ウクライナで民主的手続きによらず、親EU派によって親露派のヤヌコビッチ政権が倒された(ユーロマイダン革命)。これを受けてロシアはクリミアを編入し親露派が東部ドンバス地方を実効支配した。そして米国と英国はウクライナを武装化した。ロシアは日増しに強くなるウクライナ軍を見過ごすことができなかった。

ロシアのウクライナ侵攻当初、プーチンが盛んに口にしていた「ネオナチ」という言葉は、それなりに理由があった。マウリポリの街が、ロシア軍によって見せしめのように攻撃されたのは理由がある。ネオナチの極右勢力「アゾフ大隊」の発祥の地であるからだ。
(「アゾフ大隊」は、2014年に白人至上主義極右思想の民兵組織として発足し、外国人義勇兵も加わった。「アゾフ大隊」はウクライナ内務省傘下にある。部隊章はナチスを彷彿とさせる文様を採用していた。
ミアシャイマーは、この戦いはロシアにとって「生存」をかけた戦いであるから、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利すると述べている。
一方、米国にとっても死活問題である。ウクライナが負ければ米国の威信は失墜する。この意味で、つまり、第三次世界大戦はすでに始まっている。

地政学から見ると、広義のロシアすなわち「スラブ」の核心部は、ロシア(大ロシア)、ベラルーシ(白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)からなる。ソ連が成立した1922年以前にウクライナもベラルーシも国家として存在したことは一度もない。ソ連時代に人工的に作られた国境はそのまま尊重される結果となった。プーチンがソ連崩壊を、「20世紀最大の地政学的大惨事」と呼ぶのはこの意味である。

ソ連崩壊後、1990年から1997年までの間、ロシアではアメリカ人顧問の力を借りて、経済の自由化が推進されたが、新自由主義の荒波にさらされ、経済と国家が破綻させただけだった。プーチンが出てきて経済を立ち直らせたのである。

ウクライナ侵攻が始まると、イギリスとアメリカの軍事顧問団はポーランドに逃げてしまった。今後この裏切りに対してウクライナ人の反米感情が高まる可能性がある。
アメリカは常に戦争を行ってきた国である。しかし、相手は小国だった。ベトナムにイラクにしろアフガニスタンにしろシリアにしろ、しか今回は違う大国ロシアだ。

この戦争は、アメリカとイギリスの支援によって続けられている旧ソ連の内戦なのである。問題は、ウクライナを盾にロシアと戦ったアメリカとイギリスに、ウクライナが裏切られたという感情を持つかどうかである。

プーチンとその取り巻きであるオルガルヒに制裁を加えるのは無意味だという。ロシアは中央集権国家である。ロシアは国をコントロールするのは国家なのだ。超富豪が国をコントロールしているのは、むしろアメリカやドイツ、フランスである。本来必要な交渉を困難にし戦争を深刻化させるばかりで、無責任であるとする。

消耗戦になると経済面が重要になってくる。
中国にとってロシアを支援しないという選択肢はない。中国はロシアを当然支援する。
経済制裁でロシアがどれだけ耐えられるのかばかりが議論されているが、アメリカと西側諸国がどれほど耐えうるのかを問われなければならない。

そもそもヨーロッパはロシアと協調しなければやってゆけない。
最も不確実なのがアメリカ。同盟国である日本はアメリカの危うさが日本にとっての最大のリスクである。日本は核を持つべきだ。核を持つと国家として自立する。
ベネゼイラに対するアメリカの石油輸入禁止の撤回を見て、こんな身勝手な国に自国の運命をよいのかと。

核共有も核の傘も幻想に過ぎない。
中国や北朝鮮にアメリカ本土を核攻撃する能力があれば、アメリカが自国の核を使って日本を守ることは絶対あり得ない。自国で核を保有するのかしないのか、それしか選択肢はない。
北朝鮮、中国が核保有国になるなかで、日本が核保有国にになることは地域の安定につながる。

この戦争で明らかになったこと。
ロシアはウクライナをあっという間に潰してしまうだろうと思われていたが、ロシア軍は強力でも優秀でもなかった。ましてや西欧にとってロシア軍は脅威ではないことがわかった。
ロシアは経済制裁により弱体化するだろうと思われていたが、ルーブルは価値を持ち直した。プーチンの支持率は上昇し80%に達している。

ジャベリンなど携帯式対戦車ミサイルによって戦車の弱点が明らかになり、戦車は時代遅れの兵器であることが明らかになった。
空母ロシアが撃沈されたことで、アメリカは空母という時代遅れの兵器を抱えていることが問題となる。中国が台湾に侵攻した場合、空母が時代遅れの兵器と判明した以上、アメリカは台湾を守れないし守らないだろうという。

NATOにはドイツとフランスが入っていない。ウクライナがここまで戦争の準備をしているとは知らされていなかった。NATOはアメリカ、イギリス、ポーランド、ウクライナとスウェーデンから成り立っている。

ロシアには中国がついている。長引いた場合アメリカは兵器の生産を続けられるか。ヨーロッパは、インフレに耐えられるか。
この戦争は始まったばかりで、ロシア経済は想像以上に安定しているのに対して、ヨーロッパ経済は想像以上に脆弱であることが判明しつつある。

ロシアは高等教育が充実している。ロシアは高等教育の学位取得者のうちエンジニアが占める割合は、アメリカが7.2%、ロシアは23.4%(日本18.6%、韓国20.5%、ドイツ24.2%、イギリス8.9%)。このエンジニア不足をアメリカは他国からの輸入でまかなっている。その多くが中国人である。安全保障上の問題ではないのか。
もしロシアの経済力をルーブルではなくエンジニアで測るとすれば、経済制裁に耐えられるのではないか。
経済の真の柔軟性とは金融システムや金融商品を開発する能力にではなく、産業活動の再編成を可能にするような、エンジニア、技術者、熟練労働者にこそ存しているのではないか。
そうした面から見ると、ロシアはこの戦争が長期化した場合耐えられるだろうが、西側諸国は耐えられるかどうか甚だ疑問が残る。→人気ブログランキング
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